世界を破壊し君を求める一話 最下位からの離脱
―――西暦2060年、ここは外界から遮断された都市・デッドアライブ。
「やあ万年最下位」
人は誰しも自分の物語を持っている。
――道すがらランキングでバカにされるくらいくだらない人生だが。
有名になれば、自分が紡いだ物語を他人に見せることができる。
ただの一般人である人間にも、知られないだけで面白い話があるだとか。
時代が進み、技術の進歩を経て、一部の人間は異能力を手に入れた。
いつからか、中心に聳える建物の最上階には人々の人生物語を管理する者がいるらしい。
力を持つのは画家や作家、映画監督など物語りを紡ぐ人間。
いつからか時代はサブカルチャーに塗り替えられた。
都心の住民のみ、紡いだ人生の物語りが面白いか、つまらないかで決まるランクがある。
頂点に登り詰めたものが、次の査定者になれるという噂がある。
そんなの能力も人生もつまらない自分には関係のない話だ。
「この漫画つまんね
面白いなんて言うやつの気が知れねえよ」
俺はメジャーな作品が嫌いだ。
大多数から支持される物を、自分まで面白いと思えば、つまらない俺の人生が惨めになるからだ。
逆に言えばマイナー作品は好きだ。
誰に見向きもされないで、ひた向きに描き続ける強さは尊敬する。
「あ、メール」
この監視社会では、自分のランキングが毎週メールで送られてくる。
見なくても結果はわかる。
毎度最下位だ。
今すぐにでも出ていきたいが、事情があってそれはできない。
「なあ君、ランキング創立以来ずっと最下位なんだって?」
知らない女が携帯を片手に話しかけてきた。
順位は他人から確認できるシステムなので、最下位をネタにされることも少なからずある。
「有名人にはなりたくないの?」
今まで笑われるくらいで、そんなこと言われたことはなかった。
「なりたくても有名になれるわけじゃない
毎度最下位なんだからそんな夢物語りに期待して生きるのは無駄だろ」
なんで余計なこと言うんだ。
ランキングのことは、無視して考えたくなかったのに、あの女のせいで小さかった頃の自分を思い出した。
―――――
「管理長!システムにエラーです!!」
スーツの少女は、息を切らせながら、タブレット画面を上司に見せた。
「最下位クンの、ランキングが上がっているね」
男は机に両肘をつき、面白い、とだけ言った。
ふと、後ろから、自分に向けられているような殺気がした。
「ランキング上位者は消す…」
誰もいないはずなのに耳元で声がして、俺はその場を逃げ出した。
「逃がすか!」
行き止まり、目の前の壁にナイフが刺さった。
「待てよ!俺は最下位の50だ!!」
俺を消そうとした男に、ランキングの書かれたメール画面を見せた。
「…ならいい」
あっさり立ち去られて、今日だけは最下位でよかったと思う。
去り際に向けられた同情の眼差しが、悲壮感を醸し出すのだが。
無数のナイフが奴の回りを浮いていた。
あれはなんだったんだ。
ランキングされている奴等は俺を除いた皆、能力を持っているからなのか。
そういえば初めは100人いたのがいきなり50人になったのは、ああいう奴がランキングを上げるために消していたからなのか、と納得した。
俺は最下位だから今まで誰にも、命は狙われたことがなかった。
それがどうして今日に限って――――――。
「相手が馬鹿なナンバー45でよかったなあ万年最下位のナンバー50!!」
また、俺を殺しに来たやつなのか!?
―――
「やっぱりケーキはショートケーキだと思います!!」
「否、断固タルトであることを主張する!!」
「モンブランですよ」
「シフォンケーキにきまってます」
「はいはーいアタシはクリスマスケーキがいい!なんかただのショートケーキより旨いきがする!」
「ケーキといえば、ウェディングケーキは一部食べられないところがあるらしいですの」
「あんなデケーナリしてかよ!」
数名の男女が好きなケーキについて言い争っている。
――――なんで俺こんなとこにいるんだろ。
『キミには素質を感じる。我々の組織に入って、共に奴を倒そうじゃないか』
『――――奴?』
『管理都市の独裁者にきまっているだろ』
青年がにっこりと笑った。
やべえなんかそういうのワクワクする。
というわけで組織にやってきたはいいが――――
俺はケーキよりクッキーがいい。
周囲がワイワイ盛りあがっていると、ガチャリとドアが空いた。
「お待たせ~」
―――焦げ茶の髪と銀縁眼鏡が特徴的な人だ。
「mother!」
―――この人が組織の女ボスか?
「はっはじめまして・<おれ>です」
俺は名前を名乗った。
「へー君が最下位君か~会ってみたいと思ってたんだよ」
「そうなんすか?」
普通に考えて最下位だからどんなツラしてるか興味があったとかか?
「まさかレジスタンスに入ってくれるなんて……家族は反対してないの?」
「ていうかまだ入るなんて一言も……それに家族は別の町にいるんで」
外界から遮断されたこの危険な都市。オレがここにいるのは、妹を助けるためだった。
「まあ事情はともかく、なんらかの組織には入ったほうがいいんじゃない?」
「え」
「最下位なのに命を狙われたってことは、なんか君がヤバイってことじゃん?」
「確かに……」
俺は組織に入ることにした。
「やあ新入り、アンタの事軽く調べさせてもらったよ。元は普通に暮らしていたのにわざわざここに、両親を置いて独り暮らし……」
味方にバレているということは敵からも怪しまれているだろうか。
いや、妹がここの奴等に拐われたということを、俺が知っている事を奴等は知らないだろう。
あの日妹は俺が帰宅しても中々帰らず。
捜索願いを出されたが行方はわからないまま半年が経つ。
著名で送られてきた手紙に妹の行方と住所が書かれていた。
それがこの都市で、始めは罠だと思ったが、妹は間違いなくいる筈だと確信した。
内部告発か、たとえ罠だとしても、もう一度あいつに会えるなら構わない。
「自立ってやつです」
「なんにせよ、僕はさっさとこんなとこ出たいんだ。せいぜい足ひっぱらないようにな」
といってモンブランの少年は去った。
ひとまず俺新入りだし、協力して貰うんだからなんかやらないとだよな。
「……ていうか俺に特技とかないんですけど、何かありませんか雑用とかでいいんで」
「そんなヘコヘコしなくていいよ~」
「そうそう」
ショートケーキ好きの少女とシフォンケーキの少年はうなずく。
「みんな仲間なんだしさ……あ、やべっ。まあよろしくである」
否タルトの少女が言う。そして、表情を変える。さっきのはキャラだったのだろうか。
「おい否タルト~」
いかにも頭の悪そ……いや元気少年タイプがガチャリとドアをあけてやってきた。ていうかそれ名前なのか?
「その名で呼ぶな。私の名はマデタチオだ!!」
「マカデミオピスタチオ?」
「バカもん長くなっておるわ!!」
「んなこと言われてもお前の名前覚えにくいんだもんよぉ」
たしかに、やっぱ否タルトでよくね?
俺はこの組織の人間を信用してぐっすり眠った。
彼等を信用していると示すには、次の日に任されるであろう任務に備えておくべきだ。
彼等が万が一敵だったとしても今日は殺されない筈だ。
彼らは俺よりランク上位なのは当然、強いのだから組織内へ入った時点で俺をいつでも殺せるからだ。
「えっと……まずは自己紹介しようよ!」
シフォンケーキの少年は俺が皆の名前とランクを知らないことを気遣ってそれを提案したようだ。
といっても管理者から名前を剥奪されており別名を名乗らなければいけないらしいのだが。
「私はラブ、ランクは20位です」
はじめに名乗ったのはショートケーキの少女だ。
「マデタチオ、16位だ」
否タルトはキャラを保ちながら言った。
「僕はエンペラー。情報処理担当。17位、それだけ」
モンブランは律儀にポジションまでいった。
「ボクはソルソードです。30位、とくに何も悲しい過去とかは無く普通に生活していたらいつの間にかここにいました」
シフォンケーキの少年が申し訳なさそうに後頭部に手をやりながら話す。
その年でもう平謝りするサラリーマンポーズか。
「私はデビル!誕生日はクリスマスイブ!ランクは12位!」
とクリスマスケーキちゃんが言った。
「わたくしは29位のミーンですわ」
ウエディングケーキの話をしていたお嬢様口調の美男が言った。
「オレは15位のスターだ。大アルカナでいうと……まあいいか」
アホっぽいやつはマジでアホだ。
「俺は〈おれ〉です」
「ギャルゲーの主人公かよ」
アホっぽいやつはマジでアホだ。
「俺は〈おれ〉です」
「ギャルゲーの主人公かよ」