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第4話 幼馴染との約束

「ねえ、ちょっといいかしら?」


 (うらら)と共に学校の敷地内に到着した喜多方春季(きたかた/しゅんき)は、足止めを食らう。


 校舎の校門前を通り抜けようとしていた春季の前に佇む人物は、生徒会役員の東条仁奈(とうじょう/にな)

 彼女は副生徒会長の肩書を持ち、役員の中でもかなり厳しい指導をする事で有名なのだ。


 春季とは同学年の子ではあるが、しっかりとし過ぎていて、上級生なのではと一瞬錯覚してしまうほどである。


 黒髪のポニーテイルでかつ、凛々しい表情が特徴的な彼女の眼光は、今まさに春季へと向けられているのだ。


「これは何なのかしらね。ネクタイが曲がってるし。頭には寝ぐせもつているわ」


 副生徒会長である仁奈はビシッとした人差し指で、春季の指摘箇所を示している。


「そ、それは」


 なんで今日に限って生徒指導の日なんだよと、春季は心の中で頭を抱えていた。


 副生徒会長の仁奈は、少しでも適当な身だしなみをしている人がいれば、すぐさま指摘する。

 物凄いくらい目が良く洞察力も高いのだ。


「今日はちょっと寝坊しかけて」

「寝坊? 夜まで起きて身だしなみも整えられない。その程度では、本校に通う生徒としての心掛けが低いのでは?」


 仁奈からは、もっともな指摘を受けてしまい、春季は反論する事さえもできなかった。


「それと、隣にいるあなたも!」

「私?」


 仁奈の視線は、春季の隣にいる西野麗にも向けられていたのだ。


「というか、あなたは……⁉」


 急に仁奈の顔つきが驚き顔へと変わった。


「どうかしたの?」

「別に、なんでもないけど」


 仁奈は、麗の姿に困惑しているようだ。


「というか、ハレンチなのでは?」

「え?」

「だから、その……胸の大きさだ」


 仁奈は声を震わせながら、麗の胸元を指さしていた。


「これは元からだから、しょうがないよ」

「そ、そうかもしれないが、他の生徒が性的な目で見るだろ」

「でも、どうにもできないし。このデカさも特徴の一つじゃない?」


 麗は、はにかんでいた。


「特徴の一つかもしれないが……そ、それがよくないんだ。風紀を乱しているし……そ、それに、わ、私にはないし……」

「え?」

「べ、別になんでもないわ」


 仁奈は頬を真っ赤に染めながら、ムッとした顔で麗から視線を逸らしていたのだ。


「まあ、いい。二人とも今度から気を付けるように。次も身だしなみに問題があったから、普通に減点するからな」


 普段は硬派な口調で物申してくるはずなのに、麗と絡んでからは、どこか弱くなった気がする。




「なんだったんだろ?」


 春季と麗は、生徒指導が行われている校門周辺から離れ、校舎に向かって歩き出していた。


「まあ、私のお陰って感じかな? 実を言うと私ね、あの子とは昔からの知り合いなの」

「そうなの?」

「そうそう。でも、私から仲良くしようとすると、いつも私と張り合ってくるの。私的には仲良くしたいんだけどね」

「へ、へえ……」


 副生徒会長の仁奈は、麗のおっぱいを見てから態度が変わった気がする。

 もしかしたら、彼女は自身の胸の事について気にしているのかもしれない。


 考えてみれば、副生徒会長の胸は小さかった。

 小さいというか、ほぼ無いような感じだったと思う。


「春季くん?」

「え、な、なに?」


 春季は自分の考えに浸っていて、麗の問いかけに遅れながらも気づく事となったのだ。


「春季くん、こっち向いてくれない?」

「え?」


 校舎の昇降口に入ったところで、麗が春季のネクタイを直し始めた。


「こんな感じでどうかな?」

「あ、ありがと」


 麗とは密着した状態でネクタイを直してもらった事で、彼女の爆乳が体に当たっていたのだ。


 他の人らの視線もある状況での出来事に、春季は戸惑いを隠しきれなくなっていた。


 周りの男子生徒からは嫉妬染みた視線を浴びる羽目となり、これからの学校生活の雲行きが怪しくなりつつあったのだ。




 学校に到着して早々、麗との関わりがあった事で、朝のHRが終わるまでの間、どぎまぎが収まる事はなかった。

 色々な意味で緊張しまくり、HRが終了した今でも変な緊張感に襲われていたのだ。


 麗とは同じクラスであり、現在、麗は別の友人と会話しているものの、この環境に耐え切れずに春季は教室を出るのだった。


 どうすりゃいいんだよ……はあぁ……それにしても麗さんは色々と大胆だな。


 麗は他の人からも普通に告白される事も多く、もう少し言動には気を付けてほしいと思う。

 それに、爆乳なのだ。

 そんなおっぱいを併せ持っているのに、話しかけてこない男子生徒は殆どいないだろう。


 もしかすると、麗は天然なのかもしれない。

 おっぱいも同様に――


「……」


 校舎の廊下を歩きながら、麗のおっぱいを考えていると、下半身が反応しかけてくる。


 麗のおっぱいはデカい。

 そんな彼女と一緒に真夜中まで電話をしていたのだ。

 しかも、スマホ越しに甘い声で囁かれながら。


 そんな事ばかりを考えていると、嫌らしいシチュエーションが脳内に浮かんでくる。なおさら、性的な感情になっていく。


「ねえ、春季」

「⁉」


 嫌らしい思いに脳内が支配され始めている最中。廊下を歩いている時に幼馴染と出会ってしまう。


 その幼馴染は、目の前にいる春季の事をジト目で見つめているのだ。

 彼女は神崎阿子。

 茶髪のショートヘアが特徴的で、春季とは小学生の頃から時間を共にしている子なのだ。


 高校生になってからはクラスの違いで関わる事はめっきり少なくなっていたが、今日こうして出会ったのは、やはり何かの縁なのだろうか。


「ねえ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「な、何かな?」


 春季は恐る恐る聞き返す。

 まさかとは思うが、朝の件だろうか。


 麗から制服のネクタイを直してもらったりと、密着する機会が多かった事で、その事についての話かもしれない。


「春季って、女の子と付き合い始めたの?」

「え? えっと……」


 やはり、麗に関する件かもしれないと思うと、春季は頭を抱えたくなる。


 まさか、こんなにも早く阿子に知られてしまうとは想定外だった。


 高校に入学する前に、誰かと付き合うことになったら、事前に話すという約束をしていたからだ。


 この様子だと、今まで経験した事を詳細に話さなければならない空気感であり、春季は彼女から少し視線を逸らしていた。


「あのさ。まだ一時限目が始まるまで時間あるし、二人きりで話さない?」


 阿子は笑顔を見せているが、背後からは真っ黒なオーラが放たれているような感じだ。


 色々と追及されそうではあるが、春季は頭を抱えたまま、彼女と共に誰もいない場所へと移動する事となったのだ。


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