隣の席には相島君
騒ぎながらも何処かそわそわとしている男子達。
一方で、近くの席の子同士でひそひそ話しながらも頬を染め僅か高揚している女子達。
喧騒が渦巻く教室中、担任である一人の男性教師がゴホンと一つ咳を払った。
「では、廊下側の席の者から順に引きに来なさい」
彼の言った通り、廊下側最前列に座っていた眼鏡の少年を始めとし、次々と教卓の上のクジに手を掛けていく。
何とも言えない緊張感が漂う中、ここ、三年D組で執り行われているのは――……
席替えだ。
このクラスでは三週に一度、週末の金曜日のLHRに席替えが行われている。
担任による計らいで、曰く、「頻繁に席を替えることで、普段話さない奴等とも交流を持って欲しい」らしい。
この考え方には余計なお世話だと考える生徒も居るが、喩え相容れない人間の近くになったとしても三週という短い期間なので、あまり他人と馴れ合う事が得意でないという生徒も気楽で良いと、割と好評ではあった。
教師としてそれで良いのかと問われれば肯定も否定も明瞭には示せないのだが、一先ずは置いておいて。
一見、席替えなんぞ興味ありませんと無関心を装いながら、内心ではやはり気になって仕方無いという女生徒がここに一人。
名を黒田桜。
雪の様に白い肌。猫の様に鋭く、青かと錯覚する程済んだ黒い瞳。控え目ながらも愛らしさを振りまく鼻と唇。烏珠の黒髪をストレートに流す彼女は、十人中九人の確率で美少女だと賛美されるであろう。
そんな彼女は最近、ある事――いや、ある人物と言った方が正しいか――が気に掛かっていた。
とある人物と連続して席が近くなったからだ。
隣こそ無いものの、前後斜めの位置に五回も当たれば気になってしまうのも致し方無い話では無かろうか。
自分の番になった彼女も皆に習って前へ出た。
微かに震える手でクジを引き、席に戻った。
『26』
数秒見つめた後、クジの紙を裏返しにし窓の外を見つめた。
現在の席は窓側なのでぼんやりしたい時には最適だった。
今回の席も黒板を確認すると、またもや窓側で、二つ程後退した所――最後列にあたる――なので、大して変わらないであろう。
――それよりも彼、だ。
彼が何処の席になるのか……。
程なくして、担任の合図で生徒達が動き出す。
桜が席に着いた頃、隣からもガタンと一際大きな着席した音が聞こえた。
「隣は黒田さんか。これから三週間、宜しく」
桜が振り向くと、彼は仔犬のような人懐こい笑顔を浮かべながら手を差し出した。
――やっぱり。
隣の席には相島君がいた。