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0日目「未来を明るく照らすには」

本編をご鑑賞する前に、必ず下記をお読みくださるようお願いします。

*用語解説:「マグア」(魔具合)・・・生物を蝕む実質、治療不可能な難病の事を楽園語で表した言葉


ーーー「翼が無くても」

時間とは変化であり、変化こそが時間である。

その場所は、社会を覆う「変化」から身を匿うための場所と言われていた。

   

ここは小さな箱庭。迷える子羊の赴く安らぎの楽園

今日もまた時計の針が12時をさす頃、白子鳩が一日の終わりを告げるように鳴り響いた。


楽園にはお姫様が居た。景色を透き通す程に透明なドレスに身を包み、足まで伸びた長い髪を靡かせ、中心に聳える噴水の近くにあるベンチへと足を進める。

お嬢様はそのベンチに腰掛けながら、日の変わりを眺めていた。


ここは、世界中の生物たちが一つに集まる場所。

空間や時間の多元な要素で出来ている。

本来ならば、朝に泣く鳩の鳴き声も、

ここでは深夜に鳴く。

本来ならば、15時のお茶の時間も、

ここでは3時にある。

時の流れを忘れ、忘却の黄昏に身を預けているうちに来訪者が姿を現した。

その瞬間が、今日という一日の始まりだ。


「来たね」来訪者に背を向け

(気づいた)という既読感覚で話しかける。

おとなしげに微笑む長身な男は、口を開いた。

「若者を連れてきた。ワケアリのようだ」

そう淡々と口を紡ぐ彼に、私は一言を返す。

「ご苦労様」と


彼が連れてきたものとは、魂をなくした人形。

所謂マネキンのような形をした代物。

人の形をする癖をして、そこに命はない。

ただ(呼吸)の一脈を打つこともなく機能を停止させた姿

噴水には度々、捨てられた命と肉体が魂のない灰色の人形となり、黒鳩が連れてくる。

なぜ、連れてこようとするのか。()()に対しての慈悲か、愉悦か

私には理解のし得ない黒鳩の思想も、私が彼を信頼している何よりの証拠だった。


私はその人形を抱き上げ

噴水の近くへと持って行く。


それを噴水柱の上へと掲げた。

水中の中で、ゆらゆら揺らめく彼の姿。繰り返し歪みを起こし、彼に纏わりつく()()()を露わにする。そうして見えたものは、彼の周りを取り囲む魔の具合。

人々の言葉で表すならば病みか、心の癌と言ったところだ。そこで確信した。

「間違いない。この子は‘’マグア“だよ

 まだこんなにも若いのに。」


(可哀想だ)と言う言葉は無粋だと感じ、

紡ぐ言葉を噤いだ。


まず、彼の体を一望するに

衣服のポケットの中に、何か入っていることが確認できる。

私はそれをそっと取り出すと、「赤い糸」のようなものだった

私はこれを知っている。どこで見たのかはっきりとは覚えて居ないが

「黒鳩、これが何かわかるかい?」そう聞くと

「これは、結び目の神様と呼ぶものだ。君にはこれがただの糸にみえるかもしれないが

おそらく彼は、来るべくしてここに来たのだろう。

魂の通じ合える神様の導きが彼の”記憶”を辿って」

私はこのように返す。

「なら、次は彼の記憶を見よう。ちょうど実現可能な魔法があるんだ

赤い糸をツールに、併用できるかもしれない」


彼の記憶を覗き見るために、魔法を考案する。

魔力とは貴重で、一度使ってしまえば

数年間の節約期間を要する。

大いなる力には、それなりの費用がかかる。

例えば、死者蘇生や時間旅行といった大規模魔法がある。

死者蘇生とは止まってしまった心臓と、魂の再起動。

人の想いと情報量の収斂。

それを瞬時に読み再構築する。


時間旅行も同様。過去も未来も人間が編み出し

作り上げた壮大な歴史を

魔法により再読み込みをし

己の肉体をそこに転移させる。


想いとは、それほどなまでに重く、儚く脆いもので

人間と魔法を組み合わせるというのは、それほどの力を必要とするのだ。


莫大な魔力の節約期間は、永遠かー生涯か


これらを踏まえ“これからの事”のために、数ある魔法の内、体力を最小限に抑えることのできる

「通常魔法」を使うことにする。

水は、世界の全てを覚えていると言う。

私が試すのは、そんな水に残された彼の記録を見る魔法。


記憶というにも、人生の全てではなく、期限を決め、その範囲だけをみる。

肉体を用意するのではない。

バケツに例えるならば、溢れた水を敢えて溢れさせ

規定の量に正す。

たったそれだけの消耗で収まる。


その分なら、節約期間は僅か数日で収められる。


瞳が水と同化する様に、景色を映さぬ程の

無色透明へと変わる。

映し出されたのは、彼の何でもない日常。

痛みも苦しさもそんな日常の一部へとカウントする。

20を回る日の出来事だけでいい。

雨の中を歩く彼の姿。彼の頭の中には腕を切り、

自傷をする姿

学校の屋上に向かい、フェンスの向こう側に立つ彼

「なんだかんだ」楽しかったと呟きながら、彼は屋上から身を乗り出した。


私はそれを見て、()()()()()()と同時に

可哀想という感覚になってしまった。

なぜならば、彼がこの箱庭に来た理由とは

(そこ)にあるから。

「死ぬ前に楽しかったと思えるのは、

生きて居たかったと思うから」


「君はまだ、

ここに来るべきではないのかもしれない」


私は彼に、ただ一つの特別な魔法を授ける。

「一度だけ、君にチャンスを与えよう」


彼の戻る場所、それは彼の日常。そのための時間を逆行させる魔法。多少のリスクを懸念し、一度も使われなかった魔法 魔力消費はわからないけど。


「20の月が昇る時、ここで待つ」


遡る未来に、希望を探すための人生を。

心でそう唱えながら

胸元から真珠を取り出し、

その魂を両手で掬い流し注ぐ。

砂のように、細かな光の粒となって真珠に注がれる。

「久しいな。これもまた」と一言

その後黒鳩に背を向け、こう告げた。


「黒鳩、彼を空へと届けて欲しい」

彼の魂を入れたペンダントを鳩の首に掛け、

私は告げる。


「はっ」と、ハキハキと返事をし

鳩は彼を乗せた羽を大きく広げ、空へと飛び立った。


大空を羽ばたく一羽の鳩が、ある家の窓へと降り立った。

首にかけた真珠のペンダントが中で光り輝く。

人の魂を入れたペンダントは、目的地につくなり、鳩の元から離れた。

離れては、床に真珠ごと落ち光は漏れ出し、その光は部屋のベッドへと収斂し人を形作る。


―これが若者の肉体か

私はその姿を見、遠い過去を思い出して懐かしくなった。

「達者でな」その一言を残し、私は箱庭へと戻るため、その場所から飛び立った。


その夢を鮮明に覚えていたいと思っていた。

不思議な夢を見ていた。そんな感覚だけが、浅瀬についても尚残り続ける。

心地の良い毛布の感触が一瞬、私を包み込んでいた。

その景色は、もう幾度と見慣れている。

朝を呼ぶ鳩の声 一階から二階へと呼びに来る

母親の声。

私は、この時に知る。




「僕、戻ってきたんだ」


次回 第一話「求めていたもの」


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