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入学式にはなんとか間に合った。新入生席と呼ばれる席へ案内された。私が最後だったらしく、一番端の席だった。一樹の方は同じ列ではあるものの、反対側の方に座っているのが見えた。
入学式が行われるホールは非常に広く、2階席もあるようだ。それが女性だけで満たされている。ホール内は熱気よりも女性独特の甘い香りが充満していた。これが女子校かぁと感慨に浸っていると、壁際から視線を感じた。視線の主はじっとこちらを見つめている。
髪は肩にかかるくらいのミディアムヘアでなのか、毛先がはねていて可愛らしい雰囲気の子だ。彼女はじっと物言いたげな表情でこちらを見ている。知り合いかと思ってしばらく見つめ返してみたが記憶にない。壁際に用意されている席に座っていることから、彼女は式典で何か役割を持った人物なのだろう。
そうしているうちに、式典が始まった。校長先生がステージ上に上がり、教壇に立つ。白髪交じりで恰幅の良い人のよさそうな男性である。
「新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。丘の桜も美しく花開き、皆様の門出を祝福しているようであります……」
よくある挨拶である。お嬢様学校といっても、男子禁制というわけでもないし、挨拶も普通だ。
ふと、先程こちらを見ていた女の子が気になって、壁際に視線をやった。さすがに校長挨拶の時は舞台を見ているだろう。
しかし、その予想は裏切られた。彼女は変わらずじっとこちらを見つめていた。物言いたげでもあるが、恨めしそうな表情でもある。
私が彼女に何かしたというのだろうか。
視線を合わせ続けることに一種の気まずさを覚えた私は再びスポットライトが照らす恰幅の良い紳士に目を向けた。
「建学の精神を基に気品と知性を兼ね備えた人間性豊かな女性になれるよう、仲間たちと共に歩んでいきましょう……そのためには……であるからにして……」
こっそり寝息をたてている生徒もいたが、人の話は最後まで聞くというポリシーを持っているため、私は一緒になって眠ることはなかった。だからといって、視線が気になって集中して聞くことも出来なかった。
「次は新入生挨拶です」
司会役の生徒がアナウンスをする。すると、あの視線の主が立ち上がり、教壇へと向かった。その子の身長は小さめで、華奢である。近くで見たら、女子の平均身長ぴったりの私よりもずっと小さそうだ。
檀上にのぼった彼女はしく一礼をすると、目を閉じ、大きく息を吸ったように見えた。緊張しているのだろうか。しかし、再び開かれた彼女の瞳は力強い輝きを持っていて、そんな私の心配を裏切った。
「新入生代表のひなたです。本日は私たちのためにこのような素晴らしい入学式を挙行して下さり、ありがとうございます。不安もありますが、それ以上にこれから始まる高校生活に期待と希望を感じています。
仲間たちと互いに切磋琢磨しあい、成長していきたいです」
小柄な彼女から発せられる意志のこもった言葉ひとつひとつに、ただ圧倒された。