第20話:禁断のレベリング?
翌朝。俺はハヤトを連れて、
ガレリアの街から少し離れた『深緑の森』へ向かった。
ここには、昨日の草原にいたウサギとは比べものにならない、
凶暴な魔物たちが潜んでいる。
「……レオンさん。やっぱり僕、
ここで待ってちゃダメですかね?」
「当たり前だ。……ほら、来るぞ」
俺が指を鳴らすと、茂みの奥から、
三頭の巨大な牙猪が突進してきた。
「うわっ、デカい! ……よし、食らえッ!!」
ハヤトはスマホをポケットに放り込み、
無我夢中で右手を突き出した。
「――メロンパン、出ろっ、出ろっ、出ろおっ!!」
ボフッ、ボフッ! と、
ハヤトの手元から焼きたてのパンが連射される。
猪の鼻面に当たっては虚しく弾け、
辺りに甘い香りとパン粉をぶちまけた。
「ギシャアアッ!?」
視界を塞がれ、顔を汚された猪たちが、
怒り狂ってハヤトへと狙いを定める。
「……良し。注意を引いたな」
俺はハヤトの前に踏み出し、
影から召喚した影の豹を放つ。
豹の一撃が、怯んだ猪たちの首を一瞬で跳ね飛ばした。
ピコン。
「……はぁ、はぁ。……あ、鳴った!
……レベル、一気に十まで上がりました!」
「……。
やはり、お前が囮として機能すれば、
トドメが俺でも経験値は入るようだな」
パンを投げ続けてレベルを上げるという、
あまりに前代未聞の光景。
ハヤトは息を切らしながら画面を操作した。
「……新しい生成リストは……ええっ!?
『メロンパン専用・保温温め機』と、
『プラスチックのフォーク』……?
……あ、あと『イチゴジャム』も追加されてる」
「…………。
……お前、この死地で、
まだ『食事環境』を整えるつもりか?」
俺は深く、深いため息をついた。
レベル十に到達して得た力が、
どこまでも「美味しく食べる」ためのセット品。
「……。
(……。俺は一体、何のために、
世界最強の召喚魔術を使っているんだ……?)」
俺は虚空を見つめ、
パン屑にまみれた少年と、
それを舐めようとする猫を連れ、
さらに森の深部へと足を踏み入れるのだった。




