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Case002: Lue・Fersen








……随分と奥まで入り組んだ研究所だ。


ジョヴァンはそんなことを考えながら、通路を黙したまま進んでいく。


その後ろにピッタリとくっつくようにして、ガイエルが歩いている。


ガイエルはまだ無線機(レシーバ)をいじっている。


電波をキャッチしない限りは作動しないのだ。


半ば諦めたように、ガイエルは周波数を変更したり、音量を調節したりしている。


…と。













          ザッ…ザアア―――――











「!」


ガイエルは立ち止まり、無線機(レシーバ)を見つめた。


わずかではあるが、何かと周波数が同期(シンクロ)したらしい。



「班長!」


「どうした?」


無線機(レシーバ)が電波をキャッチしたみたいです」


「どれ……」



ジョヴァンが無線機(レシーバ)を覗き込む。


受信を知らせる赤いランプが点滅し、ノイズがわずかに聞こえた。



「あー、あー……」



ガイエルがもう一度周波数をいじると、今度は声が聞こえた。


男か女か、わかりにくい声色だった。



『…繋がったようだな』


「わっ」


『で、どこのどいつだ』



相手の暢気な声が聞こえる。


誰かはわからないが、他にも生き残りがいるということだろうか。



「K国の軍隊です。そちらは?」


『なんだ…軍人さんか。オレも似たようなもんだ』


「名を名乗らなきゃわからないぞ」


『……2人いるのか。まあ、いいさ。オレはフェルゼン。ルエ・フェルゼンだ』


「フェルゼン………」



ガイエルは名前を反復する。


フェルゼン、といえば、スウェーデンの貴族……ハンス・アクセル・フォン=フェルゼンが有名だが。



『おい、こっちは名乗ったんだからよ。名前教えてくれよ』



そこまで考えかけて、ガイエルの思考は中断された。


フェルゼンと名乗った男(口ぶりや態度で勝手に判断したらしい)は少々ふて腐れた様子だ。



「あ、僕、ガイエルっていいます。もう一人はジョヴァン」


『よしガイエル。早速だが、ひとつ聞きたい』



ぽんぽん話を進める男だ……。


そんなことを考えながらガイエルは「どうぞ」と先を促す。



「今どのフロアにいる」


「い、今……ですか?」



返答に困って、ガイエルはジョヴァンに目配せする。


ジョヴァンはあたりを見回し、無線機(レシーバ)に向かってこう言った。



「解凍室を出たところだ。目ぼしいものは何もない、一方通行の通路……」





            ぷつん。






「…………れ?」



目をぱちくりさせるガイエル。


突如として切れてしまった無線機(レシーバ)を眺めながら、ジョヴァンは(かぶり)を振る。



「電波の通りが悪いし、当然だろう」


「でも…」


「なに、いずれまた連絡も取れるだろう」


「はあ……そう…ですか」



ガイエルが無線機(レシーバ)をしまうのを確認すると、ジョヴァンはそっと耳を澄ませる。


何かの機械の動作音が低く響いている。


この先から聞こえるので、サーバ室か何かがあるのだろうか。


ジョヴァンはガイエルに合図を送ると、通路を出て先へと進む……



「ん、」



ドアを開けようとして、ジョヴァンは立ち止まる。


…………開かない。


押しても引いても、スライドさせても開かない。


ためしに叩いてみるが、やはり開かない。



「開かないな」


「どうしましょう?」


「上がある」


「上、ですか?」



ガイエルはそっと天井を仰ぐ。


無機質な、灰色のよどんだ天井が見える。



「…………」



…ようやく合点がついた。


つまり、『天井へ上がる』ということらしい。


しかし、とガイエルは言う。



「さっき出たばっかりじゃないですか……」


「意外とチキンだな」


「チキンって言わないで下さい!」



むくれるガイエルを笑いながら、ジョヴァンはそっと腰に提げてある機関銃(マシンガン)に手をやる。


次の瞬間。
















































             「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!!!!!!!!」




































































                               ガッシャ――――――――――――――ン!!!!!



















































































「ぎゃ―――――――――――――っ!!!!!!!!!」



情けない悲鳴を上げて、ガイエルはジョヴァンに飛びついた。


ジョヴァンはバランスを崩し、派手な音とともにその場に倒れ込む。



「ったー………」


「あわわわわ………………」



思い切りよく後頭部を床に打ちつけ、ジョヴァンは顔をしかめる。


もくもくと灰色の煙が立ちのぼり、あたりを染め上げていた。


ガイエルを引き剥がしながら、ジョヴァンはようやく立ち上がった。



「…情けない、悲鳴なんぞ上げて………」


「だ、だだって……」



































                                ゴトン!







































「うぇっぷ、すげぇホコリ!我ながらやりすぎたかな」



煙がおさまり始めたところで、そんな声が煙ごしに聞こえた。


ゆっくりと煙が引いていく。



「大丈夫か?」



目の前に差し出される手のひら。


ガイエルは目をぱちくりしながらそっと顔を上げる。


まず目に入ったのは、鉄板を打ち付けたレザースーツ。


そして、ススで汚れた顔だった。


猫目気味の、黒髪の少年。


……………少年?



「へ、」



彼の手を借りて立ち上がったところで、ガイエルは足の先から頭のテッペンまで彼をまじまじと見てから一言、



「………子供がどうしてこんなところに?」


「誰が子供じゃっ!!!!」



                バキッ!!



「んぎゃっ!!」



ふたたび悲鳴を上げて床にのた打ち回るガイエル。


少年は不機嫌そうに、腰に提げているショットガンをいじっている。



「オレだ。フェルゼンだ」


「おまえか。まあ、なんというか」


「どーせオレはチビだよ」



さらに不機嫌になったか、フェルゼンはいっそう顔を歪める。


ジョヴァンは床に張り付くようにして呻いているガイエルを足で小突いた。



「うぐぐ……」


「いつまでそうしてる。起きろ。情けないぞ」


「ホントに軍人かよ、このモヤシ」


「モヤシ………」



ツボにはまったらしく、ジョヴァンは口を押さえて笑いを堪えている。


ガイエルは羞恥で頬を染め、ちいさく舌打ちをしてのそのそと起き上がった。


フェルゼンはショットガンをくるくると玩びながら鼻で笑った。



「モヤシ…は、ないんじゃあ」


「モヤシだ。他に何がある」


「……………………」



カシャン。


ショットガンに弾を込め、フェルゼンはうすく微笑む。


ガイエルはその微笑みにわずかな違和感を感じた。


なんというか…こう、不自然な……。







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