第11話:初めてのお使いと、小さな相棒?
ガレリアの街に来てから、数日が過ぎた。
ハヤトはこの世界の空気にもだいぶ慣れ、
宿の朝食の硬いパンも、
器用にスープに浸して食えるようになっていた。
「……レオンさん。僕、今日は一人で、
ギルドの簡単な仕事を受けてみようと思うんだ」
俺が朝食の温かいお茶を啜りながら頷くと、
ハヤトは腰に下げた、
先日市場で買ったばかりの短剣を叩いた。
「いつまでもレオンさんに、
おんぶに抱っこじゃ申し訳ないからね。
薬草摘みとかなら、僕一人でもできるし」
「……いいだろう。だが、
お前は魔法も剣も使えん素人だ。
短剣一振りで外に出すわけにはいかん」
俺は足元に意識を集中させ、軽く床を叩いた。
影が波紋のように揺れ、
そこから一匹の『猫』がしなやかに飛び出した。
小さな杖を背負った、気品のある黒猫だ。
「……ニャ。主、お呼びかな?」
「ベル、こいつの護衛を頼みたい。
初めて一人でギルドの仕事に行くそうだ。
……ただし、その杖とマントは隠しておけ。
ただの飼い猫に見えるようにな」
「了解かな。……それっ」
ベルがくるりと身を翻すと、
背負っていた杖とマントがふっと影に消えた。
どこからどう見ても、
つやつやした毛並みの、ただの愛くるしい黒猫だ。
「わあ、すごい! これなら全然バレないね。
……よしよし、可愛いなぁ」
ハヤトが相好を崩して喉元を撫で回すと、
ベルは目を細めて「ゴロゴロ」と喉を鳴らした。
……が、俺にだけ見える角度で、
「主、あとでマタタビ増量かな」と
冷ややかな視線を送ってきた。
「文句を言うな。ベルを呼ぶための、
『最高級のマタタビ』を揃えるのも、
なかなかの手間だったんだからな」
俺が釘を刺すと、
ハヤトはベルをひょいと肩に乗せた。
「よろしくね、ベル!」
「よろしくかな、ハヤト。
ボクがしっかり見張っててあげるよ」
ハヤトは小さな「見た目だけ」の愛猫を連れて、
意気揚々と宿を出ていった。
俺はその背中を窓から見送りながら、
影に伏せている別の魔物に、
さらに広範囲の監視を命じるのだった。




