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1,000文字掌編

二体の雪だるま

作者: 空原海




 既に雪は止んでいた。

 足跡ひとつない、ふわふわとした白い新雪で覆われた庭に、雪だるまが二つ並んでいる。


 庭にせり出したポーチで、デッキチェアに腰掛ける老人。

 分厚いコートと複雑に編まれた膝掛けのみで、芯まで凍てつくような寒さに抵抗せんとする、老人の眼前。二体の雪だるまは、次第に精緻な彫刻へと変貌していく。

 質感は押し固められたというより、サラサラと粉雪のままであるかのように見えた。


 老人はほう、と息を漏らす。

 雪だるま達に気取られないよう、静かに。

 だが吐息は乾いた空気を白く染め上げた。




 二体の雪だるまは、立ち上がり、顔を突き合わせる。

 その顔体は模写したかのようにそっくりで、くるくると渦を作る巻毛の一本までもが似通っていた。


 少年の姿をした雪だるま。


 大口を開け、肩を叩き合い、雪を掴み、力いっぱい投げ、逃げ、走り、同じタイミングで雪の上に倒れ、空を仰ぐ。




 再び立ち上がった雪だるまは、二体とも先程より一回り大きくなっていた。

 少年と青年の狭間。

 視力の衰えで、近くも遠くもよく見えなくなっていた老人の目に、二体の相違は明らかに映る。


 一体は大きな体躯を立派な軍服で包み、右肩から斜めに、ウエストは真っ直ぐ革帯を走らせ、右には拳銃、左にはサーベルを下げている。

 制帽から一房の巻毛が(こぼ)れ、それだけがもう一体と全く同じところであった。


 対するもう一体の体つきといえば、華奢で弱々しく、今にも倒れそうな病人然としていた。

 肩にガウンを引っ掛けただけの姿は、寝床から這い出したばかりのようでもある。


 袖口から露わになった、細く折れそうな手首をもう一体へ伸ばすも、相手は姿勢を正したまま微かに首を振り、敬礼をした。

 かつての片割れの、枯れ枝のような腕が力無く下ろされるのを認めると、彼は(きびす)を返し去っていく。


 振り返りもせず雪原の彼方へ消えていく一体を、残された一体は見送る。

 そして崩れ落ちるように、雪の上へと膝をついた。新雪は沈まなかった。




 しばらくして残された一体は立ち上がるが、その体は先程のように虚弱ではなく、もう一体同様とは言わずとも、成人男性に相応しい体の厚みと、また力強さが伺われた。

 だがその顔には苦渋が滲み、手には一通の手紙が握りしめられている。


 目を(つむ)り、息を吐き出すような仕草を見せると、顎を反らし口を結んだ。

 そして音が響くような粗雑さで、封を切る。

 胸の前で十字を切り、手紙を広げた。


 手紙を顔に押し当て、()()は再び天を仰いだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] ふたつの雪だるまに、戦場で散った双子の兄を想うか。 詩的で趣深い作品ですね。 ひょっとしたら兄の臓器が弟の中で生きているのかも。 とも思わされました。
[一言] 物語の解釈が分からなくて感想欄読んだら、★チーコさんが正解いい当ててすげぇってなった。 たらこには分からなかったよぅ(´;ω;`) あっ、表現は相変わらずすごいなって思いました。 こんな作…
[一言] 年老いてもなお、心の中で傷として残っているのかなぁと思いました。 晩年になって、鎮痛薬で意識が朦朧として、現世より過去に飲み込まれていく老人を見たことがあるので、この老人もきっと死期が近づく…
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