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第17話 掃除は神主の重要な仕事

蒼さんは俺の母さんを亡くして、一晩中泣きはらしたという。

母さんの後を追おうと思い立ち、残ったみそ汁を全部飲み干した。

それでも、日本人だからか、それとも持って生まれた力のせいなのか、川の毒に蒼さんの体はちっとも反応しなかったと。

そんな悲劇を経験した蒼さんは、毎朝俺が作るみそ汁を一体どんな気持ちで飲んでいたのだろう。


病院から家に帰ってくると、クロードがリビングのソファーでテレビを見ながらくつろいでいた。


「おう、おかえり」


なんでクロードが家でテレビ見てるんだ。

病院で蒼さんから壮絶な過去を聞かされ感傷的になっている俺のハートに、こいつはグーパンをくらわしやがった。

ビオラだって俺と同じ気分だろう。


「あら、クロード仕事はどうしたの?」


「人には得手不得手というのがあるようで、俺はどうもあの仕事は合わない。すまん、半鬼にも不得手があるの言い間違いだった」


「まさか喧嘩して辞めてきたんじゃないでしょうね」


「そんなことしませんよ。ちゃんと総代の岩佐さんに謝って介護の仕事は辞めさせてもらいました」


先日、ビオラと老人福祉施設にこっそりのぞきに行ったとき、確かにクロードの居場所はなかった。

クロードの気持ちをビオラは察してか、それ以上責めることはしない。


「紫音、退院おめでとう。びっくりしたぜ、救急車で病院に運ばれたと聞いて。

あれ、どうした。まだどこか痛むのか。なんだか元気ないなあ」


「いろいろあって、紫音は疲れているのよ。今はそっとしておいてさしあげて」


「いろいろあったのか。よくわかりませんが、こういうときは一杯ひっかけるに限りますよ」


「何バカなこと言ってるの。未成年は飲酒してはいけません」


確かにクロードの言うことには一理ある。

弱った心にクロードのグーパンを受けて俺は目が覚めた。

俺は真っすぐに台所へ行き、冷蔵庫から牛乳を取り出し一気飲みした。


「くー、うまい・・・・生き返った」


トレーナーの袖で口を拭き、今度は玄関へとUターン、そのまま外に出ようとスニーカーを履いた。


「どこに行くの?紫音」


「ちょっと、境内を掃除してくる」


「退院してきたばかりで掃除なんて。今は休むべきだわ」


「いや、休んでばかりいると余計なことを考えてしまう。気持ちの整理をするために境内を掃除したいんだ」


神主の仕事は、一に掃除、二に掃除、三四が無くて五に掃除だ。

あの様子では蒼さんの退院はまだまだ先だろう。

ここで俺まで臥せってしまったら、モブ爺ちゃんに負担をかけてしまう。

俺が蒼さんだったらどうするだろうかと考えてみた。

そして、母さんがここにいたら何て言うだろうか。


ごみを箒で掃き清める、塵取りで集めて捨てる。

またごみを箒で掃き清める、塵取りで集めて捨てる。

それを繰り返していくうちに、心の中のごみも掃き清められ、塵も捨てられる気がした。


普通の人は神主の仕事はご祈祷やお祓いだと思っているかもしれないが、それだけではない。

むしろ掃除がメインの仕事といっても過言ではない。

参拝する方に清らかな気持ちになってもらい、境内を美しく保つというのは神主の重要な仕事なのだ。

俺はそんな神主の仕事が好きなのかもしれない。

そういう仕事が出来る環境に生まれ育ったことを、俺はありがたいと思った。


「紫音、わたしたちも手伝いますわ」


「どうせ暇なんで、掃除くらい手伝いますよ」


ビオラとクロードが来てくれた。


「よかった。じゃ、欅の木のあたりと神楽殿の周りを頼んでいいかな」


「お安い御用で」


三人でやったら早く終わりそうだ。俺たちは黙々と掃除を続けた。

ふと見ると、参道横の石灯篭が倒れたままになっている。

直そうかと持ち上げようとしたが、かなりの重さがある。これでは、たとえ持ち上げられても積み上げるのは難しい。

これを積み直すには業者に頼まないと無理かもしれない。


「欅の下の掃除おわりましたぜ。おや、石灯篭が倒れたままになっている」


そう言って、クロードは石灯篭の一部を持ち上げようとしたから、俺は慌てて止めた。


「よせ、かなり重いぞ。腰を痛める」


と言ったとき、すでに石はひょいとクロードの肩に乗っかっていた。


「おい、大丈夫か」


「順番を教えてくれ。どれが一番下でどれが上になるのか、順番ですよ」


凄い力だ。呆気に取られていると


「早く! 順番を教えてくれ!」


はっと我に返り俺はクロードに石灯篭の順番を指示した。

さっきまで倒れていた石灯篭がみるみると元の姿に積みあがっていく。


「凄い・・・・・・クロードは凄い」


「半鬼ですから、こんなことくらいしか役にたちません」


「そんなことないよ、これは自慢していいレベルだ。俺だったら自慢する。もっと自信持っていいんじゃね?」


「そうか?」


「そうだよ。いいよなあ、俺も君みたいに強くなりたいなあ」


「男に憧れられてもな、・・・・」


ちょうど遠くの方からビオラが歩いているのが見えた。

男に憧れてもダメなら、お嬢様に褒められればテンション爆上がりになるに違いない。


「おーい、ビオラ。こっちに来てみてくれよ」


「どうしたのー?」


ビオラがこっちに向かって走って来た。


「見てくれよこれ。凄いと思わないか。誰がやったと思う? この石灯篭、クロードが直したんだよ」


「・・・・で?」


「で・・・・って、凄くないか?」


「クロードなら別に驚かないわね。普通だわ」


もう少し驚くとかなんとか無いのか? リアクションが薄すぎだろ。


「半鬼が石を積み上げるなんて、別に凄いことでも何でもないわ。

問題はどれだけ心を込めて行ったかよ。

ここは神聖な場所なんでしょ。

『参道に石灯篭を置かせていただきます。神様、どうぞ安心してお歩きください』って、祈ったの? 

それがなければただ石を積んだだけにすぎない」


ズバッと切り込まれてクロードはへこんだ。

と思ったが、


「おっしゃる通りです、お嬢様。俺には祈りが足りませんでした!」


クロードはビオラに土下座して謝っている。

ビオラって、もしかしてラスボスなのか。


「そんなことより、お爺様に紫音を呼んで来てほしいって頼まれましたの。むこうの祠があるところで」


モブ爺ちゃんは祠の周りを掃除していたのか。

祠の掃除を手伝えとでも言うのかな。


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