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6 罪を数える

 霊と夜を明かした翌日に、俺は退院となった。

 帰宅して最初に見たワイドショーは、ある少女の死をドラマティックに報じていた。

 その少女は、どうやって隙を窺ったのか、病院の窓から転落して亡くなった。遺書こそ作られていないようだったが、事件性はまったくなく、自死と判断された。

 つい先日まで眠れぬ夜を過ごした、よく知ったあの病院でのことだ。

 自殺の理由も、大方見当がついていた。

 幼いころの事故で顔面にひどい火傷を負って以来、少女は唯一の親である母親から、まともな養育を受けられなかったのだという。母親は、少女をおぞましく醜い顔だと罵った。やがて現れた新しい父親からも、少女は心身をひどく傷つけられた。

 入院の理由となった全身の骨折も、父親の暴行によるものだったという。

 両親は逮捕されたものの、少女は不安で不安で仕方がなかった。病院にいられるあいだはいいかもしれないが、その期間には限りがある。もし退院したらどのように暮らせばいいのか? また両親と暮らさなくてはならないのか? 虐待の引き金を引いた醜い身体を、日に日に回復してしまう身体を、救いようもなく呪った。

 やがて負の感情に耐えられなくなり、きっかけは不明だが、苦悩から逃れることを決意してしまった。



 その報せを見、俺はひどく後悔した。

 勝手に神秘を感じて、身勝手な妄想で相手を思い描いてしまった。ありえないと一蹴していたはずのことを、信じようとしてしまった。重ねた手のぬくもりから、気づけないはずがなかったのに。

 何よりも、

 俺はあのとき、

 伝えるべき言葉を誤った。

 もはや俺は、病院の昔話に登場する罪深い人間と変わらない。




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