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長編処女作です。投稿テストを兼ねています。
文章がひどいのは許してください。
百合ものです。苦手な方はご注意ください。
近所でも可愛いと評判の新品の制服に身を包み、自室の姿見の前で一回転すると、スカートの裾と胸元の大きなリボンがふわりと持ち上がった。憧れの制服を身に着けているという感動が頬を緩ませる。緩んだ頬を除けば、鏡に映る女子高生に100点満点で200点をつけてあげたい。
そうなのだ、私は今日から高校生になる。念願の高校生デビューというやつだ。それも普通の高校ではない。女子校に入学するのだ。未知の世界に踏み込む緊張と好奇心で心臓が激しく鼓動している。
気持ちを落ち着かせようと、バチン、と緩んだ頬に喝を入れる。
「よし、頑張るぞ!」
私の家は一戸建てで、私の部屋は二階にある。一階にあるリビングへ降りていくと、弟の大地がトーストにバターを塗っているところだった。
「あれ? 大地にしては起きるの早くない?」
「姉貴の着替えが遅かったんだろ? 春休みの間に太って着られなくなっちゃったのかと心配してたんだぜ」
「そんなわけないでしょ」
向かい側の席に腰かけたところで、壁掛け時計が目に入った。針が示す数字を見て、冷や汗が噴き出すのが分かった。
「お姉ちゃんもやっと降りてきたのね。ちょうどトーストが焼けたところだけど、ジャムとバターどっちがいいかしら?」
のんびりとした声の主がキッチンから顔を出す。ニコニコと笑顔を振りまくエプロン姿のこの女性は私の母親だ。
「お母さん! どうして呼んでくれなかったの! 遅刻、遅刻しちゃうよ! ……あ、パンはそのままで!」
テーブルの上のコーヒーを一気に飲み干し、お弁当の包みとトーストを受け取って、外へ駆け出す。春だというのに、ひんやりとした空気が肌をかすめる。
今日から通う私立倉光女子高等学校、通称倉女は家から徒歩15分くらいのところにある。原則自転車通学は禁止。主な理由は急な坂だ。校舎は丘の上に建っている。
住宅街を走っていると、上り坂が見えてきた。頂上には目的地としき建造物が見える。辺りには制服を着た生徒は見当たらない。入学式当日にぎりぎりで登校する生徒なんて他にはいないのだろうか。とりあえず、この状況は好都合である。
「早くトースト食べちゃおう」
いったん路地に入り、掴んでいたトーストを頬張る。某漫画の主人公みたいに食パンをくわえて登校したいところだが、この丘の先にそびえるのは女子校。しかもこの辺りでは有名なお嬢様学校でもある。そんな生徒が食パン登校をするわけにはいかない。
「もぐもぐ……ほのかなバターの風味が美味しいですなぁ。ここにコーヒーもあったら最高なのに」
朝のコーヒーを水筒に入れて持って来れば良かったなと後悔しつつ、トーストを食べ終え、丘を見据える。
やはり辺りには誰もいない。時間的には坂を駆け上がれば間に合うはずだが、丘の上からは小さいながらもどよめきが聞こえる。それとはまた別に、すぐ真後ろから足音が聞こえた。何者かに肩をたたかれる。
後ろを振り向くと、170cmはある長身の人がいた。その人のショートヘアが朝日に照らされ、きらきらと輝いている。
「おはよう、お嬢さん。……ふふっ、ちょっといいかな」
その人は私の頬についていたパン屑をつまむと自分の口の中に入れた。そして慣れた手つきで私の顎を持ち上げる。
「美味しいね。これは君の味かな?」
「イツキ!」
一樹 亜紀。中学の時からの友人だ。演劇部で男役をやっていて、共学だったにも関わらず女子にモテモテだった。モテる理由はルックスも良く、運動神経抜群、勉強もできるところもあるが、劇中のセリフを恥ずかしがらずに素で言えるところが大きいだろう。同じく倉女に入学するということは本人の口から聞いていたが、噂によると演劇特待生として入ったらしい。一樹自身は真偽をはぐらかしているが、特待生になっても疑いの余地がないほどに彼女の演技は素晴らしい。
「イツキに会えてよかったー。スカート似合っているじゃん」
「そ、そんなに見ないでくれよ、恥ずかしいんだから」
一樹は顔を赤くしてスカートを鞄で隠すが、初めて見る彼女のスカート姿はすでに脳裏に焼き付いていた。一樹はあまりスカートを履くのを好まないらしく、中学では演劇の練習を言い訳にジャージ姿が多かったので新鮮だ。
スカートが一樹のすらっと長い脚を際立たし、スタイルの良さを引き立たせている。一樹のスタイルの良さが羨ましい。
「ところで、桃香は急がなくていいのか?」
「あっ! 遅刻しちゃう!」
慌てて駆け出すが、一樹が付いてくる気配はない。不審に思って振り返ると、クラウチングスタートの姿勢をとっている一樹と目があった。彼女は不敵な笑みを浮かべている。この友人の行動が意味することを瞬時に理解した私は、再び前を向いて全力で走る。
しかし、次の瞬間には風と共に一樹が私の横を過ぎ去って行った。
「イツキの裏切り者!」
私の悲痛な叫びが響き渡った。