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隣の席の相島君  作者: 伊藤 唯羅
本編
8/28

忘れたのよね

 始業式を終えて間も無く体育祭の練習が始まった。

 開催日は八月末の金曜日と土曜日の二日間。

 体育祭とひと括りにいっても百メートル走や騎馬戦などと言った競技ではなく、バレーボールやサッカーといった球技を行う――所謂球技大会だ。この学校ではこれを『体育祭』と称している。

 各競技、出場する選手は夏期休暇が始まる前に既に決まっていた。

 桜はバスケ、相島君はサッカーに登録されている。


「そういえば女子バスケって休み中に練習した?」

「さあ。やっていたのだとしても、私は参加してないわ」

「まあ、そうだよなぁ。俺とずっと勉強してたもんな」

「それが無くても変わらなかったわ。チームの誰一人、連絡先を知らないし教えてないし」


 はは、と彼の口から乾いた笑いが零れた。

 それに桜は特に気にもせず、というか、と続けた。


「誰と一緒なのか忘れたのよね」

「重症じゃん! 確か女バスは、ほら、あいつらだよ」


 彼は芸人の如くすかさずツッコミを入れた。

 そう言って彼が指を指したのは、


「ああ、彼女達か」


 例の三人組だった。



 桜と同じくまるで練習していない相島君は、昼休みになるとすぐに他の仲間達と教室を出て行った。

 サッカーは屋外競技。

 外は炎天下。空は一点の曇りもなく、太陽は射すように顔を輝かせていた。

 その中を元気に走り回っている彼を窓から眺めている桜に、声が掛かった。


「黒田さん」


 振り向けば、彼女達が、いた。


「体育祭の事、話そうよ?」





 ***





 でさあ。ふぉーめーしょんとかどうするー?

 適当でイーじゃん。よくわかんないしィ。

 それなー! ぶっちゃけ難しいコト考えんのダリィしねー。

 ねっ。あんたらもそれでイイっしょ?


 桜と女子三人組と、そしてもう一人の女子。

 この五人で話し合いを進めていく。

 話し合い、といっても話しているのは三人組だけだ。

 三人組は左から、彩音、香那、菜々子という名前だ。先程からの彼女達の会話で、桜は知った。

 俯いていた女子――白川は急に話しかけられて慌てて首肯している。


――この三人がそんなに怖いのであろうか。


 前髪は目を隠してしまう程に長く、後ろ髪は二つの三つ編みにしている。声も小さくあまり言葉も発しない。偶に授業で当てられれば顔を赤くし口をどもらせ何も言えない彼女に、教師の方が困り果てて、結局他の生徒に矛先を替えてしまう。教室の隅で目立たぬ様一人本を読んでいる、それが彼女、白川だ。

 一方、彩音と香那と菜々子はクラスでも格段目立った存在で、明るい髪をくるくると巻いて、長い睫毛を瞬かせながらツヤツヤと光る唇を大きく広げて男女関係なく――但し、自分達と同じ匂いの――友人達と楽しそうに笑っている。

 学校、学級というこの狭い世界で階級というものが存在するのであれば、三人が上で白川は下に見られるであろう。勿論桜には関心のない事だが。

 白川が怯えるのも仕方無いかもしれないなと桜は思った。


「黒田さんは?」

「さっきからずっと黙ってるよねェ。ウチらが聞いても返事もしないしさァ?」

「文句あんならちゃんと意見出して欲しーんだよね」

「話し合いにもちゃんと参加してよぉ」

「……」


 彼女達の声は先程までの甲高いものとは打って変わって途端這うような低さとなった。

 口元は笑っているが、目は笑う事無く、まるで、桜のせいで話し合いが滞っているとでも言いたげだ。


「特には。ボロ負けして恥かきたいのなら、このままでも良いんじゃない?」

「なっ!?」


 表情も変えない桜に淡々と辛辣な言葉を浴びせられて、顔を真っ赤にしたのは菜々子だった。

 怒りに口を震わせて手をキツく握り締め、今にも手を出しそうな彼女を制したのは彩音の声。


「そーそー! ウチら別に汗でベッタベタになってまで勝ちたいとか思ってないしぃ!」

「イッショウケンメイがんばるとか柄じゃないし」

「……っ。べ、勉強してる相島とかみたいな?」

「「ホントそれな!」」


 二人の声に我に返った菜々子は、慌てて会話に続いた。

 その表情は笑っているものの、額にはべったりと汗が浮かんでいた。


「さぁて、黒田さんのお許しを頂いたし話し合いは終了!」


 香那の解散宣言により話し合いはお開きとなった。

 桜と白川は席を立ち、三人はそのままで再びお喋りを開始した。



 相島といえばさ、最近ある女が纏わり付いてんの。

 あー、だよねー! ウチもそれ気になってたァ!

 いっつも人を見下した態度だし、こっちが話し掛けても基本ムシだし冷たいし? 女子相手だとすっげぇ態度悪いくせに相島の前だとイイ子ぶっちゃってさー。

 自分が好かれてるとでも思ってんじゃない? ほら相島って皆に優しいから!

 嫌いな奴とかにも分け隔てなく話しかけたりしてるよねェ。何かある意味その女カワイソー。

 でもジゴウジトクじゃん? そうやって人をバカにしてるから罰が当たったんだよ。

 この間とか、意味有りげに『ナ・イ・ショ(ハートマーク)』とか言っちゃってさ。笑えるよねー。自分は相島の特別だって思ってんのよ。

 でもまあ、相島って幼なじみのカノジョいるしねー。マジ勘違い乙(笑)

 そおそお! どっかの誰かさんとは違って可愛くてスタイルも良くて、いっつも笑顔だし皆にも優しい超いい子!

 ほーんと、どっかの性悪女とは違うよねー。

 ねー!


 キャハハハ!


 わざとらしい劈く様な笑い声が、飛び切り大きく教室中に響いた。

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