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第13話 幼馴染は俺に伝えたいらしい

 朝から懐かしさのあるラノベを読み、それから出かける前にお風呂に入ってから外出用の衣服に着替える。


 幼馴染の阿子(あこ)と一緒に過ごすとはいえ、あまりにも変な格好で外に出るわけにもいかず、喜多方春季(きたかた/しゅんき)は自室の鏡の前で身だしなみを整えていく。


「お兄ちゃんって、今日出掛けるの?」


 開けていた自室の扉から顔を出すのは、妹のひより。


「ん? そうだけど」

「もしかして、今付き合っている人と?」

「いや、阿子と」

「そうなんだ。でも、付き合っている人に誤解されないようにしなよ」


 妹は意味深な顔つきで、ちょっとしたアドバイスをしていた。


「わかってるよ。まあ、やっぱりさ、阿子と変に距離を作るより、いつも通りに振舞った方がいいと思って」


 現在進行形で付き合っている西野麗(にしの/うらら)から、朝になっても連絡は来なかった。

 だから、今日は予定通りに阿子と遊ぶ予定である。


「それに関してはお兄ちゃんが決めればいいよ。お兄ちゃんの問題だし。私も出かけてくるね」

「ひよりも?」


 ひよりは、近場へ外出する用のパーカーと、チノパンツを身につけ、秋用のコーデになっていた。

 今身につけている衣服は昔、春季が着用していたおさがりなのだ。


「うん、近くの本屋なんだけど。新刊が出たみたいし、その確認と、欲しい本があったら買うかもって感じ。お兄ちゃんも気を付けて行ってきてね」

「わかってる」


 一旦話に区切りがつくと、妹は扉の前から立ち去って行ったのだ。




 春季は自宅を後に道を歩く。

 阿子とは街中のアーケード街の入り口付近で待ち合わせをしていた。

 がしかし、アーケード街の周辺だと人通りが多く、春季はその近くの公園にいる事にしたのだ。

 それから何となくスマホを弄り、その場で時間を潰す。


 幼馴染と二人きりで休日を過ごすこと自体が久しぶりで、変に緊張してくる。


 幼馴染とは付き合っているわけでもなく、ただの友達みたいな間柄であり、今日の春季の服装も至って普通だった。

 男性用の秋服のテンプレートみたいな感じ。

 大体が、妹のひよりが着ていたパーカーと同じメーカーのモノで、下の方はジーパンだった。


 スマホを弄って公園にいると、誰かの視線を感じ、そちらへと顔を向ける。

 公園の入り口辺りには、幼馴染の神崎阿子が佇んでいたのだ。


 互いに視線が合う。

 阿子の方から、春季の方へ近づいてきた。


「ちゃんと来てくれたんだね」

「約束だったからな。じゃあ、行こうか。食事できるところなら、どこでもいい感じ?」

「うん、ファミレスでもいいよ」

「だったら、こっから近くだと、ハンバーグメニューの多いファミレスがあったと思うし。そこでいい?」

「いいよ」


 阿子はすんなりと承諾してくれたのだ。

 二人は公園を後に、アーケード街通りへ向かって歩き出すのだった。




 二人が歩いているアーケード通りには、色々なお店が密集している。

 ハンバーガー屋、立ち食いソバ屋、日本定食系のお店などだ。


 春季と阿子が訪れようとしている場所は、ハンバーグ専門店のようなファミレスであり、ボリュームのある料理に対しての価格が安い事で有名だった。


 二人は店内に入ると、ウェイトレスから案内され、特定の席に向き合うように座る。


「こちらがメニューになります。お決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼びください」


 ウェイトレスは笑みを見せ、その場から立ち去って行く。


「春季は何にする?」


 阿子はテーブルに広げられたメニュー表を見てテンションを上げていた。

 彼女からしても、春季と一緒に休日を過ごす事が楽しみだったのだろう。


 笑みを見せ、幼馴染は注文したい品を指さしながら選んでいたのだ。


 春季も混ざるように、そのメニュー表を見て選び始めた。


「私、このおろしポン酢のハンバーグがいいかな」

「珍しいね。そういうの頼むって」

「そんなことないよ。私、おろしポン酢系の料理にハマってて」

「そうなんか。昔は、デミグラス系のハンバーグとか食べてなかったか?」

「それはそうなんだけど。成長すれば味覚も変わるでしょ」


 阿子はムッとした顔を見せながらも、少し頬を緩めていた。

 昔からずっと変わらないモノなどない。

 少しずつ、目に見えないところで変化していくもの。


 幼馴染の阿子も、春季の知らないところで色々と変わっているのだろうと思った。




 注文を終え、数分が経過した頃合い、二人がいるテーブル上には各々の品が出揃っていたのだ。

 阿子の前には、おろしポン酢のハンバーグが置かれ、春季の前にはチーズ入りのハンバーグ。


「そういえば、阿子が注文していたデザートは?」


 春季は彼女のテーブル前の状態を見ながら言う。


「アレは食後にしたよ」

「昔は最初に来るように頼んでいなかった?」

「昔はね。今は、食後に食べるようになったの」

「へえ、そうなんだ」

「逆に、春季はデザートを頼まなくても良かったの?」

「俺はいいや。ハンバーグだけで」

「でも、ここのデザートってどれも美味しいから食べればいいのに」


 そう言って、阿子はおろしポン酢のハンバーグの一部を箸で掴んで頬張っていた。


「美味しい! やっぱり、ここのファミレスは最高ね」


 阿子は箸を持っていない方の手で頬を抑えていたのだ。


 春季も頼んだハンバーグを食べると、阿子と同じ感想を抱く。


 小学生の頃は、このファミレスによく食べに訪れていた事もあり、思い出補正もあってか、ちょっとだけ感動していた。


「ねえ、春季?」

「ん?」


 春季が食事をとっていると、阿子が真剣な声のトーンで話しかけてくる。

 阿子は箸をテーブルに置いて、春季の事をまじまじと見つめているのだ。


「私ね、春季と一緒に食事する事も今日の目的だったんだけど……もう一つあって」

「ど、どんなこと?」

「私ね……あのね、春季の方がどう思ってるかわからないけど……」


 目の前にいる阿子の声が震えていた。

 大事なことを、これから話そうと必死になっているのが伺えるような表情であり、春季も何となく察する事が出来ていたのだ。


 春季は唾を呑む。


「私……春季と付き合いたいと思って」


 春季は彼女の言葉にハッとした感じの目を見せる。


「今のままだとやっぱり駄目だと思って。だからね、これだけはちゃんと伝えたかったの。春季は付き合っている人がいるでしょ? それはわかってるよ。でも、春季はなかなか気づいてくれてないみたいだったし」


 阿子の声を聞くと、その想いがヒシヒシと伝わってくる。

 今、一緒のお店にいて、同じテーブルに座り、向き合って食事をしているのだ。

 なおさら、彼女の心が痛いほどわかった。


 春季も心の奥底ではわかってはいたのだ。

 けれども、春季は阿子のことを幼馴染のままだと思い込んでいたかった。

 がしかし、その現実からは避けられない状況になっていたのである。


 二人の間で妙な沈黙が訪れるのだった。


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