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隣の席の相島君  作者: 伊藤 唯羅
本編
3/28

応援するけど

改稿しました。(8/10)

会話を少し弄っただけなので話の流れには特には変わりありません。

「お、お邪魔します」


 ぐるりと見渡す相島君。

 現在、黒田家・桜の部屋。

 今日は桜と彼の二人で勉強会――と言っても彼女が彼に一方的に教えるだけだが――だ。

 予定では図書館で行う筈で実際にそこに行きもしたのだが、運悪く本日は図書館は休館日であった。

 他の図書館は隣町まで行かなければないし、隣町に行くにしてもそこそこの距離がある為普段はバスを利用するのだが、田舎でしかも休日である今日はあまり本数が無く次に走るまでに結構な時間があった。

 ファストフード店やその他休憩出来る様な店も無く、雨が降っているので公園も断念。

 更には創立記念日の為に学校も開いていない。

 そういう訳で桜が気乗りしないながらも「家近いけど、うち来る?」と提案することになった。


 興味深そうに見ていた彼がふと不思議そうな顔をした。


「一人暮らしか?」

「まあね。父は幼い頃に死んで、母とは別居中よ」

「……そっか、女子なのに大変だな」

「慣れればそうでもないわ。……じゃあ早速始めましょうか」


 そうだなと微笑む彼を一瞥し、桜は丸型のシンプルな白い小テーブルを出した。

 桜はここでごめんと謝ったりしない所が彼らしいと思った。

 人様の家庭事情には足を踏み込まず、さらりと受け流す。人の気持ちが分かる彼だからこそ。桜は素直に感心した。



 問題集を広げて、シャープペンシルを口の上に乗せ腕を組みながらうんうんと唸る相島君。

 そこに教科書やらを持ち出して丁寧に解法を教えていく桜に彼はポツリと呟いた。


「黒田の解説って分かりやすいなー。学校のセンセイにも見習って欲しいくらいだ」

「どっかの誰かさんが寝たりしなければ、もう少し先生方も熱意ある授業をするかもね」

「うぐっ……二回目……」


 照れ隠しで素っ気なく答えた桜は、前々から思っていた事を口に出した。


「ねえ、毎回授業で寝てるけど、今年受験生なのに大丈夫なの?」

「……いや、アハハ…………黒田もなかなかキツい事言いますなー」


 桜は見つめていた彼から視線を離して、本当の事じゃない、と呟いた。


「これでも一応色々考えてんだぜ。……俺、将来は獣医になりたいって思ってるからさ」

「獣医」

「ははっ。数学も出来ない馬鹿が何言ってんだって感じだよな」


 彼は首に手を回して自嘲気味に笑う。


「そんな事ないじゃない」

「え?」


 驚く彼を桜は不思議そうに見つめた。

 何言ってるのと。馬鹿にするでもなく、只々心底不思議そうに。


「良いじゃない、獣医。動物好きそうだし」


 相島君自身、動物みたいだし、と桜は心中で呟いた。口には出さないけれど。


「数学だって、さっきよりも理解出来てる様だし、勉強さえすればどうにかなると思うけど。何より夢を持っているって良い事じゃない」

「あ。え、と……うん」

「私は応援するけど」

「……ありがとう。黒田」


 柔らかく笑った彼の頬は心無しか赤い。

 別に、と答えた桜は、少しの笑みを浮かべて。

 気付いた時には無表情に戻っており、いつも通りの声の調子で「じゃあ勉強を再開しましょうか」と言った。

 彼は、そんな彼女を見つめ、何かやる気出てきた! と再び感謝の言葉を放ったのだった。


 そこからの彼の集中力は凄まじく、いつもこうであったら良いのにと桜は思った。 



 帰り際、彼は三度目のありがとうを口にして、夕陽を背に、とびきりの笑顔で帰っていった。

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