些細な出来事
ものすごく悲しい……
何が? と問われればたいした事はない。
ただ、自分の不注意。
ほんの些細な……
けど、自分にとってとても嬉しかったこと。
それを、一瞬の不注意で全て失った。
――大事ならきちんとしまって置きなさい。
怒る母の姿を見て、ひどく苛立った記憶。
――その辺において置くからいけないんじゃないの!
――適当において投げてたわけじゃない!
正論と感情でぶつかった。
どちらに分があるわけでもない。ただの下らない言い合い。
喧嘩にすらなりようもない。
そして
先に踵を返したのも自分。
大事なものを失った喪失感と苛立ちに突き動かされて、上げたくない手を上げようとしてた。
どんなときでも、絶対に見失ってはいけない。
どれだけ怒りに身を任せようとしてはいけない。
そう決めていた。
だから、その感情だけは押し込めて、別の方法で昇華させていた。
声を上げずに、ただひたすら大声で叫んだ。
叫んで、叫んで、叫びぬいて。
何時間だろうが、その感情が自分の中で小さくなるまで叫んで……
ふとやめた瞬間に襲い掛かってきた喪失感と次は戦う。
正論と感情でぶつかったとき、どっちに分があるなんてのは知らない。
ただ、どれだけ理不尽でも元をただせば自分の些細な不注意。
認めるべきことだ。
そして、決して屈してはいけないこと。
ただひとつ、感情任せの理不尽な暴力を振るわない。
違えてしまえば、自分は獣以下の存在と同等。
だからと言って自分を歪めて苦しめるまでに耐え抜く気はない。
自分を律していれば良い。
だから……
方向を変えて押し込めたものを吐き出す。
吐き出す、吐き出す……
自分を律するというのは難しい。
何気ない言葉ですら暴力と同等になる。
だけど、何気ない言葉は時として、人を元気にさせる。
なら、どうして今ものすごく悲しい……というのか。
母親と喧嘩したわけでも、誰かを傷つけたり傷つけられたりしたわけでもない。
ただの不注意。
大事な人からのほんの些細な言葉。
それを、ただの不注意で失った。
0と1の狭間の世界の彼方に……
失ってしまった……
ただ、それだけのこと。
嬉しかった、とっても。
ごめんなさい……
それでも、あなたの言葉はとても嬉しかった。