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「何だ? 何が起こった?」

 エバンスが腰を浮かせる。これまで尊大な態度から、急に狼狽えた表情になっていた。

「落雷、いや、この場合は下から上だから……」

 サイモンが思案顔でそう言う。

「雷と同じ放電現象でしょう? 船の状態はどうなの?」

 定義などどうでもいいでしょ、とばかりにジュン。

「メインエンジンが停止してます。スラスタと姿勢制御用は無事なので移動はできますが。この状態では惑星から離脱できません」

 以外に落ち着いた調子でナタリアが答えた。

「なんだ落雷……。雷、そんなことで故障するのか、この船は」

「これは宇宙船です。雷が起きるような場所を航行することなんて想定していません。今は高速航行中でもないし、防御シールドも展開していません」

 エバンスの言いにムッとしたようにナタリアが答えた。エルタニン号の開発プロジェクトに携わってきたナタリアとしては、ソブコスモス社の株主に当たる企業連合からの依頼とはいえ、探査計画で何度も打ち合わせて来たジュンとサイモンと違い、直前に加わったエバンスに部下の様に扱われるのは気に食わないことだった。


「しかし、この規模の惑星で雷。しかも下からか。氷の下の液体の層で対流が起こっているのかな。それでどうやってイオンが発生するんだろう……。こういう現象は記憶に無いな」

 コンソールに表示されたデータをサイモンが興味深げに見ている。

「珍しい現象を観測出来て良かったわね。エンジンは復旧出来るの?」

 ジュンがナタリアに尋ねた。

「ええ。自動修復機構が作動しています。復旧までは六時間となっています」

「君たちは何を落ち着いているんだ、六時間だと?」

 エバンスが声を荒げた。

「不測の事態ですが、致命的ではないでしょう。他に何が問題なんです? 先ほどから何を気にしているんですか?」

 ジュンが不審な顔でエバンスを見る。それに答えず、エバンスはコンソールを操作している。

「……返信が、来ている。早急に退去せよだと……。まだ私が居るんだぞ」

 エバンスは椅子に座り込んで額に手を当てている。

「エバンス船長。いったい何が起こっているのか、説明していただけませんか」

 静かだが、断固とした調子でジュンが言った。

「早くこの場を、この惑星から離れるんだ。この星はもうすぐ爆破される」

「爆破? どういうことですか?」

 サイモンが不安げな顔で聞いた。

「ビーコンは、我々が調査を終えたら発信して、立ち去ったことを告げるためのものだ。それを合図に惑星に設置された対消滅爆弾が起爆される。私が立ち去るまで爆弾は起爆されないはずだったんだ」

「対消滅爆弾! 何故そんなことを? 誰がそんなことをするのかわかりませんが、連絡できるなら、中止するように要請してください!」

 エバンスが顔を上げてサイモンの顔を見つめる。

「退去要請が来ている。彼らは実験の予定を変更する気はない様だ。八時間後には起爆される」

 一瞬の沈黙。

「エバンス船長。あなたを連邦調査局権限で解任します。これからは私が指揮をとります」

 ジュンがこれまでとは違う冷めた口調でエバンスに告げた。

「君は何を言っているんだ?」

「私は連邦調査局調査員カトウ少尉です。調査局より特命でこの船に乗船しています」

 ジュンが右腕をかざすと、手の甲に逆三角のホログラムが現れ、その角にFHIの文字が浮かんだ。

「な……」

 エバンスもサイモンもあ然として声もでない。ナタリアだけが直ぐになるほどという顔になった。

「操船権限の設定はそういうことでしたか」

「エバンスさん、あなたが先ほど連絡したチャンネルへ再度私から連絡を入れます。ユーラシア科学連盟の理事局ですね」

「り、理事局は連絡係でしかない。ユールの上層部は、調査局の警告ぐらいでは、決定を変更せんぞ。この計画はもう数年前から動いているんだ。それにもう、時間も無い」

「時間。ああ、地球で行われる連邦軍事会議のことですね」

「な、なんだ。知っているんじゃないか」

「まさか、こんなぎりぎりの状況で実験を強行するとまでは思っていませんでした。この星で無くとも良かったはずですし、この星系以外にも実験の候補地はあったはずです」

「私はここ以外は知らん」

「そうでしょうね」

 小娘に馬鹿にされたとばかりにエバンスが睨んだがジュンは相手にしない。

「最悪の場所を選んだものですね。人類にとって未知の存在がここに居るというのに」

「科学連盟ではそんな評価はされていなかったぞ。生体シミュレーションである可能性が高いと。君も言っていたではないか。それに複雑な構造でもないと」

「問題はそこではありません」

「あの、お話し中にすまないんだが」

 サイモンが割って入った。

「惑星が爆破されそうなら、早めに行動したほうが良いんじゃないかな」

「そうでした」

 エバンスをサブコンソールに追いやると、ジュンが船長席に座り、コンソールから通信を行った。

「返事がくるかどうか。爆破は八時間後ですか。船のメインエンジン再始動まで六時間。メインエンジンが始動しないと超高速機関も動かないんでしたよね。超高速通信もそれまで使えないと」

 状況は芳しくない。今回の調査にエバンスを同行させたのは、調査を適当に打ち切らせるつもりだろうと思っていたが、最初から調査など無視して強硬するつもりだったのか、途中で予定が変わったのか。この状況を星系のどこかから監視しているはずのユーラシア科学連盟は傍観するだけなのか。この惑星から脱出できなかった場合も対消滅爆弾を起爆するのだろうか? 四人の命を犠牲にしてでも。

 今は脱出が先だとジュンは頭を振った。

「影響のない場所まで移動できますか。出来ればあの太陽の反対側へ行けば、爆発の影響も受けないでしょうけど」

 ジュンがそう言ってナタリアを見た。

「二時間でメインエンジン起動から航行までは行えるでしょうが、全速で移動できるのは一時間も無いと思います。今この軌道上から反対側へ向かうには時間がありません」

「超高速航行は使えないんですか?」

 サイモンが質問する。

「メインエンジンの再始動後になりますから、より時間がかかります」

 コンソールに向かったままナタリアが言った。

「超光速航行が行えるようになるのと、爆発するのと、ほぼ同じ時間になるでしょう」

「爆弾はどこに設置されているんですか? 連邦政府に連絡して撤去することはできませんか?」

 サイモンがエバンスとジュンを交互に見つめた。

「設置場所は私にも知らされておらん。この船の探知能力なら探し出せるだろうが、撤去など出来るかね? 連邦政府に直接連絡するには、超光速通信が復旧してからだろう。間に合うまい」

「現在航行不能に陥っていることを連絡すれば中止してもらえるんでは?」

「その連絡はしましたが、返事がありません」

 不安げなサイモンにジュンが答えた。会話が途切れる。

「もし、爆破時間までここに留まっていたとしたら、中止すると思いますか?」

 エバンスにジュン訊ねた。

「……そんなことは想定していないだろうな。我々を犠牲にしてまで実験を強行するとは思いたくないが。それに賭けてみるつもりかね?」

「……今は、ここを離脱することを優先しましょう」

 エバンスを睨みつけていたジュンが視線を落とすとため息交じりに言った。

「この船は最新の対塵用防御シールドを備えているようですが、爆発の衝撃に耐えられるでしょうか?」

 ジュンがナタリアに質問する。

「そういったことは想定していませんし、爆発がどんなものかも分かりませんが、惑星が破壊される規模では、おそらく無理でしょう」

 ナタリアがすまなそうな顔で答えた。

「そのシールドは、高速航行中の宇宙塵防御用なんだよね? それを使えば、もっと早くこの星から離脱できるかもしれない」

 そういうサイモンをジュンとナタリアが見つめた。 

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