表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

前日譚 Case.4 買い物

こちらは前日譚の追加となります。

前日譚は先輩彼女(サヤカ)後輩彼氏(ユウ)の二人劇で、本編開始前の時間軸になっております。

「そーらわたし様のお帰りだよー」


「おかえりなさい、先輩」


 俺は玄関で先輩を出迎えると、買って来たものをすべて受け取る。


 こういう時の作法はもちろん心得てるが、俺は新妻じゃないので例のアレは自粛する。


「買って来たよー。マイボトル。じゃーん」


「先輩、効果音口で言うのやめてくださいね。お、青い片手で開栓できるタイプのマグボトルだ」


「じゃあキミのその説明口調は何なのかな。いいでしょー。ピンクのもあったんだけどなんか派手派手しくてね」


 親指をクイッと押し込むと蓋がパカっと開く、お子様にも好評なやつである。


「先輩らしいですよね。別に女性が使うならピンクでも全く問題ないと思いますけど」


「まぁその辺はなんとなくだよ。うん。あの色ならうっかり隣りに置いてあったキミのボトルと間違えて持って行かないようにするなんて効果も期待できたかもしれないけど」


 じゃああえてその色を避けた理由は何なんですかね?


「ちょっと? やめてくださいね? てか別にこっちには持ってきませんから。必要性もないし」


 今後も自分の部屋でだけ使うことにします。


「なんだよー。私のマイボトルと並べてお揃気分味わおうぜー」


「ボトル持参で外出することがあればそんな気分にも浸れますよ。行きますか? ピクニック。最近土砂降り続きですけど」


 そう言って俺は窓の外を指示す。


 今は厚い雲が覆ってはいるものの、ギリギリ雨は降っていない。


 先輩はこの貴重な雨間を利用して、素早く買い物してきたのだろう。


「もう何日目なんだろうね、この急な土砂降り。降ったり降らなかったり。洗濯物が生乾きになっちゃうから困るんだけど」


「浴室で換気扇使いつつ扇風機併用するしかないですね」


 雨の日でも洗濯物を確実に乾燥させることが出来る必殺技だ。


「そうすると今度はお風呂入るのにも支障をきたすじゃないかー。もう、めんどいなぁ」


「乾燥機機能は使わないんです? 洗濯機についてましたよね?」


 そう、最近の洗濯機には乾燥機能が付いているのだ。びっくり。


「うーん。あれねぇ。買った当初は使ってみたんだけど、いまいち具合が良くなくて」


「乾かなかったとか? それとも縮みましたか」


「乾いたような完全に乾ききってないような。何とも微妙に判断に困る結果でね」


 そう言う先輩の眉根はハの字を描いている。


「おしぼり状態だったんですか。ほっかほかの」


「流石にもうちょっと乾いてたけどね。あと、電気代も気になって」


「俺、先輩の洗濯機の乾燥機能の仕組みはよく知らないですけど、あれってドライヤーずっと使ってるみたなもんなんですかね」


「さあ。説明書とか見たら少しは分かるんじゃない?」


「理解しようとする気ゼロですね?」


 ちなみに説明書の類をこの部屋で見たこともない。


「うーん。だってめんどいじゃん?」


「せっかくあるんだから有効に活用できたらいいんですけどね」


「まぁ、どうしても今すぐ乾かさなきゃいけなくなったら使うこともあるかもしれないよ」


 未来はわかんないからね、という先輩に容赦なく突っ込む。


「先輩、あの洗濯機買ってからどれくらいになります?」


「そうだねぇ。この部屋入る時に新品で買ったやつだから、二年ぐらい?」


「買った直後に数回乾燥機能試した後、今日まで全然使ってないってさっき言ってませんでしたっけ」


「言ったね」


 確かに聞いたぞ。


「もう一度使う日は、来るんでしょうかねぇ……」


「今すぐ乾かすで思い出したけど、コインランドリーの乾燥機ってあるじゃない」


 先輩はふと思いついたように人差し指を立てて、四角く空間を切り取る。


「ありますね。業務用ガス式乾燥機ですよね。あれは乾燥にお金払ってるだけあってよく乾きますよね」


「そうそうそれ。で、洗濯機の乾燥機能をあれ基準で評価するとすっごく悲しい思いをすることになるんだよ」


「そうなんです? 確かに電気式よりガス式の方が乾燥能力は上みたいですけど」


「時間がね。めっちゃかかるんだ洗濯機の機能だと」


「具体的にどのぐらいかかるんです?」


「確か三時間とか四時間ぐらいかかった気がする」


 うーん、それって予備干し(下ごしらえ)ぐらいのつもりで使わせてるのかなメーカー。


「……天気が良ければ天日の方が早いってケースすらありえますね」


 天気の如何にかかわらず最初から乾燥機に任せてる人もいるだろう。


 忙しい単身者とか共働き夫婦とか。


「それに生地も痛むっていうじゃない? 特に乾燥が終わっても放置するとよくないらしくて」


「出掛けに放置もあまりよくないと」


 乾燥機能めんどくさいなもう。


「数時間家の中にいてかつ外に干せなくてすぐ乾いて欲しい時。前提条件厳しいよね」


「なるほど。確かに」


 その状況なら諦めて別の服を用意した方が圧倒的に早くて確実だ。


「ということでこの機能が有用なシーンに未だ巡りあったことがないんだよ」


「乾かすだけなら常に気流があれば意外と乾いちゃいますからね」


「だいたいは浴槽で換気扇と扇風機併用すれば割と早めに乾いちゃうしね。こっちは放置しても全く問題ないし」


 お風呂に入るたびに片付けなきゃいけないけどね!


「それはそうと、買い物付き合えなくてすみません。いつの間にか寝入っちゃったみたいで」


「いいのいいの。キミぐっすりだったからね。お疲れなんじゃないの? 昨夜も遅かったしね」


 俺は先輩一人で買い物に行かせてしまったことを謝る。


 二人の時は荷物持ちが俺の仕事だ。


「それは先輩も同じですからね。んーっ。さて、それじゃせめて夕飯作りぐらいは手伝わせてもらいましょうか」


 俺はせめてもの罪滅ぼしとして夕食の下ごしらえを志願する。


「お、頼んでしまってもいいのかい? じゃあじゃがいもの皮むきをお願いしようかね。ピーラー、要る?」


「そうですね、じゃあください。一つしかない包丁俺が使っちゃったら先輩が包丁使えなくなりますしね」


 皮を剥く道具があるならそれを使えばいい。


 調理者の手を止める程でもない。


「うんうん。別に男の子は包丁苦手でもいいんだよ? 彼女様に役割を残してくれてるんだよね。やさしいねぇ」


「べ、別にじゃがいもの皮むきくらい包丁でできますよ。こんなの難しくもなんともないんですからね!」


「ツンっ子きたー。これで実際にやらせてみると皮と一緒に実も壮大にゴリゴリ削っちゃうんでしょう?」


「食材の使える部分が十分の一になるっていう残念イベントですね。発動は回避させていただこう」


 世の中にはピーラーで果肉を削るという、逆に難しいんじゃねぇのかそれという妙なテクを持った奴が居るらしい。


「必殺! 微塵切り!! おらおらおらおらー」


「まさに必殺。先輩の微塵切りを食らって生き残れた食材(ヤツ)はいねぇ! ヒャッハー!」


 あらかた切りそろえた玉ねぎを重ねて微塵切りにしてるだけである。念のため。


「そういやキミはにんじんって乱切り派? いちょう切り派?」


「どっちでもいけますねー。特にこだわりはないです。なんなら半分すりおろして、半分乱切りって手もありますし」


「あ、いいよねそういう一手間かけた調理手順。なんか料理してるって気になるよ」


 先輩は手を止めてしまっていたことに気づくと、改めて人参の加工に戻った。


 とんとんとんとんとある程度リズムカルな音がキッチンに響く。


 俺は流しにボウルを置いて、その上でピーラーを使ってじゃがいもの皮を剥いていく。


「昔、林間学校でカレー作った時に玉ねぎ嫌いな奴がいて、全量すりおろして使う羽目になった時には流石に疲れましたけどね」


「なにそれかわいい」


 先輩は切りそろえた材料達を水を入れた鍋に入れて、火をかける。


 根菜類は硬いので必ず水から煮ましょう。


 皮を剥き終わったじゃがいもも一緒に処理してもらう。


「大変だった上に見回りに来た教員に玉ねぎどうしたちゃんと入れなきゃ駄目だろって言われて困っちゃって。全量すりおろして入れてありますって言っても見た目にはわかんないし」


「そりゃそうだ。ルゥ入れちゃった後ならなおさらわかんないよね。で、どうしたの?」


「剥いた玉ねぎの外皮見せてちゃんと使ったって主張しましたよ。全部すりおろすにしても流石に外皮は外しますからね。それ見て納得してました」


 おろし金にも多少擦り残しが付いてたしね。


「まぁ、他に主張しようがないからね。食べてもわかんないんでしょ?」


「そりゃわかんないように食べられるようにすりおろしたんですからね。ああ入ってるなってわかっちゃったら全く無意味な骨折り損ですよ」


「ちがいない。っと、冷凍キノコ入れるんだったね。上の冷凍庫に入れてあるから出してくれるかな?」


「ほいほい。このままぶち込んじゃいますねー。どぼーんと」


 言われた通り、冷凍庫の上の段にあった冷凍ぶなしめじを沸騰している鍋に突っ込む。 


「流石に冷凍してあったもの入れると沸騰が消えるね。これは再沸騰したらもう食べられるってことなのかな?」


「おそらくは。どうせまたルウ入れた後も弱火で加熱しますから、いいんじゃないですかね」


 とりあえずおたまでぐるぐるかき回しておく。


「んじゃ沸騰したらルゥ入れちゃってね。面倒でも一度火を止めるんだよー」


「はいはい。先輩に言われるまで手順違うことに気づかなかったのは確かですけど、もう覚えましたよ」


 前に作った時に弱火のままでルウを入れたら、は? みたいな目で見られたのだ。


「箱の裏にちゃんと火を止めてからルウ入れなさいって書いてあるのにねぇ。なんで普通に加熱したまま入れてたのさ」


「実家がそうだったから、としか言いようが無いですね。別段意識してやってたわけでもないですし」


 言われるまで気づかないぐらいだし。もちろんこだわりなど何もない。


「ふーん。まぁわたしも火を止めてルウ入れた後は溶けるまで他のことしてるから、実際のとこ絶対火を止めなくちゃいけないのかどうなのかはよくわかんないんだけどね」


「細かいことはいーんです。美味しくできりゃいいんですよそれで」


 正直溶けやすくなるかならないかぐらいの違いじゃないの?


 味にそこまで影響してるとは思えない。


「それもそうだね。じゃあ、その分たっぷりわたしの愛情を入れとこう」


「おっ。それはできたらアツアツのうちに食べないといけませんね」


「わたしの愛情はあっついからね。やけどしないように気をつけて食べるんだよ」


「それじゃ、胸焼けもしないように気をつけるとしますね」


「なんで最後梯子外したのさ!?」


 だって、なんか、ねぇ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ