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春夏  作者: 塩きみどり
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焼きそばを食べ終えると、手首の時計が9時をさそうとしていた。そろそろ祭も終わりにさしかかろうとしている。

「そろそろ花火の時間だね」

祭りも終わりに差し掛かっている。屋台にいた人々も数が減り、皆花火が見やすい位置に移動し始めている。

「それにしても、市でお金を出して花火を行うなんて贅沢だね」

さすがに神社内で火気を扱うわけにはいかないので、神社から少し離れたところに流れる川で花火の打ち上げは行われる。

「私たちもそろそろ移動しようか」

群衆と共に土手へと向かおうとすると、桃香に遮られた。

「私たちはこっちにしよう」

「え? なぜです?」

桃香は質問には答えず、ひなたの腕を掴むと、群衆とは逆方向へと歩み出した。





「ここだよ。穴場なんだ」

歩くこと数分、神社内に広がる林を抜けたその先に目的地はあった。

木々に覆われた林の中、ぽっかりと開いた空間があった。そこは小高い丘のようになっていて、川までの住宅地の明かりや花火を見に向かう群衆が見えた。

腰掛けるのにちょうどよい岩が横たわっていて、桃香はその岩に腰を下ろすと、隣のスペースの砂埃を手で払ってから、座りなよと勧めてくれた。

「すごいじゃないですか。眺めも良いしベストスポットじゃないですか」

辺りには誰もいない。この場所を知る人はほとんどいないのだろう。

「あはは、小さい頃に神社の敷地内をイツキと探検ごっこをしてたら見つけた場所でね。小さい頃はよくここで花火見てたんだ」

「イツキさんと、ですか」

桃香の口からイツキのことを聞くと胸が苦しい。桃香とわたしが出会う前から、桃香とイツキは遊んでいたんだ、この場所でも。どんなときだってわたしは桃香の一番でありたいと思う。誰よりも一緒にいたいと思ってもらいたいし、一番近くにいたい。時間的な意味でわたしにはイツキに対して勝ち目がないけれど。それでも願ってしまうんだ。

わたしは今、どんな顔をしているだろう。正面から顔を合わせるのが辛くて土手に座る群衆を睨み続ける。目から生暖かいものが頬を伝うのを感じた。

「―――」

桃香が何かを言ったが、それは花火の音でかき消された。

花火の打ち上げが始まったのだ。

夜空に巨大な炎の花が咲く。

花火の爆発音がどろどろとしたわたしの心の邪気を払っていく。

花火の合間にガサガサと音がして横の桃香を横目で見る。

桃香は鞄からハンカチを取り出すとわたしに手渡した。

「見てたんですか」

ぼそりと呟く。桃香の耳にその言葉が入ったかはわからない。

なんだか恥ずかしい。友人に嫉妬して、想い人と二人きりの時に泣いてしまうなんて。

ハンカチを受け取り、厚意に甘えることにした。


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