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菫色の瞳―― 降霊会①

 渋い顔をした父親から許可が下りた。


 土曜日の午後――。

 花扇子爵邸の母屋は重厚な和風建築ながら、応接間は洗練された雰囲気の洋室だった。そこで彦乃は、極上の玉露と思われる緑茶と和菓子のもてなしを受けつつ、千賀子の母親である子爵夫人と、次兄の千麿せんまろ氏に紹介された。


「父は北海道へ視察旅行中で、上の兄は同窓会のようなものに出かけておりますの。上の兄も、帰ってきましたら、ご紹介いたしますわね。夜中前に帰ってきたら、の話ですけれど」

「それに、酔っぱらっていなければ、の話」と千麿氏。


「離れの洋館はその兄が設計したものですの。素人が手掛けたので、ちょっぴり風変りな建物になってしまいましたのよ」

「独創的、と言っておあげなさいな」

 子爵夫人が笑った。頬の豊かな丸顔の貴婦人で、千麿氏も千賀子も、どうやら母親似らしい。

「では後ほど」

 子爵夫人が席を外し、残る三人で離れへ移動することになった。


 三人で庭を歩いているとき、千麿氏が彦乃に話しかけてきた。

「よろしければ、お誕生日を伺ってもよろしいでしょうか?」

「はい……?」

「星占いには必須なんですよ。誕生時のホロスコープを知っておく必要があります。ご誕生の正確な時刻もわかれば、かなり正確な占いが可能になります。何を占ってさしあげましょうか?」


 どう応じたものか、めんくらってしまう。彦乃が返答に窮していると、

「千麿お兄さまったら! 初対面のレディを質問責めにするなんて」

「あっ、失礼いたしました!」

「いえ……」

 千麿氏を恐縮させてしまって、彦乃は申し訳ないような気持ちになった。


 やがて、今夜泊めてもらう予定の洋館の前に出た。

 建物は煉瓦造りで、想像していたものより大きくて立派だ。

 西洋のお伽話の雰囲気。蔵田瑠璃子の感想は的外れではない。二面の壁が作る角のすべてに色の薄い化粧煉瓦が嵌めこまれ、独特のアクセントになっている。二階のバルコニーには、尖り屋根の載った八角形の塔が(そび)えている。――穂波さまは、この洋館からどんな印象をお受けになったかしら? 


 洋館のホールへ招じ入れられる。

 ホールの室内装飾は、これも瑠璃子から聞かされていたとおり、ありふれてはいなかった。


 白と墨色の大理石のタイルが市松模様に敷きつめられた床。壁は、床から三尺ばかりが化粧板で、そこから天井までの部分には、何かうっすらと模様の浮かぶ亜麻色の壁紙が張られている。特注の壁紙だろうか? よく見ると、樹木や神殿らしきものや一角獣とかいう西洋のシンボルが配置されているようだった。さらに、仰向くと、円天井には西洋のさまざまな星座が描かれていて、豪華なシャンデリアが吊り下げられている。


「内装も上の兄が考えたものですけれど、ちょっと遊び過ぎですわね。飽きが来ますわ、いずれ」

 千賀子が笑った。さらに、

「この離れにも厨房と食堂がありますの。お食事もこちらで召し上がっていただきますわ。今日は、ささやかな晩餐をご用意いたしますわね」


 晩餐! 彦乃は子爵家の人々のもてなしに感謝せずにはいられなかった。

「お心づかい、いたみいります」

「格式ばっては、いやですわ。本当にささやかなものですの」

「先に、図書室や撞球室などへご案内いたしましょうか?」

 千麿氏が言ってくれたが、

「それより、あちらでゆっくりしましょう。居間で。あたくしが占ってさしあげるわ」

「占いなら、千賀子より私のほうが――」

 千賀子は兄のことばを無視して、彦乃の手を引っ張った。



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