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9.怒れるキメラ

 谷底には霧が立ち込めていた。

 しかし、ユニコーンであるオスカーは、しっかりと危険な気配を感じ取っている。キメラの異物感はオスカー自身が思っていたよりも強烈だった。

「この雰囲気、何て表現したらいいのかな?」

「酷い臭いですね」

『ええ、精巧な美術品のコレクションの中に、独りよがりな素人作品を混ぜたみたい』

 アンジェリカの表現に、オスカーは収まりの良さを感じた。確かに自然界に存在するものは、どれも神様が作った芸術品と言える。その中に、どこの馬の骨かもわからない自称神の安っぽいキメラが混じったら、違和感が出るのも当然である。


 間もなく、先頭にいる傭兵が言った。

「神父さん、この先です」

「なるほど。嫌な臭いを感じますね。皆さん、警戒してください」

「はい」

 オスカーは苦笑しながら、とっくの昔にキメラには気づかれている。と考えていた。

 木や岩には、縄張りを主張する爪痕やマーキングがあり、人間たちが気が付くはるか前からキメラのテリトリーに踏み込んでいることを告げている。

「キメラのテリトリーの広さ。まるで子育て中の猛獣のようですね」

 マベリックが言うと、オスカーも頷いた。

「うん、臭いもそんな感じだよね」

『野生育ちでもないのによく気づいたね2人とも』

 アンジェリカが不思議そうに言うと、マベリックは笑った。

「まあ、我らは鼻だけは利きますからね」

『便利ね』


 傭兵たちは、木陰に隠れながら川原を覗き見た。

「あれ……キメラがいない」

「そんなバカな」

 隊長風の傭兵が言った。

「もっとよく探すんだ」

 混乱する人間たちとは対照的に、オスカーとマベリックはしっかりと別の方向を見ていた。

「オスカー様、これは……」

「うん、どうやらキメラさん、しっかりと僕らを見ているみたいだね」

『え? こんなに距離を取っているのに……』

「マベリック、下がって。今回のは臭いが強烈すぎる」

「ご武運を」

 マベリックが藪の中に姿を消すと同時に、キメラは木を伝ってオスカーに向かってきた。

 その姿はサルとクマを足して2で割ったような独特の姿である。

「速い……あまり近づきたくないな」

 人間たちは何が起こっているのかわかっていない様子だが、オスカーが炎弾を4発放つと、戦闘が始まったことを理解したようだ。

 キメラクマザルの腕に1発、腹に2発、ホーミングして後頭部に1発命中すると、クマザルは目を光らせてオスカーに殴りかかってきた。

「ヴォォォオ!」

 オスカーは角を光らせると、クマザルは角を避けて着地し、近くにあった岩を持ち上げオスカーに投げつけてきた。オスカーは木陰に隠れて回避すると、今度は風刃を放った。

 クマザルも近くのある岩を投げつけ、風刃は岩を切り裂くと威力がなくなり、クマザルとオスカーは睨み合った。

 オスカーは言った。

「僕なんかに構ってる場合? 人間たちが君の子供たちを狙ってるよ」

 キメラクマザルは口惜しそうにオスカーを睨むと、木を登ってオスカーの前から姿を消していく。

『どうするの、あれ?』

 アンジェリカの問いかけにオスカーは答えた。

「あまり人前には出たくないけど、あの生き物が増えるのは……それ以上に厄介だね」


 人間たちはと言えば、谷底で小さなキメラクマザル2頭と戦っていた。

 僧兵が投射魔法を放ち、傭兵の弓使いも狙いを定めるが、クマザルの子供たちは巧みに木陰に隠れて攻撃を回避し、投石で少しずつ冒険者や僧兵の数を減らしていく。

「があ!」

「ぎゃあ!」

「ひるむな、もっとよく狙え!」

「盾役、ちゃんとガードして!」

「くそ、奴らはどこだ!?」

 盾持ちが怒鳴った直後に、先ほどオスカーが戦っていた親クマザルが飛び降りた。

「ごあ!?」

「がは……」

 盾持ち2人を踏みつけると、親クマザルは牙を見せた。

「やれ、槍衾!」

 冒険者たちは一斉に長槍を突き出した。数本がクマザルの体に突き刺さるが、クマザルは突き刺さった槍を引き抜き、一振りで向かってきた戦士3人を薙ぎ払った。

「魔導士隊!」

 神父が叫ぶと、僧兵の魔導士が一斉に親クマザルに向けて魔法を放った。

 大半がクマザルに命中するも、クマザルは嗤っていた。

「ソノ程度カ、先ホドノ一角獣ニ比ベレバ、大シタコトナイナ」

 その直後に、クマザルの子供2頭が前衛の戦士を殴り倒して部隊後方に乱入してきた。軽戦士たちもクマザルの子供を追いかけ、人間側の陣形はメチャクチャになっていく。

「体勢を、体勢を立て直せ!」

「ウルサイ」

 クマザルの子供は、傭兵隊長を殴り飛ばすと軽戦士を蹴飛ばし、僧兵の支援術士を睨んだ。

「……っ!!」

「ヤワラカクテ、オイシソウ」

「ひい!」

 クマザルの子供が牙をむき出しにして、支援術士に噛みつこうとしたとき、3発の炎弾が木陰から飛び出し、クマザルの眉間に2発、後頭部に1発が命中した。

「あごば!?」

 もう片方のクマザルの子供は、怒りを露にした。

「コノ、うまァ!」

 勢いよく飛び掛かるも、オスカーは風刃を放ちクマザルの子供を真っ二つに切り裂く。

 親クマザルは先ほどの子供以上に怒りを露にした。

「キサマ……」

「お前たちみたいなのが増えると面倒そうなのでね」

 親クマザルが向かってきたが、オスカーは周囲に3発の炎弾を実体化した。

 クマザルが防御しながら向かってくる。オスカーはしっかりと角を光らせながら、先ほどの3発の炎弾を発射した。


 最初の1発はクマザルの眉間へと向かったが、クマザルは嗤った。正確すぎる攻撃だから読むのも容易いと思っているのだろう。

 ところが、まず命中したのは風刃だった。耳を傷つけられたクマザルは眉間に炎弾を受けた。

「がは!?」

 次に命中したのは風刃だ。喉を掠めてわずかに血が出た。

 3発目は炎弾だ。後頭部に命中しクマザルは呻いた。

 4発目も炎弾である。再びクマザルの眉間に命中しクマザルの視界を奪った。


 ゆっくりとクマザルが目を開けたとき、オスカーの光り輝く角が目前まで迫っていた。

 角が胸に付き立てると、オスカーの脳裏にクマザルの記憶が流れ込んでくる。


――そうか。君は……見世物小屋で働いていたのか

 オスカーが思念だけで語り掛けると、クマザルの元の姿であるクマとサルに分かれていた。

――そうさ。これが……ユニコーンの力か

――すげーな

 オスカーはしっかりとクマとサルを見た。

――どうして、どうして君たちはこんな姿に?


 まず、答えたのは熊だった。

――僕たちは自由が欲しかった

――退屈な檻の中で一生を過ごすのではなく、自分の足で生きたかったんだ

――自分たちの意志で配偶者を探して、家庭を持ちたかった!


 おぞましい意識を感じた。

――あなたたちの夢。実におもしろいです

 オスカーは息を呑んだ。前に覚えのある、どす黒い思念である。

 記憶の中のクマとサルは、嬉々とした様子で答えていた。


――そう思うかい?

――ええ

――わかってくれる奴もいるんだね!

――ここまであなたたちのことを知ったのです。わたくしが協力しないわけにはいきませんね

 オスカーが目を細めると、目の前で話をしているクマとサルはしっかりとオスカーを見つめた。


――僕たちがしたことは自然の摂理に反することだ。それはわかってる

――だけど後悔はしていない。僕たちは自由だった。たとえそれがかりそめだったとしても……


 オスカーの意志が戻ると、クマザルの身に亀裂が走っていた。

 そのあちこちが消滅し、元の姿に戻ろうとしている。

 オスカーは角を引き抜くと、崩れ落ちるクマザルの前で十字を切った。するとクマとサルの肉体は消滅し、土へと還っていった。

 皆さんこんにちは。貴族のボン・クラデスです。

 実は今さっき、オリヴァー牧場が賊の攻撃を受けたことを知りました。はぁ……明日の13時にオスカー君を迎えに行く予定だったんだけどなぁ。


 ああ、愚痴を言っている場合ではありませんね。

 下の欄にある【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】から本作品への応援をよろしくお願いいたします。

 オスカーは障害走馬になるべきだと思われた方は☆1つを、

 オスカーは一流のユニコーンになるべきだと思われた方は☆3つを、

 オスカーは、両方の分野で最高峰の馬になるべきだと思われた方は☆5つを、よろしくお願いいたします。


 ところで、私の次の出番は……一体いつになるのだろう……?

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