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マリスレギオン  作者: シエン@ひげ
第1章 クロエ
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Ⅰ-5 嘗てユウシャと呼ばれた者の逆襲

 ネフィアとサイラスが最初に向かったのはサンタイト王国だった。勇者祭の開催を直前に控えたこの日、彼らは人類側の首都とも言える王国で一夜を過ごしたのだ。そして移動の疲れを癒した次の日、ふたりは王に挨拶すべく謁見の間へと向かった。


「久しぶりだな、ネフィア。いつぶりだ?」

「半年ってところかしらね」


 久しぶりに会う仲間と軽い挨拶を交わし、ふたりは微笑する。

 ネフィアから見て、サイラスは裏表がない人物だった。少なくともクロエよりは信頼できる人物だと思っている。外見はいかつい大男なのだが、これでも精霊から携わった聖剣に選ばれた人格者なのだ。魔王を討ち取った剣は今、サイラスが所持している。これは精霊によって選抜された人間にしか握れないとされた代物だった。


「聖剣はまだ持っているのね」

「ああ。返すべきかとも思ったんだがな……」


 腰に携えた聖剣の柄を握りながらサイラスは口を開く。

 彼は脳裏に浮かぶ『前の所持者』の影を思い出しつつも、それを振り払った。


「いかんせん、魔王を倒したばかりでまだまだ混乱は起きている。暗黒大陸での調査も継続中だ」

「そう……まだ幹部クラスのモンスターが潜んでいるのかしら」

「クロエの情報だとそうらしいな。一部の種族は魔王に仕えながらも隠れながら生活していたらしいし」


 クロエの情報網を信じるなら、強力で希少種であるドラゴンの群れが暗黒大陸のどこかに潜んでいるらしい。彼らが新たな魔王を名乗る前に討ち取るのがサンタイト国王の意向だった。が、残念ながらドラゴンたちの住処はまだ見つかっていない。


「暗黒大陸はまだ未知の領域だからな。調査し終わるまで時間がかかりすぎる。その過程や結果として必要なら俺が剣を振るうまでさ」

「そうならないことを祈りましょう」

「……そうだな」


 ネフィアの言葉に戦士は小さく頷いた。

 今、サンタイトは平和そのものだ。小さな争いはあるが、1年前のようにモンスターたちとの戦争による大きな被害は出ていない。犠牲が大きすぎる戦いは終わったのだ。後は次の時代が来るのを待つだけである。

 それがネフィアの願いであり、サイラスの願いでもあった。


「……戦いは無い方がいい。そうでないとアイツも浮かばれないもんな」

「……ええ」


 1年前まで自分たちを引っ張ってきた少年の影を思い出していると、謁見の間から大臣が姿を見せた。

 サイラスとネフィアは大臣と挨拶をすると、その場で畏まる。


「では、サンタイト国王様がお見えになる。両者とも、失礼のない様に」

「はっ!」

「はい」


 ふたりの返事を見計らったタイミングで、玉座の後ろから国王が姿を現した。サンタイト国王は胸元まで伸びる白い髭を撫でつつ、自身の玉座へと腰かける。


「ん。楽にせよ」


 細目で瞳は見えないが、優しい声色だ。柔和な態度の為か国民からの支持も高い。また、誰にでも親しみやすくをモットーとしており、自身から国民たちと語り合う場を設けるといった行動も起こしている。

 サンタイト国王は常に国と国民のことを第一に考えていた。だから国にとって有益だと思えば、モンスターだって平気で使う。


「クロエはまだ来ていないようだが、ふたりは知らんかね?」

「後から追ってくると言っていました。なんでも、まだ片付けていない調査があるそうで」

「なるほどなぁ。まあ、あやつのことだからすぐに来るじゃろう」


 国王はクロエに絶対的な信頼を置いている。あの少年が国を裏切らないと理解しているからだ。

 同時に、ネフィアとサイラスもである。彼らは立証してみせた。サンタイトの平和を破壊しかねない勇者の抹殺に協力してくれたのだ。


「ふたりとも、忙しい中よく来てくれた。聞いているかもしれんが、勇者祭はお前たちが主役になる。サンタイト中の国民に元気な姿を見せてあげなさい」


 勇者祭にはこれ以上の他意はない。

 魔王を倒した英雄たちへの慰安。そして国民に彼らの元気な姿を見せること。これだけが目的だった。他意はない。サンタイト国王は心からそう願っている。

 国王の真摯な言葉に嘘はない。それを知っているからこそ、サイラスとネフィアも頭を垂れるしかなかった。

 同時に、不気味にも思う。


 国王と精霊がほぼ同時期に『シンドーを殺せ』と自分たちにいってきた。ふたりは自分たちにとって尊敬すべき、あるいはもっとも信頼を寄せる存在だと言ってもいい。が、今となっては本当に正しい選択だったのだろうか。


「……」


 何度か直接問おうと思った事はある。サンタイト国王がシンドー抹殺を指示したのはクロエに対してのみだ。だからサイラスたちはクロエの口からしか真相を聞いていない。

 しかし、帰還したクロエが国王に報告している場面を見た以上、あの心優しい国王が勇者抹殺を命じたのは間違いないのだろう。問題は理由がわからないことにある。精霊も同様だが、彼らは揃ってシンドーが平和を脅かすとしか言っていないのだ。


『……サイラス。気持ちはわかるわ。でも、今は直接語るべきではないと思うの』


 隣のネフィアが魔力を通じ、直接脳内に語りかけてくる。

 

『クロエも私に牽制してきた。彼がここに居ない以上、迂闊な行動は控えるべきよ』

『確かにアイツはすばしっこいし手強い。だが、納得できないまま終わるのは……』

「し、失礼いたします!」


 脳内で会話をしていると、真後ろから慌てた様子で兵士が入ってきた。

 大臣が険しい表情で叱ろうとするが、王はそれを手で制する。


「よい。なにがあった?」

「はっ! 先程入りました報告ですと、調査団団長のクロエ様が遺体で発見されたとのことです!」


 クロエが死んだ。

 サイラスとネフィア、そして国王は顔色を変えて兵士の言葉を待つ。


「遺体は精霊像に突き立てられており、周りにはクロエ様の血で書かれたとされる勇者一行のシンボルマークが確認されております!」

「クロエにはローグの部隊が付いていた筈だ。そいつらはどうした!?」

「全員、遺体で発見されております」

「まさか、街中で!?」

「は、はい!」


 そんなまさか。クロエが指揮するローグ部隊は本人も含めてかなりの手練れ集団の筈だ。それが街中で、しかも全滅していたなんて話がある筈がない。


「誰がやったのかわかるか!?」

「それが、目撃証言が取れず……」


 大臣が兵士とやり取りする中、サイラスたちはある可能性に辿り着いていた。

 いるのだ。

 たったひとりだけ。クロエ達をあっさりと倒してしまえるような怪物に心当たりがある。もしも彼が生きていたとしたら。

 勇者のシンボルマークは、自分たちに向けられたメッセージなのだろうか。


 だとするといずれ彼はやってくるのだろうか。有無を言わせぬままに殺しにかかった自分たちの前に、もう一度。










「マスター。相談があります」

「なんだい、リナ」

「クロエと戦って理解しましたが、解毒剤が無ければ毒で殺されていた可能性があります。後の2人が実力者であることを考えると、念入りに準備をしておきたいのです」

「良いと思うな。それで、具体的にはどうしたい?」

「はい。一度私の生まれ故郷……竜の里に来ていただきたいのです。そこに祀られている炎の剣があれば、きっと次の獲物も屠れるでしょう」

「因みに、次はどっちをやるのかな?」

「もちろん、剣で挑むのは剣を持つ相手です」


 剣士サイラス。マスターの剣を奪い、我がものとして扱う不埒者。

 お前が聖剣に選ばれたと誇示するならば、こちらはその剣を持って答えよう。その結果敗北したならば、きっとサイラスは絶望に染まる。

 マスターが喜ぶ。


「命令を、マスター。私に殺せと仰ってください」

「もちろんだとも、リナ。サイラスにレギオンを刻んであげよう」

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