001:突然の訪問者
初めて投稿します。頑張って完結させます。
高校に入学してから一週間が過ぎ、星野翔太はようやく新しい生活リズムに慣れてきた。
「そんじゃーな」
「おう」
帰り際、友人と別れ、翔太は歩いて自宅に向かった。都心の郊外に立つ一軒家で、翔太は父と2人暮らしだ。15年前までは母姉を含めた4人暮らしだったが、物心つく前に両親が離婚したらしい。その後しばらくは3人暮らしが続いたが、姉は大学入学を機に一人暮らしを始め、1年前から2階の一室は空き部屋になっている。そろそろ家を売って、引っ越そうかと父と時々相談することもあった。
「ただいまー」
誰もいない家で独り言のように翔太はつぶやいた。広めの玄関で声が響く。父は毎晩遅くまで仕事で、二人顔を合わせることはまれだった。だがたまに休みが重なった時はは一緒にゲームしたり、買い物に出かけることもあり、特に仲が悪い感じでもなかった。姉が家を出てからは家事は翔太の仕事となったが、それは別に自分にとっては苦ではないと翔太は考えていた。
「おかえりー」
奥の居間から返答があった。翔太は驚いて、2階の自室へ向かう階段から居間へ引き返した。
「親父?」
翔太が顔をのぞかせると、リビングでは父親がスーツ姿のまま、椅子に座っていた。
「へー、めずらしい。もう仕事終わったのか?」
翔太が声をかけると、父親は深刻そうな様子で
「いやー、そういうわけじゃないんだが…」
と苦笑いを浮かべながら頭をかいた。その表情に、翔太はピンときた。
「まさか…リストラ…」
「ちがうちがう!そんなんじゃないから!」
あわてて否定する姿を見て、翔太は少しほっとして胸をなでおろした。
「だったら何?親父が早く帰ってくると思ってなかったから、晩御飯用意してないけど、これから作ろうか?」
「それはありがたいんだが…翔太、ちょっとこっち来て座れ」
「ん?わかった」
翔太は鞄を椅子に置いて、テーブルをはさんだ向かいに座った。
「大事な話があるんだが…」
「うん…」
重々しい口調で、父親は話を続けた。
「前々から引っ越そうって話してたと思うんだが、最近はなかなかいい物件が無くてな…」
「そりゃまぁしょうがないだろ。ここは学校も近いし、親父の会社へも通いやすいし、同じような条件の家ってなかなかないと思うけどな」
「一応、この家も売りには出してるんだが、なかなか買い手もつかなくてな…」
「わかってるって、別に俺は焦ってないし、高校を卒業するまではここのままでも問題ないし」
「そう言ってくれると助かるんだが…なぁ…」
父親はだまって目線を下におろして腕を組んだ。白髪交じりの髪が少し乱れている様子がある。眼鏡をクイっとあげて「うーん」と唸っている。
翔太は普段と違う父親を不思議そうに見つめて、口を開いた。
「で、そんな話をしたかったわけじゃないだろ?遠慮することなんてないから、さっさと本題を話してくれよ」
「…そうか?」
父は少し考えた後、よしっと決心をしたような表情で口を開いた。
「実は、留学生を受け入れようと思ってな」
「留学生?」
予想をしていなかった父親の言葉に、翔太は驚いた口調で聞き返した。
「2階に空き部屋があるだろ?ずっとそのままなのはもったいないと考えてたんだが、ちょうどいいタイミングでお前と同じ高校に通う生徒を受け入れてくれないかって話が、何というか…知り合いからあったんだが…」
「なーんだ、そんなこと?いいじゃん、楽しそうで。俺は特に気にしてないよ、むしろ大賛成」
「そうか!よかった…お前に反対されたらどうしようかって考えてたんだ…」
緊張が解けた様子で、父親は大きく息を吐いた。
「ところでどんな子?留学生ってことは海外から?日本人じゃないってことだろ?」
翔太は身を乗り出して尋ねた。
「ああ、それなんだが…」
その時、父親の胸ポケットから携帯が鳴りだした。
「おっと!すまん、ちょっと待ってくれ…」
父親は携帯を取り出し、電話に出た。
「はい…はい…、その件ですが…」
携帯で話す父を横目に、翔太は留学生に対する空想を膨らませていた。
(留学生かー、どんな奴だろう。アメリカ、ヨーロッパ、それともアジア、アフリカ?それに同じ高校って言ってたし、とにかく仲良くしないとな。そーいや、男子か女子かもわかんねーな。男だけの家に来るわけだから、おそらく男子だと思うけど…せっかくなら女の子の方が…)
「わかりました!今すぐ会社に戻ります!」
突然の大声に、翔太はびっくりした様子で、空想から現実に引き戻された。
「翔太すまん!今から会社に戻る!」
「お、おう…気を付けて」
父親は駆け足で玄関に向かい、靴を履きながら口を開いた。
「あと留学生は今晩家に来る予定だから!失礼のないように出迎えてくれよ!」
「えぇ!?ちょっとまってくれよ!まだどんな奴なのかも聞いてない…」
「行って来る!!」
バタンと大きな音を立ててドアが閉まった。
「行っちゃったよ…」
翔太は呆然とした表情でその場に立ち尽くした。
「…どうするかな、とりあえず掃除でもするか」
あきれた表情で、翔太は2階の自室に向かい、掃除の準備をはじめようと思った。
父親が家を出てから3時間たった。辺りは日も落ち、時計の針は7時前を指していた。
「ふぅ…こんなもんでいいだろ」
家中の掃除を終えて、翔太は大きく息を吐いた。
「さすがに疲れた…親父も前もって言ってくれればいいのに」
ぐちぐちと独り言のように文句を言いながら、掃除機を棚に片付けた。玄関、居間はもちろん、トイレ、風呂場、台所まで、見た目にはきれいに見える状態まで掃除を終えたが、2階の姉の部屋だけは手つかずのままだった。
「勝手に姉貴の部屋を掃除したら殺されるからな…」
姉が家を出る際、部屋に入ったら殺すと言われていた。昔から翔太は姉には頭が上がらず、何かにつけて因縁をつけられることが多かった。なので条件反射のように、姉の部屋には一歩も近づけない。中をのぞいたこともなかった。正直一人暮らしを始めると聞いたときはほっとしていた。ほとんどの荷物は引っ越しの際に持っていたと思うが、翔太に確証はなかった。
「部屋の荷物とか残ってたらどうしようか…留学生に何とかしてもらおう…」
ふと外を見ると、辺りはすっかり暗くなっていることに、翔太はようやく気が付いた。
「やばい!もういつ留学生が来てもおかしくないじゃん!飯どうしよう!出前でいいかな?くっそー!親父早く帰ってこいよ!」
掃除の最中も何度か父親と連絡を取ろうと試みたが、無駄足に終わっていた。もう一度メッセージを送ってみたが、反応はなかった。
「やっぱり繋がんないか…もういいや、焦ってもしょうがないし」
そうつぶやいた後、翔太は居間のソファーに倒れこむように座り込んだ。
ピカッ
その瞬間、大きな爆発音とともに、家中がまぶしい光に包まれた。
「うわっ!」
翔太はうめき声をあげて顔を伏せた。焼けるように熱さを感じる間もなく、爆風で体が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐっ…」
とてつもない衝撃を体に受け、翔太は気を失ってしまった。
どれくらい時間が経っただろうか、ひんやりするフローリングの感触を顔から感じて、翔太はゆっくり目を覚ました。うつぶせのような格好で、倒れている感触があった。
(うっ…何があったんだ…?)
どこからか女性の声がする。重い頭をあげて、辺りを見回すと、おぼろげに大小2つの人影が見える。キッチン周辺を色々と物色している様子だった。翔太はゆっくり立ち上がろうとする。少しずつ意識が鮮明になってくる。目を凝らしてキッチンの方に目をやった。
「ねー、ナオ。コレは何かしら?」
小さい人影が、ぴょんぴょんと飛び跳ねるような動きで、ナオと呼ばれる大きな人影に駆け寄った。
「それは料理をする際に使う道具です。」
「ふーん、面白い形をしているのね…、それじゃあこっちは…」
会話の声も少しずつ耳に入ってきた。翔太は何とか気力を振り絞り、目の前のソファーにつかまって腕力で体を引き上げ、足を踏ん張ってドスンと腰を下ろした。
その音に気付いた様子で、ナオは翔太に目を向けた。
「じゃあじゃあ…これは?」
「ミミ様、気づかれた様子ですよ」
ナオは諭すようにミミに言葉をかけた。
「ホントね!さっそく挨拶しなくっちゃ!」
ミミと呼ばれた女の子は、長い金髪をなびかせ翔太に駆け寄り、大きな青い目を輝かせながら、ソファに座り込んでいる翔太の顔を覗き込んだ。
「アナタ、大丈夫?息が荒いようだけど」
ミミは落ち着きのない子供のように、翔太のまわりを動きまわって、時々物珍しげに顔を覗き込んだ。翔太はまだ声を発することが出来ず、何とか呼吸を落ちつけようとしていた。
「ミミ様、まずはご挨拶を」
ナオは大人びた声で、再びミミに挨拶を促した。
「そうだったわ!」
ミミは急いで翔太の正面に回って、一呼吸おいてからぺこりと頭をさげた。
「ミミ・メーベットリアンと申します。惑星メヴェニアから参りました。今日からお世話になりますわ」
これでいい?といった様子でミミはナオの方に目をやった。ナオはにっこりとミミを見つめ返した。
「はい、よくできましたねミミ様。気品のあるご挨拶でした」
その言葉を聞いてミミはあふれんばかりの笑顔になった。
「とーぜん!いっぱい練習したからね!」
喜ぶミミの頭を撫でたあと、ナオは翔太の方に目を向けた。透き通るような青い髪と、深い緑の目に翔太は眼を奪われた。
「申し遅れました、私はナオナオ・ルンメサと言う物です。ミミ様をお守りする役目を承っております。以後よろしくお願いいたします」
そう言うと、ナオは翔太の前にひざまずき、頭を深く下げた。
仕事の合間にのんびり更新します。