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入学式が終わり、自分の教室へと向かった。式典前にクラス分けの掲示を見ることが出来なかった私は掲示を見てから教室に向かったため、一歩出遅れてしまった。教室に入る前から、閉じた扉の中から女子特有の高い声で談笑が聞こえてくる。
よし行くぞ!と、自分に気合を入れ、扉を勢いよく開く。すると、目に飛び込んできたのはデジャヴ。大勢の取り巻きに囲まれた良く知っている人物であった。
「お嬢さん、お名前を教えてもらえないかな?」
「はるかと申します」
「だから君の笑顔は春の暖かな日差しのように優しいんだね。これから3年間、君の笑顔で私を照らし続けてくれないか」
「「キャー!」」
黄色い歓声が上がる。一樹だ。どうやら同じクラスになったらしい。
私には一樹の振る舞いが芝居がかったように感じるのだが、他の人たちはどう思っているのだろう。
しばらく一樹とその新しい取り巻きたちを眺めていると、一人の女生徒が合間を縫って中心へと踏み込んでいった。そして、一樹の肩をたたいた。
「おや、どうしたんだい?」
女生徒に気付いた一樹が振り向き、声をかける。
「初めまして。わたくしはと深雪と申します」
「素敵な名前だね。君のウェーブがかった髪の美しさを見て、女神が降臨したのかと思ったよ。君のことを姫と呼んでもいいかな?」
一樹は深雪の前に、彼女の手を取った。
彼女が「はい」と答え、一樹は彼女の手の甲にキスをするサービスをするのだろうなと予想したが、そうはならなかった。
「いいえ。わたくしのことは深雪とお呼びください。それよりも……」
深雪が両手で一樹の手を握り返す。想定外の行動に驚いたのか、一樹が顔をあげる。
「ついに見つけたわ、王子キャラの女子! あなたのような逸材をずっと探していたのよ。お願い、わたくしのモデルになって!」
「え、モデルって?」
一樹は興奮した様子の深雪に圧倒されている様子だ。
「小説のモデルよ。お願い、あなたしかいないの」
長い付き合いの私は知っているが、一樹はおだてられると調子に乗るタイプの人間だ。「あなたしかいない」という言葉は一樹に強烈な一撃に違いない。
「ふふふ、私でよければいつでも力になるよ」
一樹の顔は太陽よりも眩しく輝いていた。