麝香豌豆の香る宮廷―― くちづけ②
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コンダー先生からのクリスマスカードには、宿木が描かれていた。先生が描いたのだ。素朴な味わいがあった。
クリスマスカードを、穂波は空の花瓶に立てかけた。
ランプ。筆立て。インク壺。原稿用紙の束。空の花瓶。クリスマスカード。机の上にあるのは、それだけだった。
みさ緒の写真ならまだ何枚も手箱に納めて保管してある。手箱は本棚の上段にある。みさ緒の写真をもう一度ランプと筆立てのあいだに飾ることは、できる。
けれど、自分はそうしない。穂波にはわかっていた。
小さく息をはいて椅子に身を沈めた。ひとしきり泣いた。
午後、京橋へ出た。
師走の賑わいのなか、いくつかの店を覗いた。新しい写真立てを買い求めた。そのあと、穂波は斎門商会へ足を運んだ。確かめたいことがあった。
悪魔は事務室の奥の厨房にいた。香しい熱気のなか、コーヒー豆を焙煎しているところだった。帝への献上品かもしれない。
「斎門、話がある」
「ちょっと待て」
「ずっと気になっていることがある」
「だから、待て。あと少しだ」
斎門は回転式の焙煎器を動かす手を休めずにいる。作業に没頭しているようだ。
「はっきりさせたいんだ」
「待ってろ! 俺の集中を妨げるな。これは極上品に仕上げたい」
「コーヒー豆の焙煎なんて、おまえはちょちょいとやっつけるんだと思ってたが。お得意の、指を一振り、で」
「ちょちょい? 侮辱するな。心を籠めたいんだ、俺は」
「おまえに心があるとは知らなかった。ならば、彦乃と私にも心があると承知しているはずだが」
「何をごちゃごちゃ言ってる!」
悪魔はブチ切れた。両手を振り回す。コーヒー豆は焙煎器ごと宙に消えた。すばらしい香りだけを残して。
「くそっ! 用件は何だ?」
指を一振りして、どこからともなく火のついた葉巻を取り出すと、斎門は調理テーブルにもたれかかった。
穂波は言った。
「彦乃は子持ちの三十路男から逃げ出さずにいる」
「彦乃はおまえに惚れてるからな」
「そう……なのか?」
「寝ぼけるな。俺に何度も同じことを言わせるな」
「私も彼女が――彼女が――」
「何だ?」
「好きだ」
「だろうとも」
「いつから好きなんだ?」
近眼の人間が眼鏡をかけずに遠くを見るときのように、斎門は目を細めた。わずかに首を傾げ、
「妙な質問だな」
「言ってくれ。術、なんだろう?」
「術?」
「Healer同士がどうのこうのという話をしていたな、おまえは。それが何を意味するか、今も私にはわからない。彦乃と私を夫婦にして、おまえの目の届くところに確保しておくことが、おまえには都合がいい。わかっているのはそれだけだ。おまえはその都合のために彦乃と私に一種の催眠術をかけた。彦乃と私は催眠状態にある。互いのあいだにある感情はほんものじゃない。そうなんだろう?」




