コルデー回想8
感極まっていると、「会えなくても友達たよ。でも、今日はもう帰ろうか。あっ、!」
わたしの未練を宥め、立ち上がりかけていた白雪は小さく慌てた悲鳴を上げて座わり込む。背中で隠れるようにからだを縮める。
「どうしたの?」
「スポーツ用品店名前にいる黒い服の太った男わかる?」
視線の先を辿って男を見る。いかについ身なりの男がダボっとしたパンツのポケットに手を突っ込んで立っている。
「うん。」
「話していて気づかれたくないから、メッセージする。」
手の中のスマホが震えて、メッセージを受信する。
ー ちょっと前に、ここで、あいつに当たられて因縁つけられて怪我したんだ ー
文章を読むわたしを不安で揺れる瞳が揺れる。
「えっ。」
驚きながら返信を返す。
ー 白雪がなにもしていないのに? ー
ー 普通に歩いていたら、前から凄い勢いでふつかってきて、尻餅ついてしまったの。そしたら、どこに目をつけてるって胸を蹴られて、びっくりして泣いていたら、うるさいって怒鳴ってどっか行った。 ー
ー ひどい、誰も助けてくれないかんじ? ー
ー 男がいなくなってから、色々な人が来て、親、呼んで一緒に帰ったけど、目をつけられると厄介な奴だから、見つけたら逃げろって。 ー
一気に怒りが頂点まで高まる。早く、どこかに行ってくれないかな、と、メッセージしてくる白雪が可哀想で、遭遇するたびに小さくなって逃げ回ることを考えると目の前の景色が赤く見えるほどイライラする。
友達の苦しみを返してもいいんじゃない?
痛い思いをして、歩き回らなくなればいい。
この世から消えてしまえば喜ぶ人は多いはずだ。
わたしは、白雪の受けた苦痛の仕返しと、歪んだ正義感と、これまでの興奮状態が相まって、俗に言う、無敵の人になっていた。男はこちらに近づいてくる。横のエスカレーターで下の階へ行くつもりらしい。
闘志が燃え上がり、掌の汗を握るゆらりと立ち上がる耳元で、髪飾りが鳴る。訝し気にわたしをみてくる白雪に、ちょっと待ってて、と伝えるか否や男の視界を避けて回り込むように急ぐ。白雪の静止するように開いた口が頭に残った。