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1−1『二つ目の依頼』


「──ギャ!」

「ハ! まだ楽勝だな」


 曲がり角で遭遇したノッカーを両断して、その脆さに、俺は鼻で笑った。

 腕力を強化するスキルは、多くを持ちすぎて正確な数はもう覚えてねえ。ただ、身体に染み付いたクセで、全てのスキルを発生させるだけだった。


 魔力が濃いトコに留まってるせいで、そんなスキルも十全に働いてるとは言えない。そんな状態の俺でもここまで脆いとは、()()()()()()な。


「迷宮核……いや、深層はまだ先だぜ。レク。魔物がまだ弱い」

「ええ……。アインが強すぎるから、魔物が強くなっても分からないだけじゃない?」

「慣れねえな、その話し方。……いやまあ、そうでもないぜ? 実際、この迷宮の深層には、『俺たち』も苦労した……」

「あれ。『冒険者の英雄』も、ここに来ていたの? コガリトスは、まだ攻略されていないと聞いてたんだが……」


 わざわざチーム名を言うな……。言う必要ないだろ。もしかしてコイツ、俺らのファンなのか?

 誇大広告すぎて、俺はその名前、好きじゃねえんだが。


「俺らも、『核』までには着いてねえよ。遺物を獲ったらそのままトンズラこいたしな。あそこが最深部だったかどうかも分からねえ」

「やっぱり、コガリトスの魔物は強いのか。……攻略、できるかなあ」

「しないと始まらないんだろ、お前の策は。まぁ、ウチのチームの場合、迷宮攻略を主軸に据えてなかったのもあるからな」


 迷宮の攻略──迷宮の魔力循環、魔物産生の(かなめ)と呼ばれる、『迷宮核』への到達──それを達成しようと、俺たちは引き続きこの迷宮、コガリトスを探索していた。

 下へ、下へと──。


 この前ボコボコに撃退したとはいえ、引き続きあの魔法使いが俺たちを追ってるというのにそんな方針が決まったのは、一週間前……魔法使いアキアとエルリックを倒した、翌朝のことだ。



***



 迷宮での寝食は最悪だった。


 魔物が巣食うこの地下洞窟……またの名を、鉱山迷宮【コガリトス】。


 当然、そんな場所で寝るのは、寝苦しいったらありゃしねえ。

 寝床……つまり地べたがデコボコしてるのもそうだし、魔力の濃い空気ン中で寝るのが一番苦痛だ。


 食事も同じ。デルウィンの街で買った携帯食料は、当然、魔力に侵されていて、クソ不味い。俺と一緒に迷宮に入ったこの魔法使いは、平気そうに食っていたが……。


 ──魔力は、目に見えない猛毒だ。


 だから、熟睡してやがるレクの傍ら、俺は寝苦しくて起きちまった。

 ただでさえ日課の酒がないせいで、昨日は眠れなかったのに。


 仕方なく起き上がって、周囲に異常がないか確認する。


「意外と、魔物も襲ってこないモンだな」


 眠りが浅かったのは、魔物への警戒もあったんだが。レクの案がそのまま上手くいったらしい。

 ……と、噂をすれば。


 足音が鳴り響く。オークか。あいつらは巨体で、歩くだけで基本、地面が揺れる。

 が、そのデカイ足音が近づいても、俺は剣を抜かない。


 寝床の周りに突き立てたレクの『モノリス』。その効果に、興味があった。


 曲がり角から、オークが顔を出す。斧をかついだ、緑巨体の不細工。それを見ても、俺は剣を出さない。


 オークと目が合った。だが、こちらを見ても、オークは何もしない。その石斧で俺たちを襲うこともせず、奥へと消えていった。


 おお。


「……こりゃ、スゲえな」


 魔物はナワバリ意識が強く、迷宮に来た生物を必ず襲う。そりゃもう、執拗に。


 しかし、魔物同士で争うことはない。

 だから、俺たちが魔物に擬態すれば、魔物に襲わることもないのだ。


 ……俺が寝苦しかったのは、このモノリスのせいでもあると思う。この策はつまり、モノリスに魔物並みの魔力を籠める、籠めたってことだからな。


 魔物は人間に比べて、魔力が尋常じゃねえ。つまり、モノリスに囲まれたこの場所の息苦しさも、尋常じゃなかった。

 安全には代えられねえけどさ。


 ふと、レクを見た。魔物が来てたってのに、全然起きる気配がない。なんか腹立つな。


「……グースカ寝やがって。おい起きろレク、朝だぞ!」


 そう叫ぶと、意外とすぐ、レクは目を開けた。

 睨まれる。


「……朝なんて、分かるわけない。ここ洞窟」

「俺の体内時計は正確なんだよ。これでも規則的な生活してたしな」

「昨日スラムで酔いつぶれてたでしょうがああ」

「五年前の話な。欠伸しながら喋んじゃねえ」


 元気そうで結構なことだ。魔法使いは魔力を解毒できると聞いていたが、もしかしたら、魔力を自分のエネルギーにすらできるのかもしれない。

 というか。


「お前、そんな口調だったか? 寝ボケてる?」

「……アインも、私のこと呼び捨ててるじゃないか」

「続けるつもりか」


 別にいいけど。


 俺がレクを呼び捨ててる理由は、本人に言うつもりはなかった。

 死んだヤツに似てるなんて話、聞きたくないだろ?


「ほい、朝食」

「ありがと……」

「それで、今日はどうする?」


 手近な場所に突き立ったモノリスへ飛び上がり、座って、俺はレクに問いかけた。昨日の夜と同じ、硬く乾いた携帯食料をかじる。


「迷宮を進もう。迷宮のもっと奥に行けば、アキアたちも見つけられないはず」


 敬語が戻ったレクの、そんな発言に、俺は眉をひそめた。


「奥に行くのか? 俺ぁてっきり、別の街に出るモンだと思ってたが」


 この迷宮は、巨大な『山』だ。


 正確に言うと、一つの巨大な山脈、その大部分が、迷宮【コガリトス】に侵食されている。

 だからこそ、この迷宮の出口はいくつかあって、デルウィン方面、つまり草原に出るのもあれば、反対側の砂漠へと出るヤツもあった。

 砂漠に出て、他の街に行くのが、俺たちにとって正攻法のように思えたが。


 ちなみにこの迷宮の山脈に、名前はない。ただ、コガリトスと呼ばれる。

 迷宮発生前の史料を探せばちゃんとした名前も見つかるだろうが、この山脈と迷宮は、同一視されて久しかった。


 それほどに広大な迷宮を進もうと、彼女は言った。


「私も、最初は砂漠に、少なくとも別の街に行こうと思ってたけど。どうせジリ貧だよ」


 魔力に侵された飲み水に口をつけて、しかめ面になりながら、俺は肩をすくめた。


 まあ、どの街に行ったって、アイツらがその街の兵士を懐柔して、追ってくる未来しかねえのは確かだ。


 ただ、キリがないってのは、迷宮の奥に逃げ隠れしても同じ。


「ずっとこの迷宮の中で逃げ隠れすンのも、無理があるぜ。兵団を懐柔するくらいだ、あの姉弟が何やらかすのかも分かんねえしな」


 それに、次、アイツらが襲ってくるなら、相応の準備をしてくるはずだ。それくらい強力なスキルを見せたし、見せちまった。

 油断してくれるなら、そっちの方が良かったんだがな……あの時はあの時で、余裕はなかった。


 迷宮の中で、そんな追手の猛攻に、消耗もせず耐えられるわけねえ。


「うん。だから、これから迷宮を攻略するんだ」

「ん? どういうことだ?」

「迷宮核を見つけて、迷宮【コガリトス】を()()する。私の『モノリス』には、それができる」

「……へえ」


 『迷宮の掌握』。


 聞いたこともない、ありえるとすら思えない言葉に、疑いもせず俺は笑って、そんな俺をレクは睨んだ。

 昨日から彼女は、俺に少し攻撃的な気がする。


 あの戦いから、いろいろ吹っ切れたんだろうか。


 レクは、何もかもまきこんでやるかのような気迫で、続けた。


「掌握した迷宮の魔物は、()()()。コガリトス全域の魔物を率いて、デルウィンの街ごとアキアたちと、戦う」


 そりゃつまり、一つの都市と敵対するってことで。


「……協力してくれるか」


 『ハ』と、鼻で笑った。

 どうせ、後戻りできるわけでもない。レクを狙ってる奴らも、もう既に俺のことも『敵』だと定めてるだろう。今更レクを見捨たって同じことだ。


 なにより俺が、『迷宮の掌握』とかいうそれを、見てみたかった。口の端を上げる。


「いいぜ、やってやる」


 ──依頼その2。

 鉱山迷宮【コガリトス】を攻略せよ、だ。

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