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向日葵3

 時刻は六時を回った。ようやく雨が上がったが、太陽は完全に沈み光だけが西の空だけをオレンジ色に染めている。辺りはかなり暗くなっている。


「ヒマリちゃん。雨あがったし、帰ろうか。送ってくよ?」

「……はーい」


 ヒマリちゃんに乾かした洗濯し乾かしたセーラー服に着替えてくるように促して、私は店の外で彼女を待つことにした。

 店の外で待つこの時間はいつもと違っていた。いつもは気にかけないありきたりなことが今の私にはまるで安物のビー玉を覗いて観る世界のように輝いて見えた。


「お姉さんお待たせー」

「はーい、じゃあ行こうか」

「なんだか空気がすっきりしてるね!」


 着替えてきたヒマリちゃんは私の横の並んで一緒に歩き出す。


「お姉さんはどんな力を持ってるの?」


 ヒマリちゃんは体を前に曲げて私の顔を覗き込んで話しかけてくる。ヒマリちゃんの顔が低くなりそれにつられて視線を落とす。ぼんやりと空を染める太陽の光と点滅する街灯が水たまりと湿ったコンクリートにそれぞれ姿を映す。


「私の能力はこうやって造花を作り出すことが出来るんだよ」

「わあ、すごいすごい!こんな素敵な能力を持ってる人初めて会ったよ」


 私は掌にピンクのチューリップを作り出す。マジックショーの最初の掴みのような一連の動作を見たヒマリはチューリップを手に取って笑顔がはじける。

 私は一瞬キョトンとしてしまいにこにことチューリップを眺めるヒマリちゃんから顔を背けた。


「いやいや、そんなすごい力じゃないからね?すごいと言ったらヒマリちゃんの吸血鬼の力の方がすごいでしょ。派手だし、あんなふうに空を飛ぶ人なんて初めて見たよ」

「んーん、あんまり人と違い過ぎる力を持っている人はそれだけで周りから浮いてちゃう。私は大丈夫だけど、それに耐えられない人もいるくらい」


 私は大丈夫という言葉は少なくとも彼女もそのような環境に身を投じているから出た言葉なのだろう。

そしてそんな彼女の近くには耐えられなかった人がいた。

 今の社会で能力者が受け入れられつつあるがそれだって地域差がある。私が以前旅をした地域は私が能力者であることが分かった瞬間、どこか人から向けられる視線が怪訝なものに変わった記憶がある


「そうかもしれないね。こんな地味な力でも普通の人とはかけ離れているからね。人からの目は少なからず分かる気がするよ」

「そうそう、未来では受け入れられているかもしれないし、みんな何かしらの力を持つかもしれない。でもそれは今じゃないから」


 そこで会話がパタッと途絶えた。別に話そうと思えばいくらでも話せるのだが今は自分たちが置かれる立場をゆっくりと咀嚼したかった。


 ある程度歩いたところでヒマリちゃんが立ち止まった。


「お姉さん、もうここまででいいよ。家もすぐ近くだし」

「いや、このまま送るよ。まだヒマリちゃんと話していたいし」

「………あはは、じゃあもう少しこのまま。でもちょっと嫌なもの見せちゃうかも知れないよ?」


 おっと、もしかしたら踏み込み過ぎてしまったようだ。それでも私は何と言うかこの子の事をもっと知りたいと思ってしまった。


「いや、気にしないよ。私は蛇でも鬼でも何でも出てきていいよ」

「えーー私の事なんだと思っているのかな!」

「ははは」


 不思議と居心地の悪くないヒマリちゃんとの時間。いつの間にか辺りも暗くなり、私の知らない道を歩いている。


「ここです!」


 ヒマリちゃんがある家の前で立ち止まる。


「そっか。じゃあここでお別れだね」

「はい!…あのまた、お姉さんに会いに行ってもいいですか?」


 何だそんなことか。改めて向き直って緊張したような面持ちだからこちらも緊張してしまったじゃないか。


「全然いいよ。むしろ」


 言い終わる前にヒマリちゃんの家のドアが勢いよく開かれて、中から焦ったように顔を歪ませた女性が飛び出してきた。


「ヒマリッ、ヒマリッ!あなたが帰ってこないって言うからお母さん心配で…」

「うぶっ、お、お母さん私は大丈夫だから」


 存在を確かめるようにお母さんと呼ばれた人物がヒマリちゃんを抱きしめる。ヒマリちゃんは母親の腕から顔を出し宥めるように背中をさする。

 なるほど、ヒマリちゃんが言っていた「嫌なこと」とはこれの事か。見たところかなり精神的に不安定な人なのだろう。


「えーっと、お姉さん。母の事でちょっと会わせづらかったというか………」

「うん、大丈夫。気にしないで、それよりも私も無神経に踏み込んでしまって申し訳ない」

「ああ、ヒマリの面倒を見てくださって、ありがとうございます!」

「いえ、私もヒマリさんに助けてもらって、それに人が来ないような小さなお店をやっているので!暇だったので!」

「いえいえ、そんなご自身でお店を切り盛りするなんてすばらしいです」

「いえいえいえ、お恥ずかしながら__」

「いえいえいえいえ」


 てっきり娘のことが大事なあまりに周りが全て敵に見える類の人間かと思ったが、心に余裕がないだけで良識はあるんだな。てか何だこれ、ヒマリちゃんの母親の勢いがすごすぎて上手く日本語を組み立てられずにとっさに浮かんだ日本語言ってるみたいになってるけど。


「ふふ」


 ん?


「ちょ、ふっ、お母さん。お姉さんが、ふふふ、困ってるからやめ、ぶっあはっは!」


 こらこらヒマリちゃん?確かにテンパりまくった私はさぞかし面白いのだろうけど、そこまで噴き出すことは無いと思うんだよね。


 その後、なんとか母親を落ち着かせて私は帰路に着く。

 ヒマリちゃんとは連絡先を交換してまた会うことを約束した。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

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