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「せいぜい頑張れよ」という部長の呑気な声に見送られて、新聞部部室を後にする。人気のない廊下を七不思議について思いを巡らせながら10歩程歩いたとき、桃香は重大なミスに気が付いた。七不思議の内容について聞き忘れていたのである。入部試験であるうえに、あの部長が教えてくれるとは思えなかったが、急いで部室へと引き返す。血糊の扉を叩き、「すみません」と声をかけた。相変わらず、返事はなく、桃香は再び勝手に扉を開けた。
中には誰もいなかった。この部屋を出てからそれほど時間は経っていないはずなのに。近くにいたのだから、部屋を出たのなら、扉が開閉する音が聞こえてもおかしくないはずだ。どこかに隠れているのでは?と思い、少し探してみたが、見つからなかった。
夕方のオレンジの日差しが部屋に差し込む。
白い清潔感のあるレースのカーテンがさらさらと揺れる。運動部だろうか、元気の良い掛け声が聞こえてくる。窓が空いているようだ。1階に部室があるため、ここから部屋を出ることは可能だ。部長はここから外へ行ったのかもしれない。
真相が何であれ、七不思議の1つはこれで良いのではないだろうか、と思った。