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クワガタ主婦

作者: 禄之羽礼
掲載日:2026/08/11

国は主婦の負担軽減を目的とし、ある施策を実施した。

それは本人が一番嫌だと思った事柄を楽にする異能力の付与である。


料理がめんどくさい主婦には、食材を用意しておけば自動で料理が完成する能力。

掃除が面倒くさい主婦には、ゴミ袋を広げておけば自動でゴミを分別して集められる能力。

洗濯が面倒くさい主婦には、自動で洗濯→干す→畳むまでが完遂する能力。

大半の主婦は洗濯や料理に関連する能力が付与された。


異能力の付与の条件は2つ。

1つ目は異能力付与薬を摂取済みであること。

2つ目は主婦自身が「面倒くさい」と「嫌だ」と強く思うこと。


そしてそんな中でまだ能力に目覚めていない主婦が一人。

彼女はすべての家事を完璧にこなせる超人である。

料理も洗濯も掃除も食器洗いもゴミ捨ても全て完璧にこなしていた。


加えて彼女の夫もかなり家事に協力的で分担制を敷いていることもあり、強い家事への不満はなく、まだ能力の発現はしていなかった。

そんな彼女は家の前でママ友と世間話を話していた。


「私まだ能力目覚めてないんですよ。木村さんは?」

「私?私は去年目覚めちゃったのよ。」


「どんな能力ですか?」


「ぜーんぜん使えない能力よ」


「どんな能力ですか?」


木村さんは呆れ顔で恥ずかしそうに話す。


「………仮装してる相手を元に戻す能力よ」


「え?」


「いや聞いてよ!うちの主人ったら!去年のハロウィンで本当に気合の入った仮装して帰ってきたのよ!ゾンビのコスプレよ!」


「はい」


「それで帰ってきて、何にも分からずに恐怖でキャーって叫んだのよ!わけも分からず怪物だ!いなくなれ!って。そうしたらみるみるうちに主人のメイクが剥がれていって、普通の人間の肌になったのよ」


「ほぉ」


「日常生活じゃ使えないから他の人が羨ましいわよ。斉藤さんなんてどんな汚れでも一発で落とせちゃうんだから」


「凄いですね」


「だから桑原さんもちゃんといい能力に目覚めないとだめよ!」


「ははは。」


そう笑って会話を終える。


その後別れて物思いにふけながら玄関を開ける。


(………私の能力何がいいだろ?特に不満ないんだよなぁ。)


そう思いながら家に入ると、そこには息子が飼っているヒラタクワガタが歩いていた。

玄関の端においてある甲虫ケースを見ると、天井の蓋が開いていた。


「……脱走してる」


彼女は別に虫は嫌いではなかった。

ゴキブリが出ても問題なく騒ぐことなく一人で対峙できるくらいである。


始めての脱走に驚きはしたものの、しゃがんでヒラタクワガタに手を伸ばす。

そして彼女はヒラタクワガタの角に手をかけてしまう。


その瞬間ヒラタクワガタの角に、彼女の指は挟まれる。

ヒラタクワガタの挟む力はクワガタの中でもトップクラスである。


「痛い痛い!」


強烈な痛みが彼女を襲う。

必死に腕を振るうもクワガタは指から離れない。

依然強く挟んで離さない。


その痛みに耐えかね、涙目の彼女は強く願う。

離して!と。

そう願うとさっきまで強く挟んでいたのが、嘘かのように、クワガタの角が開く。

そして指から離れ、落ちていき、彼女の服にひっつく。


痛みから解放され安堵する。

その少し後、彼女はあることに気付く。


(………まさか)


そう思い近くにかけてあった鍵を、クワガタの角の間に置く。

するとクワガタはその鍵を挟みだした。


そこで彼女は念じる。

離して!と。

するとクワガタの角は開き、鍵は開放される。

彼女は無言でポカーンとする。

「私の能力。これかよ」

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