第2話:伝説の透明布(ゴミ)?
翌朝。
地平線から昇る太陽の眩しさと、
フェンリルのフカフカな毛並みの感触で、
ハヤトは目を覚ました。
「……ふわぁ。……あ、生きてる。
僕、生きてるよ……」
ハヤトが寝ぼけ眼でスマホを確認する。
時刻は午前六時。もちろん圏外だ。
横ではレオンが焚き火の跡を片付け、
出発の準備を整えていた。
「起きたか。朝食は昨日の残りの肉だ。
さっさと済ませて出発するぞ。
目指すは東の自由都市ガレリアだ」
「あ、はい……。あ、その前に……」
ハヤトは昨日食べ残していた、
最後のメロンパンを口に放り込んだ。
そして、空になった透明な袋を、
無造作に丸めて道端に捨てようとした。
「待て、ハヤト。今、何を捨てようとした?」
「え? これ? ただのゴミだよ。
パンが入ってた袋」
レオンは鋭い目付きで、
その『ゴミ』を奪い取るように手にした。
「……バカを言うな。
こんなに薄く、かつ向こう側が、
歪みなく透けて見える布がこの世にあるか。
これは宝だ。入市税くらいは、
お釣りがくるほどの価値があるぞ」
「……マジで? ゴミが、お金に?
……まあ、背に腹は代えられないか。
一銭もないもんね、僕ら……」
◇
それから数時間。
太陽が真上に昇る頃、ハヤトの足取りは、
目に見えて重くなっていた。
「……はぁ、はぁ……。レオンさん、
もう無理……。足が、もげそうだよ……。
っていうかさ、あの狼、また呼べないの?
最初っからあれに乗せてよ!」
「バカを言え。
対価もなしに召喚できるわけないだろう」
「……タイカ?」
「召喚士の仕事は、契約と交渉だ。
誰だって急に呼び出されて、
タダ働きさせられるのは嫌だろう?」
レオンは淡々と、
昨夜の地竜の死体が消えている理由を語った。
「あの地竜の肉、
俺たちが食べた分以外は渡すって契約だ。
本当なら肉も売れば金になるんだが、
仕方がない。あいつはそれで納得して寝ている」
「……え、待って。
召喚に対価が必要なら、
勝手に呼び出された僕はどうなるの!?
僕への『報酬』は?
まさか完全無給で拉致されたってこと!?」
「……お前との契約については、
追々考えるとしよう」
レオンは気まずそうに目を逸らすと、
地面に光の魔法陣を展開した。
そこから、二頭の『風切り馬』が、
静かに姿を現した。
「うわ、馬!? ……って、待って!
僕、馬なんて動物園で見たくらいだよ!
乗ったことないし、無理無理無理!!」
「跨がって髪を掴んでいろ。
こいつらは風の魔力を纏っている。
落ちようとしても風が支えてくれるさ」
「……あ、意外と安定してる。
魔法の馬、すげー……。
で、こいつらの条件は何なの?」
「街に着いたら、
新鮮な最高級野菜を腹一杯食わせる。
それが条件だ。
だから、街に着くまでは絶対に止まらんぞ」
「……馬の方が僕より待遇いいじゃん!
異世界のモンスターって意外とシビアなんだね…」
◇
街道を進み、巨大な石造りの城壁が、
間近に迫ってきた頃。
レオンは門番に見つからぬよう、
手前の茂みで馬から降り、その首を叩いた。
「……報酬は後でな。街に入ったら、
一番いい野菜を食わせてやるから」
言い聞かせながら馬を影に還すと、
レオンは平然とした顔で門へと歩き出す。
「止まれ。入市税として、
一人につき銀貨一枚、計二枚だ」
レオンは不敵な笑みを浮かべて、
懐から『例のゴミ』を取り出した。
「金はない。だが、代わりに『未知の宝』を、
支払いに充てたいのだが」
「……なんだ、その妙な光沢は。
……なっ!? 向こう側が、
なにもないかのように透けて見えるだと!?」
門番が驚愕して袋を手に取る。
「……なんだこれは!?
持っている手が丸見えじゃないか!!
これほど薄い膜が、本当に水を通さないのか!?
おい、班長を呼んでこい!
とんでもないお宝だぞ!!」
ハヤトは、昨日まで自分が、
「ゴミ」として扱っていた袋を、
プロの戦士たちが拝むように囲む光景を、
死んだような魚の目で見つめていた。
「…………ねえレオンさん。
この世界、大丈夫なの?」
「ああ。ハヤト、お前の世界は、
ゴミまで伝説級らしいな」




