初
俺は、退屈していた。父親は、俺が幼い時に駐車場で死んだ。俺の目の前で、死んでしまった。そして、死んだ理由が悲しいほどに、ダサかった。後ろ歩きに、歩いていて石につまずき、後頭部を打ち死亡。この時は、突然の事でショックが大きかった。だが、大きくなるにつれて、この事が笑い話になっていた。俺は、父親の事が大好きだった。誰にも優しく、怒るときは鬼のように、でも、いつも優しい笑顔の父親が好きだった。
「優く~ん。朝ですよ~♪」
一階からそんな声が聞こえてきた。母親の声だ。インターネットを、閉じ着替えて、部屋を出て下に行く。食卓の周りには、妹、母がすでに座っていた。
「おはよう」
「おはよう!そして、遅い!!」
「スマン…」
「おはよう、優君。さぁ、座って朝ご飯にしましょ?」
「…うん」
「「「いただきます」」」
大皿の上には、目玉焼き、ベーコン、ポテトサラダが乗っかっていた。別の皿には、焼いた食パンがあった。こんがり焼き目のついた食パンは、いい香りを出していた。俺は、パンの上に、目玉焼きを乗せ、食べ始めた。このやり方は父親と全く同じ食べ方だった。妹は、何も塗らずそのままかぶりついた。母親も、そのままかぶりついた。さすが、家族だな。俺は。そう思いながら、箸をすすめた。
「ごちそうさま」
俺は、食べ終え食器を流し台に、出し部屋に戻った。家を出る時間が迫っていて。少し急ぎながら、身支度をして家を出た。
平和な朝、美味しい飯、それは満たされた日常だ。だが、満たされない飢えが俺はある。それは、刺激的で残酷で、そして、生きているという実感が湧く日常にある。それは、幻想でしかない。儚い願い、だ。
駅のホームで、友人が来るまでネット内を、徘徊した。ある動画を見つけるためにだ。今もホームの人々達は、その動画で噂している。そのせいで、ホームがうるさい。
(ぽん、ぽん)
肩を叩かれ、反射的に振り向いてしまった。頬に、ぶすっと、刺さる人差し指。やられたと、内心叫んだ。
「簡単に、引っかかるんだよね~。君は。」
「うるさい、普通に声をかけろよ」
「えー、それじゃ、つまんないじゃん。」
(ぽん、ぽん)
また、肩を叩かれた。今度は、反対に回りながら…
ぶすっ ……ぶすっ
両頬に、人差し指が…大敗だ。顔には、出していないと思うが、心が少し欠ける。
「武田…美亜…、お前ら、俺に恨みでもあるのか?」
「「な~い♪」」
先に、つっかえ棒をした女、中城 美亜という奴だ。俺と幼なじみで、高校まで離れたことが無い。他の男子達は、コイツを美人とたたえている。肌は、綺麗だ。色は、薄い茶色。髪は、ショートの黒髪。胸は、B~D。だと、思われる。
後から、つっかえ棒した男、武田 健介という。高校で、同じクラスになり、動画研究部で、親しくなった。中学では、剣道。習い事では、柔道と空手をしていたらしく、体つきは、しっかりしている。いや、しすぎている。あとは、馬鹿な行動が多い。女子からは、ややモテているらしい。
このタイミングで、駅内に電車が来た。なんて、間がいい事やら。
(ガタン、ゴトン)
電車の中でも、高校生中心にざわついている。俺は、片耳にイヤホンしている。武田と美亜は、談話をしている。何やら、英語の小テストについての話らしい。美亜は、教科書を出し、熱心に勉強している。武田は、参考書…。
「武田、参考書は意味ないぞ。範囲は、教科書内からだ。」
「え、そうなのか…」
武田よ、普通に考えてそうだろ。というか、昨日、先生が言っていただろ。武田は、精気を取られたかのように、しぼんだ。美亜は、それを見て、ニヤケてる。しゃっべったついでに、聞いておこう。
「なぁ、二人とも例の噂って、何か知ってるか?」
二人とも、虚を突かれたような、顔になった。知っているということと、同時に震えだしたと、いうことがわかった。
「お前、知らねーの?めっちゃ噂されてるのに?ダッセー」
「結構、前から知ってるよ?うち。動画も見たし。」
「……そうなのか、流行に遅れたのか、俺は…」
衝撃の事実で、ハートブレイクをくらった俺は、激しく落ち込んだ。噂を、知ったのは一週間前だったが、美亜達はそれ以上前から、知っていたのか。しかも、動画も見ただと。
「あ、うーんと、後で部室で動画みようか?三人で」
「本当か!!」
「う、うん」
「サンキュー ユーだわ!」
俺と美亜は、眼があっていたが、武田は、参考書に目がいっていた。
最近、俺の周りで流行っている動画がある。それは、ある学校の動画だ。動画の内容は、文化祭準備中のハプニング映像だった。一分十五秒くらい、生徒同士がふざけ合ったりしていた。その後から、動画の画質がガタンと落ちて悲鳴やら血しぶきが、所々見れた。動画名は、サークルと書いてあった。
そして、この動画を見たら同じ事が起きるという、説明があった。まさに、釣り動画だった。
「でもさ、演技力あるよな。この動画。」
武田が、目をキラキラさせながら、そう言った。
「確かに。でも、わかっちゃあダメだろ?釣りなら。」
と美亜が言う。確かにな、演技力は高いし、面白い動画だ。でも、すぐに釣りだとわかってしまっては意味がない。
俺は、こっそり不適切な動画で、報告した。
動画再生数百万を、越えている。素晴らしい動画だ。しかし、俺の調べ上げ結果。そんな学校や事件など無い。
平和な日本だ。つまらないほどに。しかし、満足も不満もない、この日常が俺は大嫌いだ。だから、この動画を信じない。
今は、四時間目で日本史だったが、俺達三人は授業を、サボリ部室で遊んでいた。部活名は、動画研究部という、いたって普通の部活だ。内容は、動画研究、ミステリー解読など、普通の内容だと思う。いや、高校生ならではな、活動だ。
「なぁ、本当にこの動画みたいな事ならないかな~」
俺は、無機質にそう言い。
「えー、私はヤダよ。怖いし~www」
美亜は、笑いながらそう言った。
武田は、回転する椅子で回転していた。それが、倒れるまで俺達は見続けていた。そして、三人で大笑いした。
四時間目が終わり、昼食の時間になった。日本史の先生とは、さっき会ったが注意されて、その場は終わった。俺の目の前には、大好物の唐揚げ弁当があり、その右上にはミルクティーが置いてある。箱のミルクティーだ。今日の唐揚げは、油が垂れていた。いや、昨日も今日も、垂れていたな。ちゃんと、油をおとしてほしいものだ。あの二人は、屋上で食べると言っていた。俺は、気分的に教室で、食べたいと言い
別れた。
食べ終わり、俺は、例の動画を再びみていた。誰もが、憧れるハプニング。混沌とした、事件。誰しもが一回は、想像したはずだ。俺は、毎日のように願っている。一回でいい。一回でいいから、この満たない飢えを満たせてくれ。とそう、願っている。それは、きっとこの動画と同じで、それがあればこの飢えが消える。とても、単純で残酷な欲望だ。自分でも、笑えてしまう。
「つまらない。」
声が、勝手に出てしまった。そう、つまらないんだ。この日常が。何か、きっかけが欲しい。そう、思い自分は今この動画を見ているんだ。
「♪♪~‥♪♪~‥」
着信だ。珍しい…訳では無いが最近は迷惑メールだけだ。この携帯が、鳴るのは。だから、今回も無視しようとした。だが、勝手にフォルダーが開いた。送り先:不明 タイトル:無し
メールの内容が勝手に開かれる…
(この動画をぉ、みてくれてアリガトーね。楽しい?カナシイ?どうでも、イいかな? 楽しみにしててね?)
何だよ、誰だよ、間違いメールか?病んでんのか?
……な訳ない、動画みてくれてアリガトー?見られてる?
何で?どこから?
俺は、携帯から目を離し教室を見回した。だけど、誰もこちらをみていない。自分が相手をしている者と、話している。
「はぁ、はぁ。」
緊張し、鼓動が早まり、勝手に息が切れる。どこから、高揚する自分がいるのも、気づいた。冷静に、冷静に。そう、言い聞かせる。展開が、早過ぎる。いや、きっかけには、いいが。
「♪♪~‥♪♪~‥」
また、着信だ。だが、送り先が書いてある。美亜からだった。内容は、体操着と下着を持ってきてという、命令だった。
「はぁー、下着は無理だろ…」
この命令のおかげで、さっきの緊張と高揚がどっかに、いってしまった。あとで、あのメールをもう一度みよう。
俺は体操着を持ち教室を、出て行った。
次に続きます




