第14話:魔力の深淵と、初めての勝利?
俺は草原に座り込み、今しがた「生成」した
メロンパンを齧りながら、掌をじっと見つめた。
「……ねえベル。やっぱりこれ、おかしいよ。
画面だと魔力は『測定不能』なのに、
ベルには空っぽに見えるなんて……」
ベルは俺の膝の上で、パンのクズを舐めながら
金色の瞳を細めた。
「……ニャ。通常、魔法使いの魔力は、
川の流れのように体から溢れ出しているものかな。
でもハヤトからは、波紋一つ感じられないんだ。
底なしに深い水溜まりは、上から見ると
底が見えないのと同じかな。
君の魔力は、この世界の尺度を超えている。
宇宙から直接物を取り出しているような感覚かな」
「……。
問題は、なんで『パン関連』だけなのか。
ハヤト。君、そんなにパンが好きなのかな?」
「……好きだよ。
購買のワゴンに並ぶ焼きたての香りを嗅ぐだけで、
嫌なことも全部忘れられるくらいにはね」
「……。
呆れるほどの執着心が、勇者の力を
パンの形に固定しちゃったのかもね。
……あ。ハヤト、伏せるかな!」
ベルが鋭い声を上げた瞬間、
草むらから三体の牙ウサギ(ホーンラビット)が
こちらを睨みながら飛び出してきた。
「うわっ!? 魔物!?」
「……下がっているかな! ボクが――」
「待ってベル、僕も戦うよ!
この魔力なら、パンでもなぎ倒せるはずだ!」
「……正気かな!? 相手は魔物だよ!」
「見ててよ! ――メロンパン、出ろッ!!」
俺の右手から特大のメロンパンが飛び出し、
向かってくるウサギの顔面に直撃した。
……が。
「ビチャッ……」
柔らかいパンは虚しく潰れ、
魔物は顔を汚されてさらに激昂した。
「ギシャアアッ!!」
「……当たり前かな。パンをぶつけて、
魔物が倒れるわけないでしょ! 危ないかな!」
ベルが素早く杖を振り抜く。
放たれた鋭い衝撃波が三体のウサギをなぎ倒し、
一瞬で魔石へと変えた。
「……。だよね。……パンだもんね……」
肩を落としたその時、ピコンと電子音が響いた。
【レベルが上がりました:Lv1→Lv3】
【生成可能:モバイルバッテリー、充電ケーブル】
「……えっ、レベル上がった!?
それに、追加されたのがスマホ用品!?」
「……ニャ。この世界じゃ、戦いに参加して
敵の注意を少しでも引けば、その魂の欠片が
経験として分け与えられるものかな。
パンで顔を汚しただけでも『貢献』扱いのようね」
ベルが呆れたように尻尾を振った。
俺はすぐさま「モバイルバッテリー」を生成し、
お馴染みの白いケーブルをスマホに繋いだ。
「……あ、充電マークが出た! 生きてる!
これでしばらくは安心だ……。よし!」
「……。ハヤト、喜んでいるところ悪いけど、
その透明な袋に入った大量の薬草。
そのままギルドに持ち込む気なのかな?」
ベルが心配そうに、
パッキングされた魔力草の山を見つめた。
「そんな得体の知れない膜、
鑑定士が見たら大騒ぎになると思うかな……」
「……えっ、そうなの?
でもこれがないと枯れちゃうし……。
もういいや、正直に『これしか無かった』って言うよ!」
俺は充電中のスマホと大量の薬草を抱え、
開き直った心境でギルドへの帰路についた。




