第7話:食べたはずのメロンパン?
翌朝。
窓から差し込む柔らかな光で、
ハヤトは目を覚ました。
「……ふわぁ、よく寝た。
って、あれ? なんだこれ」
布団を跳ね除けようとしたハヤトの手が、
カサリ、と見覚えのある感触を捉えた。
そこにあったのは、
透明な袋に包まれた、網目模様の丸いパン。
昨日、最後の一つを惜しみながら食べたはずの、
あのメロンパンだった。
「……え? なんで?
昨日、全部食べちゃったよね……?」
ハヤトは慌てて起き上がり、袋を透かして見る。
消費期限も、シールの位置も、
昨日食べたものと寸分違わない。
ハヤトが混乱して独り言を漏らしていると、
身支度を終えたレオンが怪訝そうに近づいてきた。
「……ハヤト、朝から何を騒いで――。
なっ!? お前、その手に持っているのは……!」
レオンの目が、驚愕で見開かれた。
昨夜、ハヤトが「もう食べられない」と、
惜しんでいたはずの至宝がそこにある。
「……バカを言え。
お前の服にそんなものを隠す隙間などなかった。
それに、その袋……昨日俺が門番に売ったのと、
全く同じ、傷一つない『透明な膜』じゃないか」
レオンはハヤトの手からパンをひったくり、
顔を近づけて凝視した。
あり得ない。召喚術の基本は「意志ある者」との契約だ。
交渉も契約もできない無機物が、
無から現れるなど、世界の理に反している。
「おい、ハヤト。もう一度出してみろ。
お前の世界には、まだこれが沢山あるんだろう?
それをこちら側へ引き寄せるイメージだ」
「ええっ!? 引き寄せる……。
えーと、学校の購買のおばちゃんが、
山積みに並べてる光景を思い出せばいいの?」
「そうだ。その山から一つ、
空間を越えてこの手の中に掴み取る感覚だ。
強く念じろ!」
レオンに急かされ、ハヤトは渋々目を閉じた。
昼休み、争奪戦が始まる前の購買部。
甘い匂いが充満したワゴンに並ぶパンの山。
「……メロンパン、メロンパン、こっちに来い……」
一分、二分と時間が過ぎる。
だが、ハヤトの手には何も現れなかった。
「……だめ。全然何も起きないよ」
「……。魔力の揺らぎすら感じられん。
だが、現にここに『二個目』がある。
毒物の類いか、あるいは幻覚か……」
レオンは顎に手を当て、深刻な顔でパンを割った。
「……。調査だ。毒味をしてやる」
そう言って、レオンはパンの半分を口に運んだ。
「……っ!? なんだ、この食感は……。
外側はカリッとしているのに、中は柔らかい。
それに、この暴力的なまでの甘み……」
レオンは、未知の味覚の衝撃に絶句した。
「レオンさん、顔がニヤけてるよ?」
「……気のせいだ。
とにかく、この現象は他言無用だぞ。
お前、絶対に人前でこれを出そうとするなよ」
レオンは残りの半分を大事そうに懐へ仕舞い、
咳払いを一つした。
「……さて。何も解明されんのは癪だが、
いつまでも部屋にいても始まらん。
まずはその異様な格好をどうにかしに行くぞ。
目立ちすぎるからな、お前の着替えを探す」
ハヤトは狐につままれたような顔で、
レオンの後に続いた。




