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第14話 春季の悩みは尽きないらしい

「こちらが食後のデザートになります」


 喜多方春季(きたかた/しゅんき)も阿子も食事を終えると、その状況を見計らってウェイトレスが二人のいるテーブルへと、デザートを持ってきたのだ。


「こちらで全部になりますが、ご注文にお間違いはないでしょうか?」

「はい、大丈夫です」


 神崎阿子(かんざき/あこ)が笑顔で受け答えしていた。


「では、こちらに明細書を置いておきますね。ごゆっくりどうぞ」


 ウェイトレスは、テーブルの端にあるアクリル伝票立てに入れていた。

 別のテーブルからのオーダーがあったようで、頭だけ下げてその場所から立ち去って行ったのだ。


「凄いね、やっぱり、昔と比べて進化してるっていうか」


 阿子はテーブル上に置かれた、聳え立つ、その大きなパフェを前に驚いていた。

 昔のパフェは標準サイズだったが、今は昔の三倍ほどの大きさへと変貌を遂げていたのである。

 ハンバーグ専門店の企画部らが、色々と試行錯誤して作り出した、企業努力の賜物かもしれない。


「写真で見るよりもかなりおっきいね」


 阿子は驚いていたが、同時に目を輝かせていたのだ。


 阿子が注文したのは、チョコバナナクッキーパフェという名称のパフェらしい。

 ふんだんに甘いお菓子を寄せ集めて作った感のあるパフェである。

 豪快感があって、凄く良さげな雰囲気を感じられるのだ。


「それ、全部食べられる?」

「わからないけど、春季は食べる?」


 春季の問いかけに反応するように、阿子はスプーンを持ち、構えていたのだ。


「……えっとさ、さっきの話なんだけどさ」


 阿子が気分よく食べ始める直前、春季の方から話しを切り出す。


「やっぱり、付き合うってのは難しいかも」

「どうしても?」


 阿子は首を傾げていた。


「うん……麗さんと約束したんだ。だから」

「そっかぁ、私のことは一人の女の子としては見てくれないんだね」


 阿子は頬杖をついて、ため息をはいていた。


「ごめん」

「別にいいんだけど。私なら昔の春季も知ってるし、なんでもしてあげられるのに」


 阿子は、自身の口元に右手の指先を当てていたのだ。


「えッ⁉ なんでもって?」

「もしかして、食いついた感じ?」


 阿子は、春季のわかりやすい反応を見て、細目でニヤついていたのだ。


「そ、そんなわけないだろ」

「えー、でも、私、本気なんだよ? あまり私の気持ちを無視しないでほしいの」


 阿子はスプーンを持ったまま、春季の事をまじまじと見つめていた。

 そんな彼女の頬は紅潮している。


 阿子は勇気を持って、本音で話してくれたのだと思う。

 ただ、阿子とこれ以上親しい関係になると、結果として麗を裏切る事になる。

 それだけは阻止しないといけなかった。


「俺の事を好きなのは嬉しいんだけど、やっぱり、無理かも」


 春季は肩から力を抜くようにして言い切った。


「じゃあ、私ともう少しだけ付き合ってくれない?」


 阿子は春季を誘い込むようにして、甘えた声で誘ってくる。


「でも、お昼の間だけでしょ?」

「そうなんだけど、ちょっと気分が変わった感じ。そうしないと、私の中で納得できないの。お願い」

「んー、分かったよ」


 今日の午後も特に大きな予定はない。

 ただ、自宅でラノベを読むだけだったのだ。


 春季は少し考え込んだ後、阿子と一緒に過ごす趣旨を伝えた。


「ありがと、お礼にこれあげるね!」


 阿子はスプーンで掬ったパフェの一部を春季に見せつけてきたのだ。

 彼女は口元へと近づけてきて、春季は驚いた顔を見せつつも、それを口に含む事にした。


 美味しい。

 それが、率直な感想だった。


 昔、このハンバーグ専門店のパフェを食べた事はあったが、久しぶりに食べてみて、外見のボリュームだけではなく、味も向上されている事がわかったのだ。


 懐かしくも、甘いパフェの味が口内を侵食していく。

 チョコやクッキーやバナナのまろやかで洗礼された味が、春季の体を魅了するかのようだった。


「私も一口食べるね♡」


 阿子はスプーンでパフェを頬張っていたのだ。


「え、ちょっと待って。それって俺が口をつけたスプーンじゃ?」


 春季はハッと目を見開いて、阿子が持っているスプーンを指さす。


「ん? そうだけど? 何かダメなの?」

「そうじゃないけど。気にしないのか?」

「私は別に。もしかして、春季は気にするの?」


 阿子は口角を少し上げ、春季の立ち振る舞いを見て、ニヤニヤしていた。


「べ、別に」

「そういっちゃって、結構気にしてそうな顔をしてるじゃん」


 春季は、阿子から言葉攻めされる度に頬を真っ赤にし、困った顔を見せつつも、強気な言葉を並べ、その場を乗り切ろうと必死だった。


「えー、本当かなぁ?」

「本当だって」


 阿子からは疑いの眼差しを向けられ、弄られているのだ。


「まあ、これで間接的なキスになるよね?」

「⁉ へ、変な事を言うなよ」


 さらなる追撃を食らい、春季は動揺してしまう。


「私、何も変な事は言ってないよ。春季の方が意識してるだけなんでしょ?」

「……」

「図星的な?」


 春季が言葉を詰まらせたことを良い事に、阿子は勝ち誇った顔を見せていたのだ。




 二人はパフェを食べ終えると、レジカウンターで会計を済ませ、外へ出る。


「美味しかったね♡」

「ま、まあな」

「でも、ごめんね、ちょっと弄りすぎちゃったかも」


 阿子は、てへ顔になっていた。


「別に」


 なんか調子が狂う。


「私、春季と付き合いたい気持ちは変わらないから。だから、春季の心が私に向くまで、まだ一緒にいてもいい?」

「……でも、俺。阿子の気持ちには答えられないかもしれないけど?」

「いいよ。私が春季の事を考えるだけなら、タダだし。それに、諦めて後々後悔したくないし」


 阿子の想いがヒシヒシと伝わってくる。

 その上、ハンバーグ専門店のファミレスを出た辺りから、彼女は春季の右腕に抱きついていたのだ。


「距離が近い気が」

「いいじゃん、誰も見てないんだし!」


 阿子は春季を独り占めしている事で、なりふり構わずといった言動を取っているのだ。

 がしかし、その現状を打ち砕くような状況になってしまうのだ――


 え……⁉


 春季は、阿子と一緒に街中を歩いている際、正面の光景を見て、ドキッとしていた。


「あ、阿子、ちょっと離れてくれないか?」

「え? なんで、いいじゃん」

「いや、色々とヤバいんだ」

「なんで?」

「なんでじゃなくて」


 春季が慌てて発言しているが、腕に抱きついている阿子はまったく周りを見ていなかった。


「あ、あなた達って、そういう関係だったの⁉」


 春季と阿子の前に現れたのは、プライベートとして、一人で街へやって来ていた西野麗だった。


「私、阿子さんとは一緒にやって行けると思ってたのに」

「これは違うんだ」


 春季は、二人の関係を仲介するかのように間に挟まって、立ち回ろうとする。


「……うん、そうだよ。私たち、そういう関係なんだよね、春季♡」


 阿子の発言に、麗は今まで見せた事のない顔つきになり、ジロッと春季の方を睨んできたのだ。


 大勢の人が行き交う街中で、春季は二人の女の子の決闘に巻き込まれそうになっていたのだった。


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