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ヒトに恋した怪物たちへ  作者: キョウさん。
ヒトに恋した一匹狼
3/17

二話~空に見上げるその瞳へ~

ぼくはわるいばうです



 外にはひろいひろい世界が広がっているっておじいちゃんが言ってた。

 行商人さんは広い世界のことを教えてくれた。


 行きたいなあ、でももうちょっとだけここにいたい。


「…かくして、世界は新たな一歩を踏み出したっていうことさ」

「天使さまっていうのがいるんですか!?わうわう!」

「そうだね、天の上で我々を見ているって教会の人が毎日言ってるよ」


 晴れときどき行商人さん、週に一回だけ来るぶしょうひげの優しそうなおじさん。

 馬っていう生き物に引かせた馬車を使って、いろいろ売ったり買ったりしていくひと。


 しょっぱいものだったりおいしいものだったりだったりするけど、それをやってるのはシトロンおじいちゃんなのでわたしは横で見ているだけ、ジャラジャラしたお金を交換するときなんかもう目が回って困るです、わうわう。


 それが終わったらわたしは行商人さんがおじいちゃんから買ったものを馬車に積み込んだりして、そしたら行商人さんはちょっとだけ休んでいくのでその間、いっぱいお話を聞かせてもらうの。セドラちゃんはめーわくだからやめなさいって言うけど、行商人さんはいつも笑って教えてくれる。


 力持ちだねって褒めてくれるしいいヒトなんです、わうわう。

 それでいつも都のヒトのことばっかり聞いてるから、今日はこの”せかい”について聞いてみた。



 ずっとむかし、わたしたちがいるこの世界には”きゅうせかい”って言われてるすごい世界があって、それを作ったヒトたちがいたらしい。でもその世界を作ったヒトたちは自分たちの作った世界にみんな滅ぼされちゃって、それで見かねた天使さまがヒトを助けて世界をやり直させたんだって!


 天使さまっていうのは羽根の生えたヒトらしい、でもヒトじゃないらしい、わからない。

 お空の上に住んでいていつもわたし達を見ているんだって、おーいみえますかー。


 でもわるいことをしたら叩きに来るんだって…こわい。


「さてじゃあ僕は行くよ、次の道は半日かかるんだ」

「またね行商人さん!」

「そうだ、最近シルバーファングの群れが街道に出るらしいからうかつに歩かないようにっておじいちゃんに伝えておくれよ、都に帰ったら兵を出してもらえないか申請しておくから」

「か、かわいそうだとおもう…」


 君は優しいなと褒められた。

 手を振って行商人さんを送り出す。


 街道にわたしの群れが出てるなんてなにがあったんだろ、わたしたちは森から普段は出ないし……おじいちゃんに知らせて、それから今日はなにしようかな。畑仕事はもうないし、狩りに出るにも最近やりすぎてエモノがあんまりいないし…。


 ヒトの天敵ってもしかしてヒマなのかな。

 そんなふうにうろうろしていると、聞き慣れた声に耳をぴこぴこさせた。


「かくれんぼしたいやつこのゆびとーまれ!」


 村の子供の声だ、わたしは駆け出すと、またたくまにたどり着いてその指を握った。

 

「レラのねーちゃん!」

「レラおねーたん!」

「わたしもまーぜて!」


 わたしより小さい子供たちばっかりだったけど、かくれんぼならずるじゃないね。

 そういえばおじいちゃんが言ってたけど、わたしの身体は”十代なかば”くらいなんだって、セドラちゃんは育つとこがちゃんと育ってきてて将来はいい女の子になるだろうっていってた、いいヒトになれるってことかな。


「わたしが鬼やーる!」

「えーレラねーちゃん強すぎる…」

「えーじゃあ目かくしするから」

「それなら…」


 かくれんぼはわたしの全戦全勝、村がそもそも隠れるところがあんまりないからみつけやすいのもあるんだけど。


 だからこうしてちょっとわたしが不利になることもしちゃう、でも勝ってみせるぞぶいぶい。みんながいちもくさんに散ったら、わたしは胸元のスカーフをお目々を隠すように巻いていっぷん数える、そしたらみんなを追いかけるんだ。


 もちろんお目々は隠してるけど、わたし狼、鼻が効く。

 右へちょろっと前すこし、もちょっと右より…壁をつたってそこだっ。


「みーつけたっ」

「わあっなんでわかるのっ!」

「におい~汗かいてる~」

 

 がばっとうしろから抱きしめちゃう、さあにげられまい!

 ヒトは鼻が効かないみたいだけど、わたしたちは匂いを追いかけることくらい造作も無いのだ。


 そういえばいつも、男の子たちはこうやってぎゅーっとし続けると顔が真っ赤になるんだよね、あんまりよくなさそうだからこのへんにしておこう……うーんなんでだろう、抱きしめるのがつよすぎるのかなあ。


 そうしてすごすご男の子がおとなしく集合場所に行くのを見て、続けてもひとりもふたり、どんどんつかまえてく。目隠しで歩き回るのはちょっと無防備だけど、ここはヒトの村だから平和なのだ、最後のひとりもつかまえて……あっ。


「ひゃっ」


 逃げた!


 かくれんぼで逃げるのはルール違反、レラ知ってる。

 だからこっちもルール違反だ!目隠しをとると、ぴゅーっと逃げた男の子めがけて走る走る!


 傷がなおったいま、わたしの脚はとっても元気だ、そりゃ狼に変身したときよりずーーーっと遅いは遅いけど、この村の誰よりも速い。ほんの数秒もしないうちに、ひょいっと男の子の頭の上をとびこえてとおせんぼした。


 このさきいきどまりです、わぅわぅ。


「つかまえた!」

「わーっ!離してっ!」


 もちあげてぎゅーっとしてやる、ヒトのにおい。

 なんだか落ち着く香りでつい頬ずりしちゃう。


 これでまたわたしの勝ち、ヒトのあそびっておもしろい!


 …あっ、また赤くなった…はなしてあげよ、ごめんね?

 女の子だとこうならないのに男の子だとこうなる、ヒトってやっぱり不思議、群れもつがいがオスとメスだったけどこうはならなかったし……ヒトの性質なのかも、帰ったらおじいちゃんに聞いてみなきゃ。


 それから何回か遊んで、ぎゅっとして、みんなが疲れてきたころ解散して。

 おひさまがねむたげだったからわたしはおじいちゃんのところに帰っていった。



 おじいちゃんのおうちはそこそこ大きな一軒家で、孫のセドラちゃんとわたしとで暮らしてる。そこそこ大きい理由はむかしは人がいたかららしいんだけど、みんな出て行っちゃったんだって、都のほうに出ていったんだってさ。


 やっぱりみんな行きたがるんだ…おじいちゃんたちはなんで行かなかったんだろ。



「ただいまー」


 ヒトはあいさつをする、これは一日に何種類もあって、何回もする。

 最初は覚えるのが大変だったけど、いまじゃ使いこなしてる、ふふん。


 家の中ではセドラちゃんとおじいちゃんが夕ご飯の準備をしていた、ちょっとはやくないって思ったけど、お料理は時間をかければかけるほどおいしくなるらしい。もうひとつあって、それは愛情をかければかけるほどってことらしいんだけどよくわかんない、でもきっとセドラちゃんは両方してるからこんなにおいしいお料理がつくれるんだ。


 おじいちゃんに行商人さんから聞いたシルバーファングのことを話して、わたしはテーブルに座る、おじいちゃんはちょっとだけ難しそうな顔をしてた。


「セドラ、村の子供たちが外に出ないよう気を配っておいておくれ」

「はぁい」


 群れを出てからこの姿になっても、群れに襲われることはない。


 でももう仲間だと思われてるんじゃなくって、姿が違ってもどことなく同じ生き物っていう感じがしたり、かといって変身したらしたで、同種だけどどこか違うって違和感がするんだって前に再会した群れの仲間にそれとなく聞いた。彼らは言葉が使えるわけじゃあないんだけど、わたしが言葉を使えるようになったから彼らの意思をぼんやり言葉にできるようになった。


 同じだけど同じじゃない、じゃあ前のわたしはどこにいったんだろう。

 ヒトってわからない、わたしもわからない。


 お夕飯のときに話してみたら、おじいちゃんは君は君だよって言ってくれた。

 わたしはわたし、まちがいない。


「でもヒトの姿になってから、わたし知らないことを知ってるの。

 これは誰がくれたんだろう?」

「天使さまがくれたのかもねえ」

「はえー…」


 天使さますごい、こんなこともできるんだ。

 傘のヒトにお返ししたら、天使さまにも会いに行ってみようかな。


 でもお空ってどう行けばいいんだろう?

 ヒトの姿になったときに、羽根が生えれば……やっぱり重そうだからいいや。


 そうしていると、ごちそうさまの時間がすぐにやってくる。おいしい時間はしあわせだからあっというま、この時間がいつまでも続いたらいいなあってつぶやいたら、食べ過ぎると太って動けなくなっちゃうってセドラちゃんに言われた、それはイヤ。

 狼は身軽で自由に走り回れなきゃ。

 わたしこれでも狼だもの、ほっそりすっきり。

 

 でもヒトの女の子は育つとお胸がおっきくなって走りにくくなるんだって、えー。

 …あ、そういえばお胸で思い出した、ねえおじいちゃん。


「村の男の子ぎゅっとするとお顔真っ赤にするんだけど、あれなんなのー?」

「ああ…それは…えーあー…」

「おじいちゃんこっちに振らないで?」


 おじいちゃんが困った顔でセドラちゃんを見てる。

 おじいちゃん困らせちゃったのかな…いけないことだったのかな、ヒトのココロや言葉ってまだよくわかんない、やっぱりもっとお勉強しなきゃ。でもおじいちゃんが教えてくれないなら誰に聞けばいいんだろう、お空の天使さまかな、会いに来てくれないかな。



 わたしはわるいおおかみです、わぅわぅ。



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