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雨と違和感

 ザァァァ……

 雨粒は街の憔悴しきった人々の髪に当たり弾ける。

 街のネオンは人々を皮肉るように目の痛くなる光を放つ。

 水辺に沈みかけた小屋は、まるで死体のように雨に打たれて腐敗しながら軋む。

 

 小屋の中には二人いる――

 髭の隙間から煙を吐く男と、サッカーチームのロゴが剥がれかけてるTシャツを着た少年。

 彼らは行き場を失い、ただ静寂を求めてこの小屋に辿り着いた。

 暗闇の中で、煙草の火だけが弱々しく揺れる。

 

 男の声は空の雨雲より濁っていて恐ろしい。

 「俺は最近……世界がおかしくなってるって思っちまった……家族と笑って酒を飲んでいた夜に窓の外で人が裂けてたのを見たんだ……チーズみたいに音もなくな…その時、俺はあんな死に方“異常”だって気づいた」

 その声が少年の肩を震わせる。

 

 ネオンが男の顔を半分だけ照らすが、もう半分は照らされず暗い闇に沈みこむ。

 少年はその闇に怯え、呼吸を止める。

「悪いのはお前じゃない……裏切ったのはアイツとお前の親父だ。」

 男の手には鉈。充血した眼が少年の心臓を捉える。

「俺はこれでお前を殺せるのか……?もう条件は整ってるが……俺も死なないっていう保証はあるのか?」

 

 少年は恐怖に耐えきれず、足をもつれさせながら走り出す。

「おい!待て!!」


「ニクイニクイニクイ!!!」

 突如どこからともなくそんな怒号が聞こえてくると二人の頭上から白い手がぬるりと出てきて少年の逃げる背中を激しく叩く。


 バァン!!ゴツ!!ガシャン!!バタ!

 少年は白い手に尋常ではない力で吹き飛ばされて勢いよく頭を打つ。

 地面に倒れこみ頭から血を流す少年の周りにはガラス片が散らばる。

  

 怒号、衝突、ガラスの破片。

 赤く染まるTシャツ、涙と血が混じる床。

 男はその光景に膝を崩し、呟く。

「……死ぬじゃん……本当に死ぬじゃん……やべぇ……やべぇ!」

 男は起きた事に恐れをなして逃げ出す。

 

 それから数秒で少年の動きはやがて止まり、雨音だけが残る。 

 少年が窓から見えるネオンを眺めていると雷が街を打つ。

 それによってネオンが次々と消えていった。

 光を失い暗黒が街を覆う、しかし雨が止む気配はない。

 

 ――この雨の夜、人口の四割が犯怪者によって暗闇の中殺害された。

 それを受けた政府は治安改善を叫び、都市は新たな抑圧機関を結成する。

 その名は Paranormal Suppression Yard。

 略して P.S.Y。

 

 人知を超えた犯罪を抑え込むために、堕落した違和感が生んだ「奇怪の調律者」。

 だが彼らが街を見張り始めて13年経った今もなお雨は止まない。

 それはずっと誰かの髪を濡らし続けながら次の犠牲者を心待ちにする。

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