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隣の席の相島君  作者: 伊藤 唯羅
本編
5/28

親鳥になった気分

 突然の誘いに桜は顔を歪ませながら「嫌よ」とだけ辛辣に放った。

 それを聞いた相島君は頬を膨らながら何でと理由を問うた。


「人混みが嫌いだし何より面倒臭い」


 毅然として答える彼女に彼は暫く唖然としていたが、やがて拗ねたように呟いた。


「……そんなんでばっさり断らなくても良いだろ。…………俺はさ、お礼がしたいんだよ」

「お礼?」

「勉強教えてもらってるし、今回の模試で点取れたの、黒田のお陰だから……」

「……別に私は見返りが欲しくてやった事でないし。それに結果が出たのは私のお陰なんかではないわ。相島君がそれ相応の努力をしたから。そうでしょう?」

「黒田……」


 鼻頭を赤らめて桜を見つめる相島君。

 しかし、それでもと諦める様子は微塵もない。


「行きたい所は黒田に合わせるからさ」


 駄目?

――小賢しい。ついでにあざとい。

 先程と同じく戦法。二度も使われたのだ。桜にも彼が確信犯である事は分かった。

 それでも彼女は彼の低姿勢なこの“お願い”にはどうやら弱い様だ。

 睨み合うも束の間、結局は折れたのは彼女の方だった。




 ***




 そして数日後、木曜日。

 現在九時二十分。待ち合わせ時刻の十分前だ。


「あ、おはよ!」

「おはよう……待たせたみたいね。謝るわ、ごめんなさい」

「良いって! 俺が早く着過ぎただけだし! 黒田も待ち合わせ前に来てくれたんだな、嬉しいよ」


 軽い挨拶を交わしたところで駅へと向かう。

 目的地は隣町の更に隣町の水族館。桜が提案した場所だ。


「電車乗るの、初めて」

「えっそうなの? 黒田って熟々珍しいよなー。まあだったら、今日は俺にドーンと任せてくれ! と言っても田舎の電車じゃ高がしれてるけどな」


 快活に笑う相島君に桜も微笑みを返す。


 まずは切符を買って。

 切符の買い方が分からない桜は先に購入に行った相島君の様子をじっと真剣に見て、その様子を見た彼が微笑ましそうに表情を緩めた事に気が付き顔を赤らめた。

 改札口を通って、来た電車に乗って。

 何も分からない桜も離れまいと必死に彼の後を追いかけた。

 彼が空いている席に座れば、彼女もその横にちょこんと座って。

 彼女は初めて乗った慣れない電車に少し緊張しているようだ。強ばった、けれども何処かうずうずしているような、興味津々といった表情で俯いたり顔を上げてチラチラと周りを見渡したり。そわそわ、もじもじと、兎に角落ち着きが無い。

 そんな普段とは違う桜の様子に、相島君がとうとう吹き出した。


「な、何よ突然」

「あ、ああ……何か俺、親鳥になった気分……ククッ」

「……親鳥?」

「いや……うん。いつもは俺が教えられてる立場だからこういうの、新鮮で良いなって。……可愛いなって思ってさ」


 そこまで言われて、一体何を指しているのか気付いた桜はぼそりと「うるさい」と呟いた。

 しかし、口を尖らせそっぽを向く彼女の頬が色付いていたのは一目瞭然で。

 二人の乗る電車が間も無く目的地の町に到着するというアナウンスが流れる頃、まだ彼は笑い続けていた。

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