第10話:風の報酬と、召喚の絆?
日が傾き始めた頃、俺たちは市場で調達した、
ずっしりと重い籠を抱えて宿の裏庭にいた。
中身は、この地方で最高級とされる、
瑞々しい『聖銀のニンジン』と、
魔力を含んだ肉厚の青菜だ。
俺が意識を集中させると、
夕闇の影が揺らぎ、二頭の『風切り馬』が現れた。
「……ブルルッ!」
「待たせたな。約束の報酬だ。
ガレリアで一番いいやつを揃えたぞ」
俺が籠を置くと、馬たちは歓喜に目を輝かせ、
ニンジンを小気味よい音で咀嚼し始めた。
「……。
なんだか、前のフェンリルの時より、
レオンさんの顔が優しいね」
ハヤトが隣で、
馬たちの鼻面を恐る恐る撫でながら言った。
「……当然だ。
召喚士にとって、召喚獣は道具ではない。
命を預け合う『相棒』だからな」
俺は馬のたてがみを丁寧に整えながら、
ハヤトを振り返った。
「普通の魔導師は、魔力を燃料のように、
使い潰して術を発動させる。
だが召喚士は、相手の『意志』を借りるんだ。
だからこそ、約束は絶対だ。
一度でも報酬を渋れば、
二度と彼らは俺の呼びかけに応じない」
「……信頼関係、なんだね。
市場で僕の服を買った後、あんなに重い野菜を
文句も言わずに宿まで運んでたのは、
この子たちとの約束があったからなんだ」
ハヤトは、一心不乱に野菜を食べる、
ウィンドホースの拍動を掌で感じていた。
異世界に来てから、
恐ろしい魔物や傲慢な王ばかり見てきたハヤト。
だが、この召喚士と魔物の間にある、
静かで温かい繋がりに、
少しだけ心が救われたような気がした。
「……僕にも、いつかできるかな。
こんな風に、誰かと繋がること」
「さあな。だが、今朝お前の手に現れた
あのパンは、お前に応えようとした
何かの力の現れかもしれん。
まずは、その力を信じることから始めろ」
俺がそう言うと、
ハヤトは少し照れくさそうに笑い、
最後の一本のニンジンを馬に差し出した。
◇
その夜。
満足したウィンドホースたちが影へ還ると、
俺たちは宿の窓から、
二つの月が昇る夜空を見上げた。
「……さて。ハヤト、明日のことだが。
俺は少し街の外の様子を見てくるつもりだ。
お前は宿でゆっくり休んでいてもいいが……」
「……。
ううん、僕も行くよ。
今日歩き回って、この靴にも慣れたし。
一人で宿にいても、退屈なだけだからさ」
ハヤトの返事は、
昨日よりも少しだけ前向きな響きを含んでいた。




