首相官邸 9
栗夫が、忌々しげに扉を開けると、部屋では先に次官が待っていた。
「それで、状況は?」
気分の悪さがそのままのった口調に、次官は、俯き加減に首を振り沈んだ声で答える。
「また一人、死亡しました。」
「ちっ。まだ増えそうなのか?」
「わかりません。ギリギリなのは事実です。」
これ見よがしに舌打ちをしても、状況は変わらない。
栗夫は、激しく足音を立てながら歩いて、ソファーに座った。
「それで、反撃に転じた二体のオークはどうなってる?」
ゆっくりと、向き直った次官は、少し、顔を上げた。
「監視は付けています。今のところ、いつもの破壊活動を続けています。」
「攻撃は?」
「危険かと。」
「じゃあ、どうするんだ?」
「今のところは、どうにもできません。」
歯ぎしりをしながら手を組むと、栗夫は、考えるように黙った。
少しして。
「いつかは攻撃してくるだろうと思っていたが、こうも早いとはな。」
次官は、答えず、ため息をついた。
「結局、何人死んだんだ?」
「六名です。攻撃に転じた二体のオークに対した二部隊、十名の内、四人がほぼ即死、二人が出血多量で死亡、四人が、意識不明の重体になってます。」
「全滅、と、いうより、完全に殲滅されたな。」
次官は、また、答えなかった。
栗夫も、また黙り、暫くして、軽く頭を振って、顔を上げた。
「ダンジョンの方は、どうなってる?」
「新たに発生したダンジョンは、レベル4と5のものになります。数は、どちらも、12程確認しています。」
「4は、ともかく、レベル5、とはな。」
ソファーの背に、体を倒しこみながら、栗夫は呟いた。
「中の確認はできるのか?」
次官は、浅く首を振る。
「レベル5は、難しいかと。」
「彼らでもか?」
「さわり程度なら可能でしょうが、無理を押して、彼らを失うことの方が損失は大きいと思います。先ずは、レベル4の攻略が先だと。」
二人は黙った。
そこに、扉を叩く音が響く。
「いいぞ。」
栗夫の声に、次官が動いて扉を開けた。
「どうした?」
扉のところに立った状態で、向こうに見える秘書官に声を掛ける次官。
秘書官は、少し、息を整え、答えた。
「オークが消えました。」
次官は、息をのみ、栗夫は、目を丸くした。
「二体ともか?」
「はい。ほぼ同時に連絡がありました。」
「わかった。また何かあったら連絡を頼んだ。」
「はい。」
頭を下げた秘書官が戻っていくと、次官は、扉を閉め、栗夫に向いた。
「どうやら、時限式だったようだな。」
少し、焦りが消えた栗夫の声に、次官は頷いた。
「そうみたいですね。」
「全く。残って、破壊し続けるかと焦ったぞ。」
「ただ、、、。」
「わかっている。明日も反撃してくるオークが現れるのは間違いないだろうな。」
「だと思います。」
「自衛隊に、多少、街の被害が拡大しても構わないから、隊員の被害が最小になる方法を考えろ、と、言っておいてくれ。」
「わかりました。」
栗夫が、ゆっくりと体を起こしながら、腕を組んだ。
「本当に、何を考えているかわからんな。」
「神ですか?」
「あぁ。」
「全くです。」
ため息をつきながら、次官が、同意。
「どちらにしろ、自衛隊の被害は大きくなるな。」
「それはまぁ。多分、そうなるでしょうね。」
肩を竦めながら、腕を広げる栗夫に、次官は、小さく首を振る。
二人は、同時に、ため息をついた。
「クリスタルを買い取る為の準備は、ほとんど終わっているんだろ。」
黙った時間が流れ、ソファーにもたれなおした栗夫は、天井に目を向けていた。
「終了しています。何しろ、選別部が神懸りでしたので。」
天井に目を向けたまま、栗夫が肩を竦める。
「あぁ。そうだったな。勝手に選別されて、足元に出てきたな。驚いたよ。クリスタルに混ぜていたガラスの偽物が、いきなり足元に出てくるんだからな。正に、神懸り。本当に、何を考えているかわからんな。」
「予算としては、相当、助かりましたが、何を考えているのかは、わからないですね。」
間を置き、慎重に、次官が口を開く。
「本当に、、、。」
「くどい!」
栗夫は、目線を天井から、次官に向けた。
「どちらにしろ、自衛隊の被害が大きくなれば、民間人に自衛隊に入ってもらうことになるんだぞ。かわらん。」
睨みつける栗夫に、次官は、奥歯を噛みしめる。
「それは、否定はできないですが、、、。」
栗夫は、頭をかきながら、伏し目がちに体をおこすと、まっすぐに顔を上げた。
「そうだな。丁度いい、取り敢えず、こちらが持っているダンジョンの動画を、全て公開しろ。」
「は、、、。しかし、、、。」
「情報は、少しでも多い方がいいだろ。」
驚いて、言葉に詰まる次官に、栗夫は続けた。
「それに、レベル1と2については、途中までの動画が、海外の動画サイトで公開されているんだろ、それも、いずれだ。」
「、、、。」
「名前は、、、。そうだな。クリスタルハンター、で、いいだろ。まぁ、ハンター、だな。」
「、、、。」
「明日からだ。」
「わかりました。」
次官は、礼をすると部屋を後にし、栗夫は、またもや、ソファーにもたれた。
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