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第3話 門外不出秘伝の古文書よりも衝撃的


日が落ちると、田植えが終わった田んぼからカエルの合唱が聞こえてくる。

ゲッゲッゲッ・・・・クワックワックワッ

モブ爺ちゃんと男二人だけの質素な夕食を終えて、俺は縁側で寝転がりながら満月を見上げていた。

小さな庭の草むらからは、

リーン リーン リーン

鈴虫の澄んだ声が聞こえてくる。

都会に行ったことはないけど、きっと都会の人は田舎の夜は静かだと勘違いしているかもしれない。

ところが、想像しているより田舎の夜は静かではない。いろんな生き物の鳴き声で溢れているのだ。


「紫音、今日は氏子総代の岩佐さんが来て、おみやげにプリンもらったぞ」


「ひゃっほー! ラッキー」


めずらしくモブ爺ちゃんは、お盆にプリンを一個乗せて持ってきてくれた。


「なんだか、今日はサービスいいね。さては何かお願い事でもあるの?」


モブ爺ちゃんはコホンとひとつ咳払いをした。

これはなにか重大な話がある時の癖だ。

そういえばさっき、夕食後に話があると言われたことを思い出した。

俺は受け取ったプリンをそっとお盆の上に戻し、姿勢を真っ直ぐにして正座した。

そして、じっとモブ爺ちゃんの顔を見つめた。

モブ爺ちゃんと俺が縁側で真剣に顔を見つめあっていると、カエルの大合唱がやけにうるさい。


クワックワックワッ・・・・クワックワックワッ・・・・


「古文書の話だが、廃村になった神社で見つけたというのは嘘だ」


「それはさっき聞きました。まさか、爺ちゃん自分が言ったこと忘れたんじゃあ・・・」


「黙って聞け。・・・・えっと、どこまで話したかな」


やっぱり忘れているじゃないか。


「『実はこの神社に昔からあった。わしだけ知っていてずっと秘密にしていた。誰にも言うな』までです。

それから、斉木家に伝わる門外不出の秘伝書だとも言っていました」


「ああ、そうそう・・・」


「爺ちゃん、大丈夫ですか」


「何が。大丈夫に決まっているだろ」


本当かよとツッコミを入れたいところを俺は必死に我慢した。


リーン リーン リーン・・・・


「古文書は代々この神社に伝わっている物だ。爺ちゃんが先代の宮司から引き継いだもので三十二巻から構成されている。

歴史書、祝詞、言霊、数霊、呪術、預言の書と分かれている。」


「なんだかたいそうな代物ですね。それなら、そう言えばいいのに、どうして嘘を?」


「代々伝わる門外不出の秘伝の古文書だ。

爺ちゃんがこの神社の先代から引き継いだときは、まだ若くてよく意味が理解できなかった。

何十年もかかって解読して、未来に起こる災難や危機は外れるようにと必死に神様に祈ってきた。

そして、こんな災難はむしろ知らない方が幸せかもしれないと誰にも明かさずに黙ってきたんだ。

だが、爺ちゃんひとりでは限界がある」


むしろ知らない方が幸せというのは、どれだけ大きな災難が起きるのだろう。


「そこでだ、紫音。預言されている災難を回避するため、異世界との結界を解くことにした。どうしても協力してくれる者が必要なんだ。」


異世界からどんな協力者を呼べば、モブ爺ちゃんの言う災難が回避できるのか俺にはさっぱり理解できない。

偉大な勇者か、強力な魔法使いか。

友人の狩野には遊びじゃないんだと威張ってた俺も、ゲームの世界を想像してちょっとだけワクワクしてきた。

我ながら不謹慎だとは思う。

しかし、異世界から召喚する儀式に立ち会える権利があるなんて超ラッキーなことだ。

今までモブ爺ちゃんの厳しい鍛錬に耐えてきた甲斐があった。

神主の孫に生まれてきてよかったと、喜びを嚙み締めている自分がいる。

まだ見習いだけど。


「紫音、辛いかもしれないが、頑張ってくれ」


「ぜーんぜん問題ありません。平気です。それに俺はまだ見習いだから、そんなに辛いことなんてないと思います」


「いつまで見習いのつもりでいるんだ」


「え? だって俺まだ高校生ですから資格はとれません」


「そうか、そうだったな」


「それに、爺ちゃんみたいに神通力とかもありません・・・」


「お前は、自分が弱いと思っているのか」


「爺ちゃんに鍛えられたおかげで、武術ならそれなりに得意だけど、神通力って全然持ってないみたい。

『お前は修行が足りない』と、爺ちゃんによくいわれるけど、本当にその通りで」


「紫音、これからは見習いであってものんきに構えていられないかもしれない」


「それは、どうして?」


「明日召喚する人物なんだが、実は異世界に行っている・・・・・・爺ちゃんの息子を呼び戻すつもりだ」


あまりに突飛なことを言われて、俺は講義スタイルだということが頭からスポーンと抜けてしまった。


「なあーんだ、爺ちゃんの息子かぁ・・・ちょっ、待って、それって・・・」


「お前の父さんだ」


俺は父さんに会ったことがない。

物心ついた頃には、モブ爺ちゃんとリリ婆ちゃんが親のようになって俺を育ててくれていた。

それをいきなり異世界から父さんを呼ぶとか言われ、あまりにぶっ飛んだ話に脳がついていけなくでバグるんですけど。

それって家に古文書があった話よりも、百倍衝撃的な話じゃないか。

モブ爺ちゃんの話の重要度の基準ってどこにあるの。


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