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Lament for U.N.O  作者: tetori
2/7

エピソード 1

 8歳頃の記憶が抜け落ちてた。

 抜け落ちる前までは、両親は俺のことを愛し、大切にしていてくれた。でも、記憶が抜け落ちた後は、哀れなものを見る目で俺を見るようになった。

 そんな生活が続いて10年。俺が道を踏み外さずにいられたのには、理由があった。

「りょーくん、遅刻するよー!」

 窓の外から幼い声がする。その理由であるのが、声の主だ。

 俺は特に急ぐでもなく外へ出る。鞄はところどころ擦れ、汚れているけど気にはならない。

「おはよ、りょーくん」

 その理由――古川 侑菜ゆうなが、まぶしい笑顔で挨拶をする。

 小柄な侑菜は俺の2つ年下で、お互い兄弟はなく、親から愛されず、家が近いこともあって仲がいい。

 最初に出会ったのは確か10年前か。記憶が抜け落ちた後、公園で侑菜が泣いてたんだっけ。

「おはよ、侑菜。行こうか」

 以来俺達は一緒に学校に通ってる。年が少し離れてるから学校が違うこともあったけど、今では同じ学校に通ってる。

 季節は夏。俺、藤山 りょうの、いつもどおりの朝。いつもどおり、いつもの通学路をいつものように侑菜と歩き始める。



「勝山ぁ、お前宛に手紙が来てんぞー」

 昼休み。やる気のないクラスメイトが俺にそう言いながら手紙を差し出してきた。

 受け取って、手紙を見てみる。白い封筒。宛先は俺だった。差出人は書いてない。

「あぁ、サンキュな」

 クラスメイトに礼を言い、封を開けてみる。赤色のロウを垂らして印を押してる。昨今では見ないものだから、違和感を感じた。


 「明日午後10時 旧校舎1階 化学準備室で会いましょう。

      大切なものが失われている。それを取り戻すために。    U.N.オーエン」


「…なんだ、これ」

「ん?どうした?ラブレターか?」

「違ぇ。どっか行け」

 クラスメイトを追っ払い、改めて内容を確認する。それの内容は、呼び出しだった。

 旧校舎というのは、2年前に少子化によって県立高校が合併し、廃校となった方の学校のことだ。

 ただ、おかしかった。大切なもの?失われてる?なんのことだ?それに差出人。これ、なんだっけ。

「U.N.オーエンって――」

 俺がそう呟いた、瞬間だった。

 何か言い表せないものが――既視感、というのだろうか。それを感じた。

 なんでだろう。なんでそんなものを感じたのだろう。

 イタズラの可能性も否めないが、なぜ既視感を感じたのだろう。

 疑問ばかりが浮かんでくる。それを解決するためには。

 明日、行くしかないのだろうか。



「りょーくん!?」

 家を出た瞬間。聞きなれた声が聞こえた。

 時刻は既に21時を過ぎ、補導員にでも見つかったらしょっ引かれる時間なのに、だ。

「…侑菜、なんでこんな時間に」

「りょーくんこそ。どうしたの?」

 侑菜は涼しげな、薄い水色のフリルのワンピースを着てた。蚊に刺されそう。

「虫除けスプレーしたから大丈夫。で、どうしたの?」

 付き合いが長いからだろう、たまに言葉を発してないのに互いの気持ちがわかる。

「変なイタズラかなんかでな、旧校舎に呼ばれてんだ。俺は律儀だから行ってやるんだよ」

 手に懐中電灯を持った侑菜の表情が月明かりで照らされて、キョトンとしたのがわかった。

「…え?りょーくんも?」

「…え?侑菜も?」

 意外だったな。俺達がセットで呼び出された?

「…一緒に行くか?」

 侑菜の家はすぐそこで、あるいは危険が待ってるかもしれないとはいえ、俺達にとって家で過ごす時間が何より苦痛だ。帰れ、なんて言える筈もない。

「うん、じゃぁ行こっか」

 満月が侑菜の笑顔を照らす。侑菜の笑顔が満月を照らしたようにも見えたけど。



 旧校舎にもセキュリティはあった筈だが、廃校だからだろう、切られていたようだ。校門は普通に開いてるし、窓も何箇所か開いていた。

 侑菜を連れて化学準備室に向かう。実はここ、昔、俺がいた方の校舎だ。だから場所はわかった。

 懐中電灯と窓から差し込む月の光で照らされる校内は、どことなく幻想的な雰囲気だった。その反面、恐怖を感じさせるのだろう、侑菜は俺の腕にしがみついてる。

「廃校だからなぁ。いいイメージはないかもしれないけど、大丈夫だと思うぞ?」

「だ、だってぇ…怖いものは怖いんだもん…」

 声震えてるぞ。大丈夫か。

「大丈夫。俺がついてる。な?」

 最初に会ったときも、俺はこう言って侑菜を元気付けた。以来、幾度となくこの言葉を使ってる。

「……うん」

 やや不安げながらも侑菜は頷いた。



 化学準備室の扉を開けると、そこには3人の人間がいた。

「誰だ?」

 暗くてよく見えない(既に電気も通ってない。先ほどスイッチを入れたが電灯は点かなかった)が、警戒している男の声がした。

「U.N.オーエンに呼ばれてここに来た――って言えばわかるか?」

「なんだ、キミ達もそうなんだ」

 も?ってことは、ここにいる人間全員がそうなのか?

 時刻を見ると21時45分。まだ時間はある。

「とりあえず自己紹介しようか」

 一番奥にいた女子がそう提案した。満場一致でそうすることになる。

「浜田 裕二。17歳。高2」

 先ほど警戒しつつ声をかけた男子が最初に名乗った。

四方田よもだ 梨香りか、17歳。女子高生でっす」

「黒川 ナルミ、18歳。家事手伝いやってます」

 最奥にいた女子と、手前にいた女子が順に名乗る。

「藤山 椋、18歳。高校生だ」

「古川 侑菜、16です。りょーくんと一緒の高校です」

 俺達もそれに続き、全員の簡単な自己紹介が終わる。

「とりあえず全員下の名前で呼んどけ」

 浜田が――裕二が最後にそう加えた。

「…で、だ」

 裕二が場を仕切る。梨香は机の上にランプを置き、全員の顔がようやくはっきり見えた。

 裕二は一目見て解る。不良だ。短い金髪にピアス。絡まれたくないタイプ。

 梨香も同様に、いまどきの女子高生、といった風貌をしていた。アクセサリー類が目立つ。

 ナルミは対照的に地味な印象を持たせた。きれいな黒髪と、眼鏡。

「俺達がなんで呼ばれたのか知ってるか?」

 裕二が俺達に問いを投げかける。俺は首を振り、知らないということを伝える。

「そうか。俺ら3人にもわかんなくてな。イタズラなのか、怨恨の類か…」

「それはない。少なくとも侑菜は他人から恨みを買うタイプの人間じゃない」

「…お前ら2人は初対面じゃないんだな」

 俺達以外の3人は初対面なのか。

 裕二が再び場を仕切る。

「…とりあえず時間まで待とう。ここで互いを疑ってても埒が明かない」

 全員が頷いた。



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