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襲撃! 学級委員長!!

 いきなり現れた柊梢は見るからに不機嫌そうな様子で枯葉を睨んでいた。

 そして、当の枯葉はと言えば忙しなく目を動かしながら滝のような汗を流している。

 これは……。


「今日こそは丸太の素晴らしさを教え込んでやると前々から言っておいた筈だ。なのに何故お前は木本と共に資料館に居る?」


 鬼気迫る、と言う言葉がよく似合う表情だった。

 いや、それは最早般若そのものと言っても過言では無いと思う。

 それ程までに委員長は激怒していた。


「そ、そうでしたっけ……。いやぁ、私うっかり忘れてて」


 枯葉は舌を出しながらてへっと愛嬌たっぷりに笑い掛けたのだけれど、それは火に油を注ぐ様な事。委員長は更に凶相を深めた。

 不味い、このままでは僕まで巻き添えを喰らいかねない。


「委員長、すみません。僕が抜け駆けしてヒノキを布教しようと思ってたんです」


 そう言うと委員長は「ほう」と言いながら目を細めた。


「それは良い心掛けだ。どうだ?上手く行っている か?」


「それは…… 」


 答えに窮する。

 ここで誤魔化したとして枯葉の事だからいつか絶対にボロを出す。

 そうなれば僕まで村八分レースに躍り出る事も考えられる。

 だからと言ってここで上手く行っていないと答えれば枯葉は丸太漬けになってしまう。


「成る程、芳しくは無い様だな」


 そんな思考をしているうちに無慈悲な宣告が下される。


「木本、お前は立派な丸木人だ。丸太を想い、丸太を愛 し、丸太を信ずる。その志は立派なものだ。なに、枯葉 一人に丸太を伝道できなかった事を恥じる事は無い。胸を張れ。例えここに丸太が無かろうがお前の心には丸太が根づいている筈だ」


「くっ……」


 強く歯を噛み締める。

 何か、何か無いのか。この場を切り抜ける手段が――


「曰く、丸木村の【神樹祭】はある風土病と強い関連があった」


 沈黙が場を支配する中、不意に落ち着いたテノールが館内に響いた。その声の主は……。


「讃岐、さん?」


 讃岐さんだった。


「その風土病の名前は【丸木症候群】。柊梢、君はこの風土病について良く知っているね?」


 【丸木症候群】。その言葉に呼応するかの様に一度頭がズキリと痛んだ。

 記憶の引き出しがカタカタと音を立てて軋み出す。

 一体、何が起こっているんだ?


「……何故貴方がその事を」


「僕はこんななりでも研究者だからね。色々と調べさせて貰ったよ。この土地にしか生えない丸木杉。丸木杉の花粉が原因となって発病する【丸木症候群】。そして、何故【神樹祭】が村人の団結を確認する祭りになったのか。本当に色々調べたさ」


 そこまで言うと讃岐さんは額から噴き出る汗を拭った。


「……君はどうやら村長が余程大事らしいね。周りの人から色々と言っているから嫌でも耳に入る。その上で言おう」


 そして、唇を舌で湿らせると意を決した様に致命的な言葉を言い放つ。


「――樹々茂は時代に取り残された……敗北者だ」


「敗北……敗北者?」


「そう、樹々茂は時代の敗北者だ」


 讃岐さんは不敵な笑みを貼り付けながら更に畳み掛けるようにそう告げる。


「はぁ……はぁ、敗北者……!!」


 委員長は荒い息を吐きながら俯き、そして激情を秘めた声音で絶叫する。


「取り消せ……今の言葉をッ!! うどん粉病の分際で、私の、私たちの村長を愚弄するなァァァァッ!!」


 委員長が神樹を構えて突進する。

 感情のままに振るわれた神樹はそのまま讃岐さんの体をくの字に折り曲げると、遙か後方にある展示物まで撥ね飛ばした。


「村長は私に普通の生活をくれたッ!! 貴方にその偉大さの何が分かるッ!! この村が、この時代の名が樹々茂だッッ !!」


 委員長の激情に気を取られたのは一瞬。

 ここで漸く讃岐さんの意図を悟った。

 讃岐さんの小刻みに痙攣する指先がしっかりと資料館の出口を指し示していたのだ。


「讃岐さん……ッ!?」


 讃岐さんは、自らをおとりにして僕たちを逃すつもりだったのだ。

 その指先に込められた悲痛な覚悟に胸が打ち震えた。


「枯葉、逃げるぞ」


「えっ、でも…… 」


 僕は枯葉の手を引くと資料館を飛び出した。

 委員長の暴虐の音が暫く続いたけれど、僕たちは振り 返らずに走り続けた。

 ただ、讃岐さんが言った【丸木症候群】、そして【神樹祭】という二つのワードが頭の中をグルグルと回っていた。

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