表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春夏  作者: 塩きみどり
2/50

入学式にはなんとか間に合った。新入生席と呼ばれる席へ案内された。私が最後だったらしく、一番端の席だった。一樹の方は同じ列ではあるものの、反対側の方に座っているのが見えた。

 入学式が行われるホールは非常に広く、2階席もあるようだ。それが女性だけで満たされている。ホール内は熱気よりも女性独特の甘い香りが充満していた。これが女子校かぁと感慨に浸っていると、壁際から視線を感じた。視線の主はじっとこちらを見つめている。    

 髪は肩にかかるくらいのミディアムヘアでなのか、毛先がはねていて可愛らしい雰囲気の子だ。彼女はじっと物言いたげな表情でこちらを見ている。知り合いかと思ってしばらく見つめ返してみたが記憶にない。壁際に用意されている席に座っていることから、彼女は式典で何か役割を持った人物なのだろう。

 そうしているうちに、式典が始まった。校長先生がステージ上に上がり、教壇に立つ。白髪交じりで恰幅の良い人のよさそうな男性である。

「新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。丘の桜も美しく花開き、皆様の門出を祝福しているようであります……」

よくある挨拶である。お嬢様学校といっても、男子禁制というわけでもないし、挨拶も普通だ。

 ふと、先程こちらを見ていた女の子が気になって、壁際に視線をやった。さすがに校長挨拶の時は舞台を見ているだろう。

 しかし、その予想は裏切られた。彼女は変わらずじっとこちらを見つめていた。物言いたげでもあるが、恨めしそうな表情でもある。

私が彼女に何かしたというのだろうか。

 視線を合わせ続けることに一種の気まずさを覚えた私は再びスポットライトが照らす恰幅の良い紳士に目を向けた。

「建学の精神を基に気品と知性を兼ね備えた人間性豊かな女性になれるよう、仲間たちと共に歩んでいきましょう……そのためには……であるからにして……」

こっそり寝息をたてている生徒もいたが、人の話は最後まで聞くというポリシーを持っているため、私は一緒になって眠ることはなかった。だからといって、視線が気になって集中して聞くことも出来なかった。

「次は新入生挨拶です」

 司会役の生徒がアナウンスをする。すると、あの視線の主が立ち上がり、教壇へと向かった。その子の身長は小さめで、華奢である。近くで見たら、女子の平均身長ぴったりの私よりもずっと小さそうだ。

 檀上にのぼった彼女はしく一礼をすると、目を閉じ、大きく息を吸ったように見えた。緊張しているのだろうか。しかし、再び開かれた彼女の瞳は力強い輝きを持っていて、そんな私の心配を裏切った。

「新入生代表のひなたです。本日は私たちのためにこのような素晴らしい入学式を挙行して下さり、ありがとうございます。不安もありますが、それ以上にこれから始まる高校生活に期待と希望を感じています。

 仲間たちと互いに切磋琢磨しあい、成長していきたいです」

 小柄な彼女から発せられる意志のこもった言葉ひとつひとつに、ただ圧倒された。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ