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【Anti Maruta Team 】

 その晩、初めて部屋に松山以外の来訪者がやって来た。


「やぁ! 樹君! 僕はまるたーすけるたー君! 部屋に入れて欲しいまるー!」


 時刻は零時を過ぎようとしている頃に現れたのは村の公式マスコットキャラクターのまるたーすけるたー君だった。

 まるたーすけるたー君は村の中でそこそこの知名度を誇り、丸太に関するイベントが行われる際に駆り出されているのをよく見かける。

 ただ、今のまるたーすけるたー君はマスコットにあるまじき聴き覚えのあるダミ声を披露していて何だか滑稽だった。

 その様は正にしっちゃかめっちゃか、ヘルタースケルターの名前に劣らぬカオスっぷりである。


「部屋に入れて欲しいまるぅー!」


 再三要請して来るが、当然ながら部屋に入れたくなんて無い。

 何が悲しくて真夜中の自室にマスコットキャラクターを招かなければならないのか、些か謎である。


「まるたーすけるたー君はぁ! 丸木村の圧倒的マスコットキャラまるー! だから早く部屋に入れて欲しいまるぅー!」


「…………」


 暫く無言でまるたーすけるたー君を眺めていると流石に焦れたのか。


「ま゛る゛た゛ーす゛け゛る゛た゛ー君はぁ! 早く部屋に入れてくれって言ってんだろうがぁ !!」


 そう何処かで聞いた様な粗野な口調で怒りを露わにした。

 これ以上弄ると僕の首がフォリウムされかねないので止む無しと部屋に上げる事にする。


「ったく、上げるんならさっさと上げろっての」


 部屋に入ったまるたーすけるたー君が着ぐるみを脱ぐと中からは予想通り朽木が現れた。

 そう、朽木斬継。

 丸太に対して一般的な感性を持っているのは良いんだけれども、それに対抗してか無骨極まりないチェーンソー【フォリウム】を常時携帯する頭のおかしい男子生徒だ。


「それで朽木は何で僕の部屋に?」


「お前を【AMT】に誘おうと思ってな」


 【AMT】……? 流石にATM の間違いでは無さそうだけれど一体何なのだろうか。


「【AMT】って何なの?」


「【Anti Maruta Team】略して【AMT】だ。丸太至上主義をぶち壊すチームって言えば分かるか?」


 アンチ、丸太、チーム。成る程、名前が体を表している訳だ。


「ところで、何で僕を誘おうと?」


 そう言うと朽木は真剣な表情を浮かべながら。


「そりゃあ単純に、お前が丸太の信者じゃないからだ」


 そう大真面目に宣ってみせた。


「……この村はおかしい。何でもかんでも全部丸太。やってる事も非現代的。俺には時代に逆行してるように思えてならねぇ。だから俺たちが丸太至上主義をぶっ壊すんだよ」


 その声には強い覚悟が滲み出ていた。

 僕はどうやら朽木の事を誤解していたらしい。僕は彼が自身の破壊衝動を満たす為に丸太を切り刻んでいるものだと思っていた。

 けれど、実際は己の信ずる正義に則って行動していたようだ。……尤もその行動は物騒極まりないものだったのだけれども。


「とは言えこれは重大な決断だ。今すぐに答えを出せと は言わねぇし言えねぇ。何つったって下手したら村八分だからな。ただ、お前が【AMT】に入りたいと思ったなら」


 そこまで言うと朽木は徐に懐から樹木の根っこの様なものを取り出した。

 サイズは結構大きめで朽木のゴツ い拳からでも五センチ程飛び出ている。


「コイツを天に掲げて思いっきり叫べ。その瞬間、お前は丸太至上主義をぶち壊す【AMT】の戦士になる」


「【AMT】の戦士……」


「話はそれだけだ。……丸太に呑まれるんじゃねぇぞ」


 朽木は再びまるたーすけるたー君の着ぐるみを被るとそう呟きながら部屋から出て行ってしまった。


「……とんでもない事になったなあ」


 反逆して、恐ろしい村長と対峙するか。

 それとも、丸太至上主義に従って安穏とした退行生活 を送るのか。

 突き付けられた選択肢が胸に深く突き刺さるようで 皮膚が粟立った。


♪ ♪ ♪


 初夏に入り『神樹祭』が近づくにつれて村はにわかに活気付いていた。

 クラスメイトもどこか浮かれていて心から『神樹祭』 を楽しみにしているのが分かる。

 そんなある日、転校生がクラスにやって来た。


枯葉かれはみきと言います! 宜しくお願いします!」


 肩程で綺麗に揃えられたショートボブ。小学生と見まごうほど小柄な背丈。庇護欲を掻き立てる幼い顔付きの女子生徒だ。


 一部のクラスメイトは「ロリだ !!」と狂喜乱舞したが……その一秒後、教室は水を打ったように静まり返った。


「嘘、だろ?」


 目の前の光景が信じられず目を瞬かせる。しかし、それでも見慣れたアレは何処にも見当たらなかった。


「丸太が、無い……!?」


 そう、枯葉幹と名乗った少女は、丸太を持っていなかったのだ。

 これは丸木村では酷く珍しい光景だった。丸木人は丸 太と共に起床し、丸太と共に登校し、丸太と共に授業を受け、丸太と共に飲食を行う。

 一日を通して側に丸太がいないシーンなど凡そ存在しないのだ。

 それ故に、その不在は僕をしても違和感を拭えない程に大きなものとなっていた。


「えぇと、枯葉さん。もしかして丸太を忘れたんですか?」


 担任の男性教師が恐る恐るといった様子でそう尋ねると。


「重くて持って来れませんでした!」


 枯葉はにこやかな笑顔でそう口にした。

 一瞬、丸太ってそんなに重いものか? などと思って しまったけれど、よくよく考えれば丸太が重い事は至って普通の事で、寧ろ身の丈以上の丸太を片手で持って登校する小学生が存在する方がよっぽど異常と言えた。


「ほぇ?皆さんどうしちゃったんです?」


 異様な空気を察知してか彼女は辺りを見回しながら首を傾げた。

 ああ、きっと彼女は至って普通の人間なのだろう。

 ただし僕から見れば、だけれど。

 僕は元を辿れば健全な都会育ちであり、自分は一般的な常識を持つ人間だと思っている。

 そして彼女もきっとそうなのだ。この村の人間から見て異端な人間。そしてこの村に於いては一般が異端と入れ替わる。

 つまり、丸太至上主義を唱える人々が一般であり、僕のように丸太至上主義に疑問符を浮かべる輩は下手に動けば異端となってしまう。

 今でこの調子だと彼女は遠く無い内に村八分となる事だろう。


「い、いいえ。何でもありません。以降はきちんと丸太を持ってくるように」


「えっと、何で丸太を持って来ないといけないんですか?」


 担任の教師が引き攣った表情で諭すと枯葉はそう尋ねる。

 ピシリと空気が凍り付く音がした。

 いや、それは地雷を的確に踏み抜いた音だったのかも知れない。

 転校生の爆弾発言に委員長や松山等を筆頭にクラスメイト達が騒めき出した。

 これはかなり不味いかも知れない。

 丸木村は村社会。 村八分が決まれば生活する事が困難を極める。

 朽木のような元から屈強そうな男子生徒ならまだしも彼女に村八分を生き抜けと言うのも大分酷なものがある。


「えと、えと……どうしたんですか? 皆さん、顔、怖いですよ」


「失礼。どの様に丸太の良さを教えようか思案に耽っていた。クラスの委員長として詫びよう」


「は、はい?」


 そう言うと委員長は折り目正しく頭を下げたのだけれど……僕には委員長の丸太の良さを教える、がどうにも不穏な意味を孕んだ言葉に聞こえてならなかった。

 ふと、そんな時に彼女と視線が合った気がした。

 いや、違う。困惑気味に揺れる瞳は丸太を映しながら右往左往し――


「そう言えば、丸太が無い人がチラホラと居ますけど……」


 再びとんでもない爆弾を投下し始めた。

 枯葉幹。成る程、その正体は一帯の樹木を枯らす強力無比な除草剤な訳だ。

 現在、数人のクラスメイトは朽木によって丸太を切り刻まれており傍らに丸太が無い状態となっている。

 丸太を切り刻まれた彼らの落胆は激しく、教室内では朽木ないしそれを想起させる事柄は大体がご法度となっている。

 転校してきた彼女がそんな事を知る余地は無いのだけれども先程よりもヘイトが高まるのは当然と言えた。

 困惑とギスギスが交錯し自己紹介が終わる頃には教室は険悪なムードに覆われていた。


「……丸太至上主義なんてブチ壊した方が良いのかもしれない」


 僕はそんな事を考え始めていた。

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