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向日葵6

「私はね、自分の能力が嫌い」

「………」


 ヒマリちゃんからの第一声は自身の能力に対する嫌悪だった。

 私は別に驚かなかった。能力は素晴らしい、凄い物だと言う人は多くいる。実際に能力を駆使して偉大な功績を残した者や莫大な富をたった一人で築いた者もいる。私もそんな人を見ると能力という物を大きく感じるがふと現実を、足元を見てみると人生を能力に振り回されている人はたくさんいる。かく言う私もこの花を作り出す力のせいで苦い思い出がある。

 と、過去は一旦置いておこう。今はヒマリちゃんの次の言葉を待つ。


「今回の、その……修学旅行も私が吸血鬼だから、結局行けなくなっちゃった」

「行きたかったんだね、修学旅行…」

「…うん、元々友達と行動する予定だったんだけど、その子が部活で怪我しちゃって入院して行けなくなっちゃったんだ」

「それは、友達も残念だね」

「そーなの!この間お見舞いに行ったんだけど、ベッドの上暇すぎー!って文句言ってた」


 その友達のことを思い出してクスリと微笑んで、またその顔にほんの少しの影が落ちる。


「それで一人になっちゃった私にもう一人のよく話す子が声をかけてくれてたんだけど、その子は別のグループに居て、他の友達に私のこと紹介してくれてその時はいいよって言って貰たんだけど…」

「うまくいかなっかった?」

「うん……別の日に誘ってくれた友達とグループの人の会話聞いちゃって。誘ってくれた子は庇ってくれてたんだけど、急に入ってきて気に食わないとか、吸血鬼の力が怖いとか……あと、私がこの力を使って暴れてたって根も葉もない噂を信じてる子のいたかな………そんなことしてないのにね。それで、あー()()()って、おもっ…たんだ」

「………」


 ひどい。ヒマリちゃんのことをよく知りもしないで憶測でそんなことを陰で言えるなんて。私としては能力ずっとその他人の方が怖く感じる。

 私が憤りを感じながら、ヒマリちゃんの方を見ると寂しそうな悲しそうな、そんな感情が混ざった表情を浮かべていた。


『またか』


 今までどれだけその小さな体に傷を受けてきたのだろう。この子の傷は私が到底計り知れないほど深い。決して癒えることのない大きな傷。

 私は思った。純粋で優しいヒマリちゃんがそんなことで傷ついていいはずがないと。


「それで、修学旅行でそんなこと思われながら一緒に過ごすのとか、とっても気持ち悪いなって思って修学旅行行かないことを決めたの」

「私もそんなこと言われたら絶対に行かないかな」

「……あはは、そうだよね!」

「……っ」


 痛々しく見えるその笑顔はきっと何回も張り付けてきた笑顔なのだろう。


「でも、一番ショックだったのは入院してる友達に、私のせいで修学旅行不参加を決めさせちゃってごめんねって謝られたこと」

「それは」

「うん、その子のせいじゃない。怪我は仕方ないし、優しいその子に何度も助けてもらった。そんな友達に私は『私のせい』なんて言わせてしまった。この力はただの人が出来ないことを簡単にできる。お姉さんのこと助けられたのだって、この力があったからだし。」


 ヒマリちゃんはこれまで何度も自分の力と向き合ってきて、そのたびに力に裏切られてきた。強い力ほど見えない何かを怖がられる。そういった恐怖や疑念が理不尽に彼女のことを突き刺してきた。


「でも、いつもどこかで間違っちゃう。そんな自分がな、情けなくて……うぅ」


 ヒマリちゃんの赤い瞳から一粒の涙が零れ落ちる。私は思わずヒマリちゃんの頭と肩に手を添えて優しく引き寄せ抱きしめた。私との身長差でちょうど私の胸の中にヒマリちゃんが収まった。抱きしめられたヒマリちゃんは驚きで目を見開いて私の顔を見上げてくる。


「ヒマリちゃん、無理して笑わなくていいよ。悲しいときはその気持ちに嘘ついちゃダメ……」

「お姉…さん」


 初めて会った時の明るく天真爛漫なヒマリちゃんも、今のヒマリちゃんも両方本人でどちらも欠けては駄目な物だ。私はそんな彼女を零れ失わないように触れる腕に力を入れる。


「私は君と出会って時間は経ってない。まだまだ君のことを知らない。背負った能力の重みも全部は理解してあげられない。……でも、寄り添うことはできる」

「………」

「泣きたい時は胸を貸すし、笑いたい時は一緒に笑ってあげられる。君が望むならまたどこでも遊びに行こう」

「っ……う、うぁ」

「私も能力者ってだけで傷つけれた経験がある。そんな時、私の周りには支えてくれる人が沢山いたんだ。だから、今度はヒマリちゃんを支える人の中に私を加えて欲しいな」


 ヒマリちゃんは顔を下げて、私の胸の中で声を抑えて泣き始めた。私の胸がじんわりと温かくなるのを感じる。

 私はヒマリちゃんの頭を撫でながら、周りを見渡す。水族館に入場したのが比較的遅い時間だったこともあり、このエリアに居た数組のカップルは居なくなっていた。外からは閉館が近づくアナウンスが聞こえる。


「ヒマリちゃん、声抑えなくていいかも。もう誰もいないよ」

「うぅぅ、ぁああぁぁぁ」


 ヒマリちゃんの声が徐々に大きくなっていくとともに私の服を掴む力が強まっていくのを感じる。


(さて、ヒマリちゃんに私は何ができるんだろう………ん?)


 ライトアップされた揺蕩うクラゲの水槽。それを彩る季節の煌めきに私は一瞬にして引き込まれる。季節を映すパネルには吸い込まれそうな青空をキャンバスに柔らかなクラゲのような雲が浮かぶ。そんな空を爽やかな緑の額縁が風に揺れながら鮮やかに切り取る。一つ一つが鮮やかに輝く色たちをクラゲは包み込むように淡く柔らかな黄色に光る。

 季節は夏。


「…ヒマリちゃん」


 私は自分の手に集中する。いつもお客さんに小さな幸せを添えるように。そうして私は手に一輪の造花を咲かせる。

 私の呼びかけにヒマリちゃんは反応して、ゆっくりと顔を上げて私の胸から離れる。そうして私の手に咲く一輪の造花をその赤い瞳が写す。


「………こ、れは」

「向日葵」


 私から向日葵を受け取って胸の前で造花を握るヒマリちゃん。透き通るような白髪をバックに綺麗な向日葵は良く映える。


「花言葉は愛情や尊敬、友情。それからあなたを見つめる」

「!」

「最後の意味はプロポーズなんかで渡される意味だけど、私は友達や大事な人にだって送ってもいいと思う」

「お姉さんは私にこの花が似合うと思う?」

「うん、もちろん」

「……あはは、ありがとう!」


 そして、大きな向日葵が咲く。

誤字いっぱいあったので直しました

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