これから
三下は、駐車場に車を止め、降りると、軽く、自分を確認して店に向った。
「あっ。いらっしゃい。調子はどう?」
綾夏が、柔らかい笑みで迎えてくれる。
「まぁまぁ、かな。」
片手を上げながら、レジの向こうにいる綾夏に向う。
「じゃあ、いつものシップと傷薬?」
目に、少し、おどけた色をのせて小首をかしげる綾夏。
三下は、その仕草を眺めながら、首を振った。
「いや。今日はちょっと違うんだ。」
「へぇ。珍しいわね。どうしたの?」
目を丸くする綾夏に、三下は、渋い顔をして、頭をかいた。
「いや。ここを出ようと思ってさ。」
「あっと、、、。」
呆けたような表情を見せるも、綾夏は、すぐに取り直す。
「そっ、そうなんだ。遠くに行くの?」
三下は、腕を組み、目を上に向けた。
「車で、三時間ぐらいかな。」
「んー。遠いといえば、遠いわね。」
「まぁね。」
「で。」
頬に指をあて、考えるようにしていた綾夏が、急に、真面目な表情で、三下を見た。
「次の仕事が何か、聞いてもいい?」
「えっと。」
詰まって、明後日を見る三下を、綾夏は、細くした目で見上げた。
「ハンター?クリスタルハンターかしら?」
三下は、目をフラフラと泳がした後に、諦めて肩を落とした。
「なっ、なんで、、、。」
軽く息を吐くとともに、手を広げる綾夏。
「ん。確か、その辺りに、レベル4のダンジョンが二つ、近くにできて、それで、町おこしだ、って言って、炎上している町があったなーって。あと、明らかに、相手が犬じゃない三下さんの怪我とか。」
「きっ、気が付いていたんだ、、、。」
「薬屋さんですから。でも、まさか、本当に、勇者修行だとは思わなかったわ。」
真っ直ぐ、三下を見上げる綾夏。
大げさに頭をかく三下。
「いゃ。まぁ。それは違うけどね。」
「えっ?でも、、、。」
「結局、ダンジョンは、神が用意した試練だと思うんだよね。」
「まぁ。多分、そうよね。」
腕を組んで、考えるように話す三下に、綾夏も、顎に指をあてて、考えるように目を泳がせる。
「でさ、その試練を超えたら、イコール、勇者になると思う?」
「言われてみれば、、、。ならない気がするわね。」
「でしょ。」
「んー。じゃあ。どうなるの?」
「わからない。だから、それを知らないといけないような気がするんだよね。」
「、、、。でも、危ないんでしょ。」
伏し目がちになった綾夏の声は、小さく振れていた。
「それは間違いないね。実際、沢山の人が死んでるし。けど、仕方ないね、簡単な試練じゃあ、意味がないだろうし。」
「、、、。決めてるんでしょ。」
「まぁね。」
決意したように、ゆっくりと顔を上げた綾夏は、しっかりと三下を見つめた。
「死なないでね。」
「了解。まぁ、駄目だと思ったら、尻尾巻いて逃げるから、大丈夫だよ。」
「うん。絶対そうしてね。物語じゃないんだから。」
「あぁ。とっ、そろそろ行かないと、部屋の引き渡しがあるから。」
「うん。」
「じゃあ。」
「うん。じゃあね。」
片手を上げる三下に、綾夏も手を上げた。
次の日の朝
「おはよ。」
店の扉の鍵を開けている莉子に、三下は声を掛けた。
「あっ。おはよ。」
莉子は、三下の様子を確認すると、彼が口を開く前に声を上げた。
「ちょっと待って。すぐに店の用意して、店長に電話するから。」
と、勢いよく店に突入しようとする。
「待て待て。どーするんだ?」
三下は、突如、加速する莉子を、慌てて止めた。
「どーする、って、何処かに行くんでしょ。全く。私でさえ前日に連絡したのに、自分は、当日の朝なんて、いいけどさ。」
止まって、口をとがらせる莉子に、三下は、更に慌てた。
「待て待て。行くのは確かだが、別に、お前さんを連れて行くわけじゃないぞ。」
「は?」
意味が分からない、と、細くなった莉子の目。
「じゃあ。誰と行くのよ。」
声も、少し、怒気混じりに。
三下は、その彼女の様子を気にすることなく、肩を竦めた。
「誰と、って、一人に決まってるけど。引っ越すからさ、別れを言いに来た。」
「へっ?」
空白。
「ちょっと!ちょっと、ちょっと、じゃあ、私はどうすればいいのよ!」
空白の間、泳いでいた目が、三下に向って集中する。
「おいおい。どうすれば、って、今までどおり好きにすればいいだろ。」
不思議そうに、肩を竦める三下。
「それは、、、。そうだけど、、、。」
「まぁ、とにかく、やらないといけないことが見つかってさ、行かないと。」
種明かしでもするように話す三下に、すぐさまに、莉子が答えた。
「なっ。何言ってるのよ。おっさんなんだから、そんな物語みたいな、やらないといけないこと、みたいなのに踊ってどおするの?」
苦笑する三下に、莉子は、自分が失敗したことに気が付いた。
「あっ、、、。別に駄目とは、、。」
すっ、と、三下が手を上げ、莉子は、続けずに黙った。
「歳のことはわかってるよ。けど、まぁ、後回しにしても悪くなるだけだしな。だから、今、見つかったことを、よし、として、今からスタートって、ことにしたんだ。」
「そっ、そう。」
俯き、小さく答える莉子に、三下は、一つ、頷いた。
「と、言うことで、行くからさ、一言、言っておこうと思ったわけだ。」
「わかったわよ。好きにすれば。」
「あぁ。」
少し、止まって。
「さよなら。」
俯いたままでも、しっかりと聞こえる声に、三下は、また、頷いた。
「あぁ。じゃあな。達者でやってくれ。」
三下は、莉子に背を向け、車に向って歩き出した。
莉子は、車の扉が閉まる音とともに顔を上げ、三下の車が見えなくなるまで見送ると、店の中に消えていった。
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