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第42話 ビオラ・ビスコンティ

「ちょっと、あんたたち手伝って!」


リリ婆ちゃんの大きな声が突然、川原の土手から聞こえてくる。


「お袋?何やってんだよ。

……え?マジ?親父まで」


蒼さんのその言葉に狩野ですら驚いている。


「え?モブさん骨折で入院してるんじゃなかったのか?」


狩野の言うことは正しい。

モブ爺ちゃんはまだ入院しているはずなんだ。


「車椅子で来てる……」


俺はにこにこで手を振りこちらにアピールをしているリリ婆ちゃんと

何か諦めた様子のモブ爺ちゃんを見て

なんとなく察してしまった。

婆ちゃん……また何か無理言ったんだろうなぁ。


「おい、若いもん。誰か車椅子に乗った宮司さんをここまで連れてきてくれ」


岩佐さんの一言に

狩野や観光課の職員と一緒に、俺は土手まで走った。

車椅子に乗った爺ちゃんを連れ

本部テントまでの段差などを越えたりしている間に、リリ婆ちゃんに聞いてみた。


「病院から連れ出して大丈夫なの?」


まだ骨折をしてそんなに経っていない。

爺ちゃんの歳のことも考えると

そんなに簡単に外出許可が下りるとは思えないんだが。


「わたしが病院に頼み込んで、特別に外出許可を貰ってきたの。

宮司なき例大祭なんてこれほど不運なことないわ。

それに『最期』の花火大会くらい見せてあげたいって頼み込んだのよ」


俺はその言葉に違和感を覚え


「……今の『さいご』って漢字違くなかった?」


と聞いてみる。


「何言ってるの?

話してて漢字なんて見えるわけないじゃない。気のせいよ」


まぁ…そうか。

と納得しかけた時、


「お袋は、たぶんお医者さんに

『最期の花火大会になるかもしれない』とか言ったんだと思う」


蒼さんがいつの間にか俺の後ろに立ち

そう告げる。


「蒼、なんでわかるの?」


リリ婆ちゃんは、少しだけ驚いた表情を見せた。


「やっぱり……つまり病院側に泣き落としで許可を出させたということか。

 どうせ、『息子が帰って来たから宮司としての最期の行事なんです!』

 とか言ったんだろ?」


蒼さんは大きく溜め息を吐き、項垂れている。


「ふふふ、半分正解!

 正確にはそれに加えて

 『なんなら宮司くらいしか取り柄がないこの人から

宮司がなくなったら何も残らず、死んだも同然なんです!』よ!!」


うわぁ…きっつぅ…

女ってみんな、女優なんだなぁ……

怖いわぁ……俺も気を付けよ。

ビオラは…きっと違うと信じよう。うん。


そして無事にモブ爺ちゃんが乗った車いすは本部テントまで運ばれてきた。

ビオラがすぐさま駆けつけてリリ婆ちゃんとモブ爺ちゃんに挨拶をする。


「こんばんは、おじい様、おばあ様。お怪我は大丈夫ですか?」


ビオラの優しい言葉かけに

モブ爺ちゃんも心地良いのか

表情を和らげて言葉を返す。


「ビオラちゃん、心配かけたね。

まぁ、まだ痛むが、みんなの顔を見たら痛みも忘れたよ。

それにしても、みんなよくやったな。

正直に言うと、あの嵐じゃ、今回の例大祭や花火大会は無理だと思っていたよ」


爺ちゃんにしてはいつもより少し弱気な発言に感じた。

怪我をして何も出来なかった分

ナイーブになっているのかもしれない。


「何言ってるの、私たちの子や孫ですもの。

どんな困難があっても乗り越えていく力があって当然でしょう?」


リリ婆ちゃんは変わらずの態度で、胸を張り笑って見せる。


「そうかもしれないね

ここに居る誰もが開催を願い、その願いが不可能を可能にした。

俺はその波にただ揺られて動いていただけで、何もしていない。

みんなの思いがあったからこそ乗り越えられたんだ」


本当にみんながいなかったら

開催は出来なかっただろう。

一人一人が自分の役割を全うし

心から願ったからこそ、この結果に繋がったんだと思う


「紫音……」


モブ爺ちゃんの目が潤む。


「紫音は強くなったと思います」


ビオラがモブ爺ちゃんに告げる。


「蒼さんともだんだん仲良くなっていたし、

いろんな壁を乗り越えていつの間にか強くなって……

わたくしなんか置いてけぼりに……」


「あああぁーーーー!!!」


ビオラの言葉にかぶせるようにリリ婆ちゃんが叫ぶ。

何だよ、一番盛り上がる良いとこなのに。


「あなた、どこかで見たことあると思ったら……今思い出したわ。

ビオラさんの苗字聞かせていただいても?」


ビオラはたくさんのはてなマークを頭に浮かべつつ答える。


「ヴィスコンティ。

わたくしはビオラ・ヴィスコンティですわ」


名前を聞き、確信を得た表情になるリリ婆ちゃん。


「ここまで顔立ちが似ていて、どうして気が付かなかったのかしら。

ヴィスコンティといったら、

わたしの元婚約者で、それを奪った妹が嫁いだ先じゃないの。」


なんだこの展開は……

母さんからヴィスコンティ家のことは教えてもらっていたが、

リリ婆ちゃんの婚約者を奪った妹がいるなんて、そこまでは聞いてないぞ。

まるで悪役令嬢じゃないか。

つまり、母さんが言っていた血のつながりとは、リリ婆ちゃんの妹は悪役令嬢で

その悪役令嬢の孫がビオラ・ビスコンティ。

そういう理解であってる?


「爺ちゃんは、知ってたんじゃないの!?」


俺は慌てて爺ちゃんに問いただす。


「昔、リリアンが婚約破棄された話は聞いたことがあるが、

どこの侯爵かなんて興味なかったしなぁ」


モブ爺ちゃん……平和すぎる。

本当に興味なかったんだろうなぁ。


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