エピローグ 下
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「どうすんだ、これから」
裕二が俺とナルミにそう問う。
火葬は終わり、侑菜と梨香の遺骨は同じ墓に収められた。
「…俺達は、あの子の願いを叶えなきゃならない」
あの子は――侑菜は、最後にこう言った。「私が苦しんだ分だけでも、生きて、幸せになって」、と。
この先何があるかわからない。俺を支えてくれていた侑菜は、もういない。
でも、それでも。
「生きる。そして幸せになる。死ぬなんて、誰も赦さない」
「…そうだな。生きるしかない」
裕二もナルミも頷く。
もう夕方だった。いつもは、侑菜と勉強をしてる時間。でも、侑菜は――。
「…椋くん、ごめん…ちょっといい?」
ナルミがそう言うと同時に背中に手を回し、俺の胸に顔を押し付けた。
「…ナルミ」
裕二が小さく名前を呟いた。裕二にもわかったんだろう、この気丈な子が、どれくらい脆く、どれくらい無理をして耐えていたのか。
ナルミは肩を震わせて泣いている。俺は背中に手を回し、ナルミの気が済むまで泣けばいいと思った。
「…俺はここを離れる」
ナルミと裕二が、俺の言葉に硬直する。
昨日からずっと考えていた。ここには、思い出がある。だから、俺を縛る。
だったらいっそ新しい場所に行って、自由にやろうじゃないか。たまには墓参りには帰るけど、侑菜が願ったように幸せになるには、ここではできないと思うから。
けど、ナルミと裕二の口から、それぞれ俺が予想しなかった言葉が発せられた。
「…私も…一緒に、行くよ」
「…なんだかな。なんでこう…考えることが同じなんだ?」
…考えることは同じ、か。いいかもしれない。3人で、どこかへ行ってしまおう。
「…そうだな、まずどこへ行く?」
侑菜と梨香の墓にはジニアが――「友への思い」が花言葉の花が――手向けられていた。
侑菜は、この花が好きだった。ずっと俺達のことを思っていたんだろう。自分が辛いのに、他人のことばかり考えて。
「…南へ行こうか。俺は寒いの苦手なんだ」
「…私、も」
南、か。いいな、みんなで働いて暮らそう。みんなで一緒に幸せになろう。
しゃらん、という鈴の音と共に、オーエンが現れる。
「お前も行くか?」
俺が聞くと、オーエンは、にー、とだけ答えた。――そうだな、お前も一緒だ。
「…行こう。新しい生活の幕開けだ」
過去を乗り越え、死者の思いを背負って。
俺達は、生きていく。
そうするしか、ないから。
それが、願いだから。
希望を殺すのは残った人間だ。
前を向かなきゃいけない。侑菜が、教えてくれた。
助け合わなきゃいけない。梨香が、教えてくれた。
だから俺達は、生きる。
幸せに、なる為に。