バレンタインとニャンコ
じりりと目覚まし時計が鳴っている。寝みぃ、眠い
目覚まし時計を殴るように止めて、布団に潜り込む。
ニャーニャー
脳裏でそんな声がして、あの人の笑顔。
私はガバっっと起きて、ベッドから降りる。
歯磨き
洗顔
トイレ
制服に着替えたら部屋を飛び出す。
今日も早いのね、という母の声に適当に返事をしながら、テーブルに置かれた菓子パンを取って鞄に詰めた。
「雪乃ちゃん。おはよう」
学校途中の空家の庭にその人は今日もいた。沢山のニャンコが餌をくれって鳴いている。
「おはようございます。明知さん」
明知さんに会ったのは偶然。
珍しく早起きしたので、たまには別の道で学校に行こうと冒険心を持って、歩いていたら猫缶を沢山抱える明知さんにあった。
猫缶沢山も驚いたけど、その格好も。
いかにも文学小説を書いてそうな着物姿。
眼鏡。
驚いて見惚れていたら、目の前でずっこけて猫缶がバラバラに。
拾って渡したら、猫が沢山近寄って来た。可愛いよりも恐怖心が先だったのだけど、明知さんがニャンコに向ける笑顔がとても素敵で一目惚れ。
それから毎日この時間、猫に餌をあげる明知さんに会う為に早起きしてる。
明知さんは私が猫好きで家で猫を飼えないからって、毎日通っていると思っているみたい。
違うのに勇気が出ない。
でも今日は違う。
今日はバレンタインデー。
私がなけなしの勇気を絞ってチョコレートを渡した。
ラッピングを綺麗にした手作りチョコだ。
「あの雪乃ちゃん?」
明知さんの顔は真っ赤で、私より照れていた。
「明知さん、好きです。付き合ってください」
「僕でよければ」
そうして私は明知さんと付き合うようになって、高校卒業したら一緒に暮らすようになった。
あの空家で。
信じられない事に明知さんは空家の持ち主だった。
私と付き合い始めてから、明知さんは家に人を入れて改装した。そして何とニャンコ達も一緒に暮らすようになった。
私はニャンコたちより出遅れたので、何だか日々ニャンコ達に舐められてる気がする。
それでも同居人としては認めてくれてるみたい。
時折明知さんへの甘え方とか教えてくれるニャンコもいて、助かってる。