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第2話 ヒグラシ鳴く白滝神社

カナカナカナカナ・・・・・・


「あ、もう蝉が鳴いてる」


「ヒグラシか」


「狩野、お前が行かなくて予選会はどうするんだよ」


「予選ぐらい俺がいなくても勝つだろ」


「それじゃ、俺が行かなくても勝つということじゃないか。意味わかんねぇー」


「野球よりも、氏子として斉木の神社をサポートするほうが俺にとって大事な仕事なんだ」


「とか何とか言って、異世界から召喚する事に興味深々なんだろ」


「まぁ、興味はないと言ったら噓になるな。どんな人物を呼ぶのだろう。見てみたいじゃん」


「神聖な儀式に狩野が立ち会えるわけないだろ。興味本位で来るなよ」


「じゃあさ、写メくらい送ってくれよ」


氏子としてのなんちゃらはどこへ行ったのか、完全に興味本位じゃないか。


「お前な・・・召喚の儀って、どれほど神聖かつ重要な儀式かわかっているのか?」


「知らん。じゃあ、斉木はわかっているのか?」


その時、鳥居の向こう、境内へ続く石段の方から声がした。


「紫音も知らないさ」


声のした方を見ると、モブ爺ちゃんが白衣に紫の袴姿で立っていた。

あわてて俺たちは起き上がって、礼をした。


「爺ちゃん、ただいま。」


「モブさん、ただいま」


「お前まで、モブって呼ぶなよ。宮司さんと呼べよ。それにここは狩野の家じゃないし」


「あ、モブ宮司さん・・・って、呼びにくくね?」


「だから、つけるなよモブって」


モブ爺ちゃんは笑いながら


「かまわないよ。ところで召喚の儀だが、わたしと紫音でやるから、立ち合いはいらないよ」


「そうですか。残念です」


宮司に言われたらしかたがない、狩野は素直にあきらめた。


「それより、週末は召喚の儀のあと軽くみんなと食事をしたいから、狩野君も手伝ってくれると嬉しいのだが」


「あ、行きます。俺も行きます。母ちゃんと必ず行きます」


狩野は張り切っているが、大丈夫なのだろうか。

だいたい食事と言うが、異世界から来る人の口に合う食事って何を用意するのだろう。


「モブさん、お食事って、やっぱヨーロッパ風にするんですかね?」


「そうだな。・・・・塩むすびがいいな。あと漬物とみそ汁」


「はぁ? 爺ちゃん、塩むすびって、それは純和風すぎない? 異世界から来る人が塩むすびって食べるのかな」


「紫音、今までわたしが間違えたことがあるか?」


そう言われて、俺は自分の記憶を辿ってみた。

モブ爺ちゃんが今まで間違えたこと・・・・・・・・・・・


「うん、かなりあるね」


「おい、斉木。ここは無いって答えるんだよ」


「俺は嘘をつけない」


そんな俺たちをモブ爺ちゃんはニコニコしながら見て言った。


「紫音はまっすぐな性格だな。一汁一菜いちじゅういっさいで十分かと思うが・・・

わかった、じゃあ念のために保険をかけておこうか。サンドイッチもよろしく頼む」


「塩むすびと漬物とみそ汁、それとサンドイッチですね。母ちゃんに伝えておきます。あと、フライドポテトはいかがでしょうか」


「狩野、お楽しみ会じゃないんだ。調子に乗るな」


「狩野君、いいねえ! ジャガイモも野菜だ。ポテトもつけてくれ。おもてなしは大切だ」


「爺ちゃんまで!」


「紫音、今週末はお前にとって、忘れられない日になるだろう。狩野君と一緒に楽しむくらいでちょうどいい」


忘れられない日を楽しむって、意味不明なのだが。

七五三じゃあるまいし。


「じゃ、俺さっそく母ちゃんに伝えに行きます。姉ちゃんも呼んで手伝ってもらっていいですか?」


「ああ、ぜひ手伝ってほしい。異世界から召喚した人を氏子の皆さんと一緒に歓迎しようじゃないか」


「ありがとうございます。斉木、いつ見てもモブさんって若いよな」


「うちは代々早婚だからじゃないかな。早く結婚すれば孫が出来てもまだ六十歳代だからね。俺も高校卒業したらさっさと嫁さんをみつけようかな」


「紫音はまだ早い。嫁より修行だ」


「ハハハハハ、斉木、怒られてやんの。嫁より修行だとさ」


「うるさい。狩野だって女の子にキャーキャー言われたいとか言ってなかったっけ」


「じゃあな、斉木。また明日」


「逃げるな狩野。明日は覚えてろよ」


「へへーんだ」


狩野が自転車をこいで帰って行く後ろ姿をしばらく見届けて、俺は自転車を押しながら一の鳥居をくぐった。

ここからはしばらく石段を登っていくことになる。

俺の鍛錬ルートは一の鳥居がゴールではないのだ。

境内の西端にある自宅までこの石段を登りきる。そこまで鍛錬は続いている。


「爺ちゃん、聞いていい?」


「何だ」


「古文書って、廃村になった神社で見つけたって言ってたけど、それってどこの村?」


「そんな事言ったかな」


「言ったよ。とぼけないでよ」


「うーーん、記憶が定かじゃないな。しょうがない、本当のことを言うか」


カナカナカナカナ・・・・・


「古文書の件だがな、実はこの神社に昔からあった。わたしだけ知っていてずっと秘密にしていたんだ。誰にも言うな」


「本当に? ひょっとしてそれは、斉木家に伝わる門外不出の秘伝書という意味?」


「まあ、そういうことだ。夕飯を食べたらそれについて話そう」


モブ爺ちゃんが夕食後に話そうと言うときは、たいてい何かある。

そういう時は雑談ではなく、きちんと姿勢を正して聞かなければならない内容だ。

今夜は、長い講義スタイルになる可能性が高い。

俺は聞かなければよかったと、激しく後悔した。


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